終わる人生、2度目の転生
どうも、眠れぬ森です。
超スローペースで書こうと思っている作品です。
よろしくお願いします。
「入れ」
そう言われながら開けられた扉の先は、カーテンで仕切られた以外何も無い部屋だった。
(ようやくか…)
この部屋がどこなのか、なんのために連れてこられたのかはすでに分かっていた。これから行われる事についての説明も、半ば聞き流しながらため息をつく。
「最後に何か言うことはあるか?」
一通りの説明を終えたあと、こちらを見ながら問いかける。この部屋に連れてこられる前に散々手紙に書いたのに、まだ聞くのかと思いうんざりしながら答える。
「特には無いが、書いた手紙はちゃんと一緒に燃やしてくれよ?あんた達も、職務とはいえ俺にかまう時間が勿体ないだろ?」
そう言うと、少し眉を寄せながら 準備を と声をかける。後ろに待機していた2人が後ろ手に手錠を、頭には袋のようなものを被せてくる。そして首に感じる縄の感触。
そう、今から俺の死刑が執行されようとしている。この世に未練が無いと言えば嘘になるが、自分のしてきた事を考えれば当然の結末だと言えるだろう。
唯一の生きる意味だった者を失った俺には、もう自分の事などどうでも良く感じた。そのせいなのか、これから死ぬことへの不安は一切感じなかった。
(本当にクソッタレな人生だったな。)
そう思った瞬間、俺の立っていた地面が開いたのを感じた。一瞬の浮遊感の後、俺の意識は闇の中へ落ちていった。
◇
とあるビルの屋上で煙草を吸っている50代くらいの男が立っていた。十二月も半ばに差し掛かり、冷たい風が頬を撫でるが、その男は煙草を咥えたまま目を閉じて金網に背を預けていた。
「渡邉警部、ここに居たのですね。」
すると、扉が開く音が聞こえると同時にこちらへ声をかけてきた人物が現れた。メガネをかけてスーツを着た30代くらいの男性だった。
「片桐か、ここに来るなんて珍しいな。」
そう声をかけると、俺の前へと歩み寄ってきた片桐にポケットから取り出した煙草の箱から一本取り出して渡そうとする。しかし、片桐はそれを手で制すると、真剣な顔で話し始めた。
「警部、先程死刑の執行が完了したとの連絡がありました。それにより、捜査本部も解散との事です。」
「……そうか。」
オレはポツリとそう呟くと、短くなった煙草を携帯灰皿へ押し込み、片桐に渡そうとした煙草を咥えて火をつけた。
大きく1口吸った後、空へ向かって煙を吐く。すると、空から雪が落ちてくるのが見えた。それを見ながら、片桐を見て言った。
「お前と初めて会ったのも、こんな雪の日だったな。それはそうと、今回の事件の捜査を今まで手伝ってくれてありがとう。本部も解散した事だし、お前も元の職務に戻っていいぞ。」
「こちらこそ、大変貴重な経験を積ませていただきました。ありがとうございます、では失礼致します。」
オレの言葉に片桐は敬礼をしながら答えると、足早に屋上を後にした。そんな片桐の背中を見送りつつ、もう一度深く煙草を吸い込んで吐き出すと、その煙に1人の男の顔が浮かんだように見えた。
「|東雲 迅『しののめ じん』、お前は生き方を間違えたよな……」
そう呟くと、再び煙草を1口吸うと空を見上げた。その空は灰色の雲に覆われ、ちらつく雪の量が段々と増えてきていた。それはまるで、オレが迅を逮捕した時と同じ空模様だった。
短くなった2本目の煙草を足元に落として靴で火を揉み消しながら、誰も居ない屋上で呟く。
「何故お前はあんな事をしたんだ。何故お前は道を踏み外したんだ。何故お前は……あんなにも人を殺したんだ。」
顔を顰めながら渡邉の口から出た言葉は、冷たい風と共に都会の喧騒へと飲まれて行ったのだった。
◇
目を開くと、そこは何も無い真っ白な世界一だった。辺りを見回しても、地平線まで続くのは白だけ。唯一、俺の足元に自分の影が黒く写っていた。
普通の人間ならば、突然こんな所に現れたら混乱してしまうことだろう。しかし、俺は冷静だった。何故なら、俺はこの場所を知っているからだ。
『ようこそ、裁きの間へ。』
すると、突然どこからともなく女の声が響いてきた。視線を上に向けると、白と黒のドレスを纏った女が浮いていた。
『ここは死んだ者の来世を決める裁きの間、そして私の名前は――――』
「裁きの神エルメスタ、だろ?」
話を続ける女に向かって、声を被せるようにそう言った。すると、その女は驚きの表情でこちらを見て言った。
『な、何故貴方がわたしの名を!?』
「ははっ、神でもそんな表情をするのか。意外だな。」
