第29話 久しぶりの来店は大歓迎でした
「まぁ平気なのではないでしょうか? ルールさえ守れるならば、ですが」
「えっ、そんな軽いの!?」
まさか現美姉さんもが旅館えるぷりやに来てしまったなんて!
これは多分僕のせいだろう。
姉さんに襲われた時、ふとエルプリヤさんを思い浮かべてしまったから。
いや、彼女だけじゃない。
ピーニャさんやメーリェさん、レミフィさんやアリムさんも。
まるで走馬灯のように彼女達の顔が浮かんでしまって――
「それで本日はいかがなさいましょう?」
「ここぉ、何のお店ぇ~?」
「ここは旅館えるぷりや。温泉と料理が楽しい、憩いのお宿となっております」
「じゃあ泊まるぅ~!」
「はい、それでは二名様ご案内~!」
「待っていきなり決めないで!? あと相部屋にしないで!」
でもそんな事を振り返っている間に姉さんがすべて決めてしまった。
本当に待って! 僕を置いて行かないで!
……という訳でエルプリヤさんが気を利かせ、なんとか相部屋は避けられた。
ただし姉さんは酔っぱらっているので、ひとまずは僕が面倒を見る事に。
一応サポートでピーニャさんも付けてくれたし、多分大丈夫だろう。
「ネゴミミッ! かっわい~~~! なになに、ネコ娘!? すっごぉ~~~いっ!」
「やめるのでございますのですわよのだ! ゆめじーたすけーっ!」
「見ない間にしっかり調教されて語尾がよくわからなくなってる……まぁいいか」
「アーーーーーーッ!」
うん、いい感じ。
姉さんは無類の猫好きでもあるからね、よく効くと思ったんだ。
おかげでピーニャさんが抱き締められてとっても嬉しそう。(と思う事にした)
まぁ眼球飛び出しそうなくらいに締め付けられているけどきっと平気だろう。
だってロドンゲさんのお仕置きにも耐えられるくらいだしね。
「おっごおぉぉおおおおお!!!?!!?!?」
「それじゃあピーニャさん、姉さんをよろしくね」
ここはピーニャさんに任せ、浴衣を羽織って一旦エルプリヤさんの元へと向かう。
ちょっとばかし誤解が生まれそうだったので、正そうと思って。
もう四回目だからかな、玄関への道のりも自然と覚えてしまった。
まだ通っていない所もあるから安心はできないけど、不思議と不安は無い。
おかげでもう玄関へと辿り着けた。
もちろんエルプリヤさんの眩しい笑顔も待っている!
「エルプリヤさん! さっきはご迷惑をおかけしました!」
「あ、夢路さん! いえいえ、時にはああいう事もありますからお気になさらず」
「あれはいわば事故ですので。愛とか無いのでどうか誤解しないでくださいね」
「ふふっ、わかりました。では地球人は血族同士で生殖行為を行うと爆発四散するって覚えておきましょう」
「それはそれでおかしいんだけど!?」
もっとも、彼女は本当に気にしていなさそう。
先月の寂しそうな背中も見間違いだったと思えるくらいに明るいし。
きっと性に関しては本当に自由な考え方を持っているんだろうね。
となると後の問題は姉さんだな。
「それで姉さんの担当の事で相談なんだけど、ざっくり選んだりとかできる?」
「はい。あのお方の適正は検知できないので選別ができませんし、選んでいただけるならとても助かります」
「なら地球人基準でのイケメン男性で。あの人、いい男相手にはホンット弱いんで」
「イケ……? よ、よくわかりませんがとりあえずカッコイイ方を充ててみますね」
「ありがとうございます!」
アルコールが抜けるまでは油断できない。
だから早めに対策を取っておく事が重要だ。
姉さんはイケメンを前にすると上がって従順になるから、これできっと平気だろう。
「さて、それじゃせっかく泊まる事になったし、さっそく温泉にでも浸かろうかな」
「えっ」
「ん? エルプリヤさんもしかして何か用事でもありました?」
「あ、いえ! どうぞ是非とも温泉をお楽しみくださいませ!」
エルプリヤさんも用事は無いようだから、まぁいいか。
本当は一緒に入りた――いやいや、そういう妄想はいけません。
ひとまずエルプリヤさんに挨拶して踵を返す。
余計な妄想を悟られないようにしないとね。
けどそう振り向いた時だった。
「ユメジッ! いたあッ!」
直後、僕の目の前になんとレミフィさんが滑り込んで来たのだ。
それも本能剥き出しの「ガルルル」って言わんばかりの表情で!
「会ぁいたかったあ! ユメジィッ!」
「いいッ!?」
そして遂には彼女が僕へと飛び掛かる。
しかも押し倒すのではなく、しなやかな体遣いで空中反転。
直後にはなぜか僕を抱くようにして背に乗り掛かっていたという。
――あれ、でも思っていたより軽いぞ!?
そういえばレミフィさんを抱いたのはお風呂でだった。
割と筋肉質で重い方かなと思っていたけど、それは思い違いだったようだ。
「ユメジ、アタシ会いたかったか?」
「うん! 久しぶりですねレミフィさん、相変わらず元気みたいで良かった」
「アハッ! 忘れてないの嬉しい! さすがユメジ、アタシがスキの人!」
それで見上げてみれば、八重歯の目立つ無邪気な笑顔がニッコリと。
真っ白の耳も嬉しそうにピピッて跳ね動いていて、本当に喜んでいるみたいだ。
「あらぁ~夢路さぁん、お久しぶりですぅ~」
「あれ、メーリェさん!? どうしてここに!?」
すると今度はメーリェさんまで。
ぽよんぽよんと跳ねてまで見せてくれて、なんかもう色々眼福です。
「なんだメーリェ、お前もユメジ、スキの一人か」
「あらぁレミフィちゃんとお知り合いだったんですねぇ~」
「あれ、もしかして二人って知り合い?」
「テキ、だ!」「友達ですぅ~」
「そ、そう……」
しかもお二人はよくわからない関係らしい。
僕としては仲良くしてもらいたいのだけど、そうもいかない関係なのかな?
そうも思っていると、メーリェさんもが僕に抱き着いてくる。
え、何、一体どういう状況?
「あ、メーリェ! ユメジはアタシがスキのオトコ!」
「うっふふぅ、ダメですよぉ独り占めはいけませぇん」
「離れろ! メェーリェェェーーー!!!」
「そんな怒ると、また抱っこしちゃいますよぉ?」
「あぅーん、アタシ仲良くするゥ……」
「レミフィさんが速攻で黙らされた!?」
ま、まぁいいか! なんか二人とも仲良くなったし!
状況的にもすごくこう、嬉しい状況だし――息苦しいけど。
すると今度は右腕にまでギュッとした感触が。
この柔らかで、優しい感触……まさかっ!?
「面白そうですね! じゃあ私も混ざります!」
「え、エルプリヤさんまでぇ!? あ、ちょ、そこは触れ――アッ!」
「うっふふ! 皆で仲良く、です!」
「仲良くの意味ぃ~~~!?」
「うじゅ!」
「ま、まだ増えちゃうのぉ~~~!?」
さらにはどこからともなくロドンゲさんまで現れて僕の左腕に絡みつく。
そうして僕は全身を女の子(+触手生物)に包まれ、至福の時を味わった。
この記憶は以後、人生で最も幸せのひと時の一つとなるに違いない。
こんなに囲われる事って、全人類から見ても多分滅多に無いだろうから。




