あのお姉さんに元気がない
◇◇◇玲奈がゆく◇◇◇
軽い気持ちで入部してきた奴らは、皆ここで脱落するんだよ。淘汰されたと思って諦めよう。
安西先輩の言葉に、玲奈はハッとした。
自分はどうなんだろう?
弓道部を救いたいという気持ちが先行している。
弓道のことは、まだ何も知らない。
でも、途中で諦めたくなんかない。
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毎日クタクタになって家に帰る。
マネージャーの仕事を覚えるだけでもシンドい。
なのに、やったこともないトレーニング。
上田先輩の爽やかなエールに騙されながら、毎日乗り越えている。
私、本当に続けられるのかしら。
N高は進学校のせいなのか、どの部活も週に一回以上のお休みを取らなければならない。
弓道部は、週2回のお休みがある。
今は、それだけが救いだ。
たしかに、お勉強が疎かになっている。
もう少し慣れれば大丈夫とは、田中先輩は言うけれど。
ある朝、私より先にお姉さんは家を出た。
数分後、私が地下鉄駅に向かって歩いていると、20メートル程前をお姉さんが歩いていた。
人混みにいても目立つので、すぐわかった。
私は、その時初めて気が付いた。
お姉さんは、左足の膝に黒いサポーターを着けている。
いつからだろう?
そういえば、時々ぎこちない歩き方をしていたかもしれない。
どうして、私は今まで気がつかなかったんだろう?
自分のことで精一杯だった。
この頃から、お姉さんは様子がおかしい。
あのお姉さんに、元気がない。
そして、ひっきりなしに電話がかかってきている。
私が部活から帰ってくると、必ず誰かが来ている。
入れ代わり立ち代わり。
仲良しの優香さんやツムギ君やソウタ君ではなく、私の知らない人達だ。
夕ご飯の時間にさえ、誰かが尋ねてくる。
時に、お姉さんは追い返したりする。