事件〜男が乗り込んできた①
◇◇◇玲奈がゆく◇◇◇
ロードワークはサッカーグラウンドの柵の外を3周走る。
慣れたらもう一周増えるらしい。
ほとんどの1年生はスポーツ初心者だ。
玲奈だって、こんなに走ったことない。
そんな時
サッカー部員の数人が、ヘロヘロになっている弓道部員をからかって笑う。
負けるものか!
今日は天気がいいので、外での練習だ。
ロードワークが終わったら、ボロボロ練習場の前で体幹トレーニングだ。
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ある日の部活帰り、家に帰ると母はまだ帰って来ていなかった。
「今日は少し残業です。
昨日の残りのカレーライスがあるから」
とメールが入っていた。
お姉さんが、すでに帰って来ていて、冷蔵庫からオレンジジュースを出していた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
相変わらず、元気はない。
「最近、ソウタ君来ないですね」
何気に聞いてしまった。
「部活あるからね」
「何部なんですか?」
「サッカー部だよ」
なんとなく機嫌が悪くなってしまった。
そのまま部屋に帰っていくお姉さん。
その時、チャイムが鳴った。
私が出てしまった。
お姉さんの友達と言われて、ドアを開けてしまった。
私服の若い男の人が入ってきて、
「摩耶!」とお姉さんを呼んだ。
お姉さんは、慌てて部屋から出て来て、
「もう来ないで!帰って!」
と怒鳴った。
そして、その男を玄関から押し出そうとしている。
男が、お姉さんの腕を掴んで、
「いいから話を聞けよ」
と言った。
お姉さんが、「痛い」「離せ」と叫んだ。
私は、お姉さんを助けなければと思った。
お姉さんの部屋の前に置きっ放しになっていた段ボール箱から、飛び出していた棒のような物を掴んだ。
そして、私はその棒のような物を振りかぶって、こう言った。
「お姉さんを離せ!」
バドミントンのラケットだった。