95 紅玉の聖法騎士
なんだこれは……
いや、分かっている。
ついさっき、俺も同じようなことをしたのだから、何をしているのかは分かっている。だが、分からないのは……
「ディアーナが聖法騎士に……ですか?」
「そうよぉ。こうしておけば、あの子が変な事をしてもぉ、平気でしょ~?」
「えっ? 平気って、何がですか?」
「都合が悪くなったらぁ、権力でもみ消せばいいのよ~」
「なっ……」
いやいや、冗談なのは分かっている。
フェルミンさん………冗談ですよね?
サンディーの補助でマントを装着したディアーナは、マリーさんから貴族証明書を受け取った。
「国王に代わり第三王女フェルデマリーが、其方に男爵位を与える」
「ありがとぉございますぅ。ディアーナ・ウォーレン、神さんの導きに従うて、アニさまが暮らすこの国が笑顔で満ちるよう、あんじょう頑張らせてもらいますえ。今後とも、よろしゅうおたのもうしますぅ」
授与式では立派な言葉で答えていたのに、いつものディアーナに戻っていた。
王女さまの姿も宮廷魔導術士の服だけに、すっかり砕けた雰囲気だ。
俺のマントは濃紺色だったが、ディアーナのマントは臙脂色だった。
色が違うだけで意匠は同じらしく、銀糸の飾りが施されている。
俺の場合、衣装が狩人っぽいものだけに変な感じになっていたが、ディアーナの赤髪や淡い赤色の軽装鎧と相まって、とても格好良く見える。間違いなく、俺よりも余程似合っていた。
ディアーナの個人認証カードが更新された。だが、ブローチはそのままだ。
いや、ブローチの紋章が国家聖法術士のもの──杖と太陽の紋章に、獅子の影絵が合わさったものから、聖法騎士のもの──盾と錫杖の紋章に、翼竜の影絵が合わさったもの……に変化した。
すでに、最新型のブローチが与えられていたようだ。
ものの数分で手続きが終わり……
ここに、聖法騎士クレイン男爵ディアーナが誕生した。
俺の知らない間に、ディアーナは、聖法術士だけでなく、王国騎士の試験にも合格していたらしい。
マリーさん──フェルデマリー王女は、俺と一緒にディアーナも、あの場で宮廷聖法術士に任命しようと思っていたのだが、騎士の資格もあるのならばと、急きょ聖法騎士として取り立てるよう変更した。
そのせいで手続きが間に合わず、一緒にとはいかなかったが、ようやくその準備が整った。
それでこの部屋を訪ねたのだが、俺が思った以上に疲弊していたのを見て、休憩がてらに世間話を始めたのだが、ついつい話に夢中になってしまったらしい。
「どう? ハルキ、驚いたぁ~?」
「そりゃまあ……」
フェルミンさんに問いかけられ、これもサプライズなのかと思ったが、もう、そんなことはどうでも良かった。
召喚体を特別任命官にしてもいいのか……という問いも、今さらだろう。
王家が関わっているのだから、全てはもう決まったことなのだ。
それに、ディアーナ自身、前に自分は聖騎士だと言っていたのだから、ある意味、あるべきところに収まったといえる。
「そうだ、ディアーナ。どうせなら、赤い聖騎士姿になってみたら?」
「そやねぇ」
軽装鎧が、赤く輝く金属鎧に変わった。
誰からともなく、ため息とも歓声ともとれる声が漏れる。
「おおー、これは……。すっごく似合ってるぞ」
「えっ? ほんまに? せやけど、アニさま、お世辞が上手やからねぇ」
「いやいや、お世辞じゃないって。ほら、みんなの顔を見たら分かるだろ?」
驚きに目を見開いているマリーさんに、早速手を伸ばして触ろうとしているフェルミンさん。
メイプルも「お美しいです。ディアお姉さま」と絶賛しているし、サンディーは「すごい、すごい」と拍手を送っている。