エルメスタの表情に俺は笑いを堪えられずにそう言った。それが気に食わなかったのか、エルメスタは怒りの表情で問いかけてきた。
『貴方は一体何者ですか!!何故神である私の名を知っているのですか!!』
怒気を含んだ声で叫ぶエルメスタに、俺は溜息を吐きながら答えた。
「これを見れば、分かるだろ?」
そう言いながら俺は両手を背中へと動かした。そして何も無いはずの場所を手で握りながら言った。
「出て来やがれ、グラディウスにグラトニー。」
すると、俺の背中からバチバチと閃光のような音と共に、2本の両刃の剣が姿を現し始めた。それをゆっくりと引き抜くと、エルメスタへと見せつけて言った。
「これを見ても、俺が誰か分からないのか?」
『ま、まさか……神剣に魔剣!?まさか貴方、東雲 迅ですか!?』
「そのまさかだよ。アンタにどっかの異世界に転生させられて、その先で勇者としてこき使われた挙句、元の世界に無理やり戻された東雲 迅だ。」
驚愕の表情に染まりながらそう言うエルメスタを見ながら、ニヤリと笑って答える。
『どうして貴方がここに……いや、そんな事よりも何故神剣と魔剣がここに……確かに力を奪ってから戻したはずなのに……』
顔色を真っ青にしながらブツブツと呟くエルメスタ。そんな姿に溜息をつくと、俺はグラディウスとグラトニーを構えてエルメスタへと飛びかかった。
『っ!?』
「知ってるだろ?神剣ってのは神をも貫く剣、魔剣ってのは神域をも滅ぼすけんだ。」
首筋に剣を当てられたエルメスタは息を飲んだ。しかし流石は神だ、こちらを睨みつけながら問いかけてきた。
『……何が望みですか。』
「俺をもう一度レオンとして転生させろ。アンタのせいでやり直したい事が山ほどある。」
『なっ!?それは出来ません、貴方は元の世界で多数の罪を犯しました!!それに、1度目と同じ人物への転生は禁じられています!!』
「なら、俺はどうなる予定だったんだ?」
エルメスタの言葉に、俺は待ってましたとばかりに答えた。しかし、彼女は焦燥に顔を顰めながらそう叫んだ。それを見て俺はグラディウスを彼女の首筋に少し食い込ませながら問いかけた。
『貴方は元の世界で15人もの人間を殺めました。これは重罪として裁かれ、来世ではスラム街の孤児として転生予定でした。もちろん、貴方の救った世界とは別の世界のです。』
「なるほど、そりゃ俺に相応しい最悪な来世だな。」
『分かって頂けましたか?これは覆すことが出来ない事です。』
首筋に神剣を当てられているのにも関わらず、エルメスタは強気な口調でそう言った。だが、そんなものはそっちの都合だ。
「やれ、グラトニー。」
『なっ!?』
俺がそう言うと、魔剣であるグラトニーから黒い瘴気が溢れ出し、真っ白な世界を侵食し始めた。
『貴方、自分が何をやっているのか分かっているのですか!!』
そう叫ぶエルメスタに、自分の中で何かが冷める感覚がした。そして、俺は何度目か分からない溜息をつきながら言った。
「そもそも、俺が人を殺したのはアンタら神のせいだ。知ってるだろ、魔剣は血を吸わないと持ち主を殺す。それを知ってて元の世界に戻した訳じゃないよな?なら、その責任はアンタが取るべきだ。」
『それは……』
俺の言葉にエルメスタは苦渋の表情を浮かべる。それを見て、俺はゆっくりと彼女を睨みつけて言った。
「出来ないならそれでもいい。アンタの首を跳ねて、この世界を侵食するだけだ。」
『くっ……』
エルメスタは首筋に添えられたグラディウスとグラトニーを一瞥すると、諦めたような表情で言った。
『私の負けです。ここで消滅させられるのは嫌ですからね。分かりました、ペナルティーを承知で貴方を再びレオンとして転生させます。』
「本当だな?」
『もちろんです、神は嘘をつきません!』
堂々と胸を張るエルメスタに疑いの目を向けながらグラディウスとグラトニーをしまうと、俺の体がゆっくりと薄れ始めた。転生が始まったのだ。
『あ、それから。』
半分ほど体が薄れた時、エルメスタは思い出したかのように俺に言った。
『今回の件でペナルティーとして私も貴方と同じ世界へ堕とされてしまいますので、私のお世話もよろしくお願いしますね。』
「は?おい、それは聞いてないぞ!!」
突然の事に俺は再びエルメスタへ飛びかかろうとしたのだが、それよりも早く俺の視界は真っ白に染まっていったのだった。
ありがとうございました。
次回はいつになる事やら…
こっちはちびちび書くので忘れた頃に次の話は投稿されると思いたい……