99 いざ、幽霊屋敷へ
シアの言葉を聞いて、男の顔が強張った。
この人は、ただの受付の人ではなかった。
俺は途中で散歩に出かけてしまったので聞いていなかったのだが……
部下を使って調べものをしていたので、それなりの人だとは思っていたが、冒険者組合にいる五人の組合長補佐、通称サブマスの一人で、名前をギルモンテというらしい。
その人が、冷や汗を流しつつも笑顔を浮かべて、案内してくれた。
「広い庭に店を建てりゃ、何とか希望に適うと思うんだが……」
「なるほどね~。たしかにここなら十分に条件は満たせそうだけど……。これ、有名ないわく付き物件よねぇ」
なんだか、フェルミンさんのほうは、すごく楽しそうだ。
「まあ、そういうわけだ。ここは無料でも引き取り手がないってんで、商業組合預かりになってんだが……」
「じゃあ~、当然、タダだよねぇ?」
「そう言われても、管理費もかかってんだから……」
「その管理費がぁ、これから、必要なくなるんだよぉ?」
その理屈は分からなくもないが、さすがに無料で寄越せというのは悪い気がする。
「フェルミンさん。気持ちはありがたいですけど、ミアに決めさせてあげてもらえませんか?」
ついつい、口を挟んでしまったが……
助け舟を出したつもりだったに、男はなぜか平伏した。
「わかりましたから。フェルミンさん、おいらを巻き込まんでくれ。ここはマジでヤバいんですって」
「あらぁ、なぁ~にがぁ~?」
ひぃ~、と声を上げた男の表情が、恐怖で再び強張る。
これは、どっちに対する恐怖だろうか……
「えっと……、フェルミンさん? これって、どういうことですか?」
「もう~、しょうがないわねぇ……」
ため息を吐いたフェルミンさんは、困ったように種明かしをする。
「どうせ~、まともな物件なんて残ってないからぁ、どうしても見つからない時は、ここを譲りなさいって、お願いしたのよ~」
フェルミンさんは、ここが危険なことも、商業組合が預かっているのも承知で、自然な感じで上手に譲ってくれるよう提案していたらしい。
他の物件に決まればそれでも良いけど、どうしても見つからない場合は……という条件付きで。
だから、この組合長補佐は、必死に物件を探したようだが、ここを紹介したということは万策が尽きたことを意味する。
フェルミンさんはお願いと言っているが、半ば脅迫に近かったのだろう。それとも、この物件がそれほどヤバイのか、組合長補佐は恐怖に震えている。
「ミアはどうだ? 別の伝手を頼ってもいいんだぞ」
う~ん、と考える様子を見せながら、ミアは全員に念話を飛ばしてきた。
ミアも、残党探しで聞き込みをしている時、ここの噂を聞いたらしい。
本当に悪霊が棲んでいて、実際に死人も出ているようだ。
何の冗談だと言いたいところだけど、組合長補佐やフェルミンさんの様子からすると、たぶん噂があるってこと自体は間違いないのだろう。
『せやったら、ウチが祓うてもええよ』
『本当に悪霊がいるんだったら、祓ったほうがいいと思うけど、ディアーナに危険はないのか?』
『アニさま。ウチは聖騎士なんよ?、悪霊を祓うんなら、あんじょう成仏させたるさかい、任せてぇな』
『悪霊以外の何かって可能性もあるから、気を付けないとな』
『そん時は、ウチの剣で黙らせるよって、頼って貰てええよぉ』
なかなか物騒だけど、なんとも頼もしい限りだ。
『だったら、購入する方向で話を進めるよ。ディアーナ、頼りにしてるからね』
『アネさまの頼みやし、こりゃ気張らんといけまへんなぁ。そちらへ行くさかい、合図を頼んますえ』
なんだか心配だが、心配するってことはディアーナを信じていないことになる。
ディアーナやみんなを信じて、できるだけ悠然と構えて、成り行きを見守ることに決める。
そもそも俺には、優秀なみんなが実力を発揮できるよう、見守ることぐらいしかできない。
そして、ミアも決めたようだ。
それならばと、メイプルの指示通り演技を始める。
「兄さん。ここにするよ」
「そうだな。除霊だったらディアーナに頼むとするか」
そう言った数秒後に、ディアーナが現れた。
近くにいたクロエの所へ跳躍して、待っていたのだろう。
こちらに気付いたディアーナは、不思議そうな表情で近付いてくる。
「あらぁ? 皆さん、こないな場所で、どないしはったん? ここは、近付かんほうがええですよ」
「おお、ディアーナ。ちょうど良かった。ミアがここを買い取って、店を開きたいっていってるんだけど、なんかいわく付きらしくてどうしようかと思って」
「触らぬ神に祟りなしぃ……なんやけど、アネさまの為やったら、ちょっと本気で調べてみまひょか?」
「できるのか?」
「ウチ、こう見えて、強いんよ」
ディアーナは、一瞬で赤い金属鎧姿になると、ニッコリと微笑む。
その横で、マリーさんが門を破壊して、進入路を確保した。
そこへ流れるように、三人が入っていく。
ディアーナ、マリーさん、フェルミンさんの三人が……
「ほらぁ、ハルキ~、何してるのぉ。ちゃんとついて来るのよ」
えっ、俺も? ……と言いそうになったが、何とか言葉を噛み殺し、現れた黒猫を肩に乗せ、仕方がないなぁ……と、後ろを付いていった。