「ガイゼルさんと二人並んだら、すごいことになりそうだな」
「ガイゼルさんは、白銀の聖法騎士さまですよね。だったら、紅の……いえ、紅玉の聖法騎士というのは、どうでしょうか」
「おっ、メイプル、それいいな。紅玉の聖法騎士か……うん、ピッタリだ」
マリーさんたちも賛同し、あっという間に二つ名まで決まってしまった。
面白いからと、フェルミンさんの提案……というか、半ば強制で、全員でマントを着用して外門へと向かった。
魔女姿のフェルミンさん。魔導術士姿のマリーさん。金属鎧姿のディアーナ。そして、召喚術士姿の俺。
こんな集団が現れたら、門番も困惑するに違いない。
「お、お疲れ様でした」
挨拶する門番に目礼を返し、王立学院を出る。
楽しそうなフェルミンさんを見て、マリーさんも微笑んでいる。
「ディアーナ、お疲れ。もう着替えてもいいと思うよ」
「いややわぁ、アニさま。こんな人様の前で、ウチに裸になれえって、言わはりますのん?」
「なっ!? 違うって。鎧姿じゃ窮屈そうだから、精神世界に戻って着替えてきてもいいって……」
どうやら、からかわれたようだ。
楽しそうにクスクスと笑っている。
「ほんま、アニさま、可愛らしいなぁ。気遣い、ほんまおおきに。せやったら、ウチの代わりに、シアはんに護衛、お願いしてもええやろか」
「うん、いいけど。ディアーナは、また散策?」
「う~ん、クロエはんに任せっきりやったから、調べもんに戻ろう、思いますぅ」
「そっか。ありがとう、ディアーナ」
周りの視線がないことを確認すと、ディアーナは姿を消した。
クロエの元へと跳んだのだろう。
代わりにシアが現れると、無言のまま周囲に視線を巡らせ、俺の服をギュッと握った。
聖法騎士についての、情報の整理ついでに、設定を公開しておきます。
これに伴い、以前の本編部分も、若干変更させて頂きました。
■聖法騎士について
聖騎士というのは、伝説や物語などに登場する、魔物を狩り、闇を祓う騎士のこと。
この世界に実在するのは、聖法術を使える騎士……ですが、
国王直属の特別任命官となって初めて「聖法騎士」と名乗れます。
聖法騎士は、神様の力を借りて敵を討つ存在。
それが、物語の聖騎士と混同され、今では聖法騎士=聖騎士という認識になりつつあります。
■国王直属の特別任命官について
王国認定資格の保有者の中から、綿密かつ厳格な審査を経てスカウトされます。
特命官は、以下の種類に分かれます。
・術士 一角獣の影絵
・宮廷魔導術士 ← 国家魔導術士の資格保有者
・宮廷聖法術士 ← 国家聖法術士
・宮廷精霊術士 ← 国家精霊術士
・宮廷召喚術士 ← 国家召喚術士
・騎士 翼竜の影絵
・聖法騎士 ← 王国騎士 + 国家聖法術士
・守護騎士 ← 王国騎士 + 何か秀でた能力(資格以外も可)
・近衛騎士 ← 王国騎士
■役割……?
兵士 … 門番や警邏を行う
王国騎士 … 戦闘が想定される場面で投入される
近衛騎士 … 王宮警備や要人警護などに投入される
守護騎士、聖法騎士、術士たちは、国王(王族)の命令に従って働きます。
多くは、国内各地の調査やトラブル対応、魔物(魔獣)討伐などを行っています。
自警員(自警団)
田舎の町や村では、兵士を揃えて養う余力がないので、村人が家業の傍ら交代で見張りなどを行います。
トラブルが起きた時は、冒険者ギルドに依頼を出したり、近隣の町や村に救援を要請したりします。
※ 先日、活動報告で披露したものです。
考えた末に、こちらに残すことにしました。
※ 途中で変わったり、例外などもありますので、参考程度でお願いします。




