97 キッシュモンド商会
王都に目印を残しておけば、メイプルたちが跳躍できる。
それに、フェルミンさんたちとの連絡を取り合うのにも便利だ。
何より、王都の物を、精神世界経由で村へと運ぶことができる。その逆も……
もちろん、様々な制約がある。
そもそも、目印による跳躍なんてものは、かなり異例で、使える者が限られている。
フェルミンさんは簡単に勧めてきたが、俺に扱えるのかは不明だ。
それに、いくつも目印できないので、フェルミンさんも、常設しているのは自分の屋敷とウラウ村だけで、たまに必要な時に、数カ所設置するぐらいが限度らしい。
それを踏まえて、王都に屋敷を持つよう提案されているということを、ケットシーハウスの子供部屋で、寝そべりながら念話でみんなに相談する。
わざわざ念話なのは、クロエとディアーナが別行動をしているからだ。
調査の邪魔になってはいけないとは思ったものの、自分たちの今後に向けた話し合いなのに、参加させないのはもっと良くないだろう。
部屋の片隅には、マリーさんが言っていた、目録と財宝が積んである。
反物は、あれで領主らしい服を仕立てろって事なんだろう。
支度金も、これぞ宝箱って形の入れ物に入っていた。
個人認証カードやブローチの説明書なんかもあった。
ブローチには、王族からの緊急呼出指示が届くようだ。その場合、あらゆる手段を使って、急いで王宮と連絡を取る必要がある。
俺の場合、フェルデマリー姫からの呼び出しが多くなる……らしい。
個人認証カードにも呼び出し機能を……と研究されているらしいが、こちらは難航しているようだ。なんせ、特命官とは違って、膨大な数になる上に、様々な使用例が考えられる。その全てに対応しようと思えば、とてもカード型には収まらない……らしい。
それはさておき……
クロエは特に意見はないようだが、ディアーナは、いつでも王都へ遊びに行けるようになるのは嬉しい……と期待を込めた答えが返ってきた。
シアはまあ……串焼きが簡単に手に入るかもと伝えたら、素直に喜んでいたが、俺が王都へ跳べるわけではないと知ると、興味を失ったようだ。
メイプルは、精神収納に余裕を持たせて俺の負担を軽くするためにも、安心して荷物が預けられる場所になればと提案する。
『その……、お兄ちゃん。王都にお店を出すのは、ダメかな?』
『だったら、兄さん。自分が店番と倉庫番を引き受けるよ。自分はその為に呼ばれたんだからね』
サンディーの提案に、ミアが乗る。
そういえば、ミアを召喚する時だったか……
メイプルが同じように倉庫の話をし、サンディーがお店を提案していた。
もちろん、王都でって意味じゃなかったと思うけど……
あの時は時間に迫られていたから必死で、例えれば、みんなの提案をとりあえず一つの釜に放り込んで煮詰めた感じで、召喚されたのがミアだ。
『でしたら、キッシュモンド商会の商品を売るお店って、どうでしょうか』
メイプルが、みんなの提案を次々と取り込み、ひとつの形へとまとめていく。
もう、こうなると、俺にはお手上げだ。全く話についていけない。
だが、素晴らしいものになる予感がする。いや、間違いなく、そうなるだろう。
これで、俺が目印とやらに失敗したら、全てが無駄……とは言わないが、かなり格好が付かないことになる。
その場合、ミアが王都にいる限りは、彼女が目印になるのだが、全員で集まるのは難しくなるだろう。
ミアの力を借りなければならない時は、代わりの誰かに王都で留守番をしてもらうことになるし、それができない時は、わざわざ陸路で数日かけて、誰かに王都まで移動してもらうことになる。
『ミア、本当にそれでいいのか? みんなと、なかなか会えなくなるけど……』
『もちろん、寂しくないと言えば嘘になるけど、ボクの使命は、兄さんの役に立つことだからね』
『……ボク?』
『おっと、済まない。こちらのほうが、使い慣れているのでつい』
『いや、別にいいと思うぞ。似合ってるし』
ミアは、妹たちを見て俺が可愛い女性が好みなのだと思い、どこか中性的な自分に悩み、自分のことをボクと呼ぶのをためらっていたらしい。
それに、クロエのボクっ娘が可愛いので、遠慮していたとも打ち明けてくれた。
『まあ、クロエのも、半ば俺が強制したようなものだからな……。クロエも、好きに変えてもいいからな』
『ならば、拙者と呼ぶことを、主殿にお許し頂きたく存じます』
『ダメ。クロエ、またハル兄のこと、主殿って言った。帰ってきたらお仕置き』
『そんな……』
シアに即答で否定され、落ち込んでいるが、シアがこだわっているのは、クロエが自分の妹であることだ。
クロエは自分の妹なのだから、俺のことを兄と呼ぶのは当然……という意味だった。
『クロエも、俺のことを、ハル兄とか、お兄ちゃんとか呼んでもいいんだぞ』
冗談めかしてそう言ってみると……
『そうですね。領主さまになられたのですから、これからは兄上とお呼びしたほうがいいですね』
実にクロエらしく生真面目に、そんな風に返してきた。
話し合った結果をメイプルがまとめ、マリーさんとフェルミンさんに伝えた。
貴族屋敷ではなく、平民扱いであるミアの住居、兼、お店という形にする。
取り扱う商品はディッケス産の物で、最初の間は、キッシュモンド商会の製品を中心に取り扱う。
その他、細かな要望や、使える予算など、淀みなく話が進んで行く。
いくつか修正点や助言などをもらったが、概ね了承してもらった。
さすがに新築となると、値段が跳ね上がる。なので、空き店舗を探すことになるのだが、それならば、やはり商業組合を頼るのが一番だろうという話に落ち着いた。
翌日になり、さっそく商業組合へ出向いたのだが……
店主となるミア、その後見人となる俺、計画を立てたメイプル、お店にこだわりのあるサンディー、護衛のシア……
結局、調査に出ているクロエとディアーナ以外の全員で行くことになった。
更に、マリーさんとフェルミンさんも同行している。
真っ先に伝えるべきは、俺が男爵になったことで、商業組合に関する一切のことを、妹のミアに引き継ぐ件だ。
また、馬車はウォーレン男爵家の保有となるが、キッシュモンド商会が借用している形となる。
「いやあ、まさか、お前さんが貴族さまになるとはな。いや、それは失礼でありましたな」
「俺も驚きましたよ。それに、あまり畏まられても困りますから、今まで通りでお願いします。それに今日は、妹の付き添いですから」
いろいろと伏せたままだが、ミアは、領主の妹にして、三人の特命官が付き添う、駆出しの商人……ということになる。
もうそれだけで、彼女のことを軽く見ることはできないはずだ。
しかも、フェルミンさんが、書類を渡し……
「今日から、この子が~、キッシュモンド商会の会頭さまよぉ」
そんな、突拍子もないことを言い出した。




