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俺の召喚体(いもうと)たちが優秀(やり)すぎる!  作者: かみきほりと
試験に挑む召喚術士、王都滞在中も奮闘する

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92 個人認証カード

 お客様は、キャロル姉妹だった。


 妹のネイザさんから報酬に間違いがなかったかと問われ、サンディーに確認してもらったが、もちろん何の問題もなかった。

 姉のイライザさんは、何かの間違いだと思いたいが、確認するまでもなく怒っているようだった。こちらは大問題だ。


「やっぱりハルキさん、ただの農夫って嘘だったじゃないですか……」

「えっと、イライザさん? ……いや、あの時は本当に、ただの召喚術士見習いの農夫だったんですよ。なぜこうなったのか、俺も驚いてるところです」

「驚いてるって……、私だって驚きましたよ。いきなり王宮の使いって方がみえられて、ハルキさんのことで話があるって言われて、カードの引き渡し場所に学院を指定されて……」


 よほど感情を溜め込んでいたのだろう。伝えたい思いが強すぎるようで、呼吸も何だかかなり荒くなっている。

 

組合(ギルド)からは私たちの担当だからと言われるし、学院にきたら立派な建物に案内されるし、王様と王妃様がおられるし。こんな近くで御姿を拝見したのは初めてだから、心臓が止まるかと思いましたよ」


 よほど混乱しているのだろう、何を言いたいのか分からないが、とにかく俺が王族と関係があるのではと疑っているようだ。


「俺だって何も知らされずに部屋に放り込まれたんですよ。だから、その気持ちはよくわかります。お二人が堂々とされていて、そのおかげで少し落ち着くことができたので、とても助かりました」


 なんかもう、こうして素直に驚いて文句を言ってもらえると、この反応が普通なのだと再確認できて安心するし、とてもありがたいし、少し嬉しい。

 溜め込んでいた感情をひと通り吐き出せたのか、イライザさんは丁寧に謝罪すると、変わってネイザさんがカードの説明を始めた。


「たしかウォーレン様は、個人認証カードを扱うのは初めてだとお聞きしていますが、間違いありませんか?」

「以前のカードなら知ってますけど、これって魔導具に変わったんですよね? 見た事はありますけど、もらったのは初めてです」


 以前は、紙に直接情報が書かれ、劣化しないように加工されたものだった。

 地位や名誉を得て、人とのつながりが広がると、そんなカードや書類が増えてしまい、目当てのものを探すのに苦労した……とかいう笑い話がある。

 それが原因かは分からないが、何年か前から王国発行の魔導具(カード)に置き換わっていっている……という話は聞いていた。

 どうせ自分には関係が無いと思っていたのだが、資格を得たらカードが発行されるのは、以前と変わらず当然のこと。

 そして今回、俺にもその『個人認証カード』が発行された。


「えっと……、ネイザさん。できれば名前は、今まで通りに呼んでもらってもいいですか? 今は冒険者のお話しですから」

「そうですか。少し残念ですが、分かりました」


 何が残念なのか分からないけど、いつも通りにしてもらわないと、気が散って仕方がない。


「あっ、そういえば、ハルキさんって商業組合(ギルド)ともつながりがありましたよね? 後にでも、顔を出して話を通しておいたほうがいいですよ。えっと、それじゃ、詳しく説明していきますね」


 個人認証カードは魔導具で、本人が手に触れて意思表示をすると情報が現れる仕組みになっている。

 これを使えば、様々な手続きが簡単になるし、紙の束に悩まされることもなくなるらしい。


 身分証を表示させてみると……


   ハルキ・ウォーレン 男爵

   領主 南海地方ディッケス郡

   宮廷召喚術士

   B級冒険者 特別組合員

   ……


 などと、文字が浮かぶ。

 この時、冒険者であることを隠したければ、その情報だけ非表示にすることも可能だ。

 それだけではない。


 偽装用の身分証に表示を切り替えることもできる。


   ハルキ・ウォーレン

   南海地方ディッケス郡ウラウ村

   農民

   国家召喚術士

   E級冒険者 永久組合員

   ……


 こんな文字に変わった。


「なるほど、触れて念じる時に、どの情報を表示するのかを決める……と」

「はい。偽装用って言葉は悪いですけど、必要な時もありますからね」


 本来ならば、わざわざ冒険者ランクを低く見せたり……なんてことをしてもメリットはない。だが……

 冒険者情報に切り替えると、ずらずらっと略歴が並ぶ。


「盗賊団の壊滅……が五つ。王都の騒乱鎮圧が百以上って……」

「他にも、騎士の緊急搬送とか、王女さまの護衛、救援や保護は数知れず。いきなりB級は異例ですけど、A級でもおかしくはない働きですよ」

「いやいや、登録する前のものが多く混ざってますし、妹たちの働きも……」

「以前の功績も実績には違いないですし、チームでの活動も立派な実績ですよ」


 たとえば……

 ある町に、いい肥料があるからと買いに行ったとする。

 もちろん、領主の仕事とは全く関係の無い買い物だ。

 そこで、こんな身分証を出したらどうなるか。

 領主さまにしろ、特命官にしろ、B級冒険者にしろ、何か重要な案件で視察にこられたと大騒ぎになるに違いない。

 とてもじゃないが、肥料を買うどころではなくなるだろう。


 それに、もっと切実な事情がある。

 爵位を継いだはいいが、領地を持たず、財産もないという、いわゆる没落貴族が存在する。その者たちは、己の才覚で収入を得る必要がある。

 たとえば、大貴族に仕えたり、騎士を目指したり……

 昔ならば、才覚に恵まれなかった者は、爵位を売って平民となり、得たお金で新たな人生を歩み始める、という道もあった。だが……


 不況が国を襲った時、爵位を売るものが急増した。その結果、売られた爵位が悪用されるといった事件が増えて問題となり、売買が厳しく禁じられた。

 もちろん、爵位を返上する道もあるが、それでは手元に何も残らないし、先祖に申し訳が立たないと考える者も多い。

 そういった者が平民を装って組合(ギルド)に加わり、職を得たり、商売を始める……なんてことは、昔からあることらしいが……


「むしろ、そんな人たちのための偽装だって話もあるぐらいです」


 つまり、貧乏貴族の食い扶持を潰さないようにと、偽装できるよう設計されているのではないか……ということらしい。


「あっ、そうそう。あと、ブローチを出してもらえますか?」

「ん? これですか?」


 言われた通り、精神収納(アストラルボックス)から取り出すが……


「あれ? どこかで取り違えたかな……」


 現れたブローチは、獅子の影絵(シルエット)、つまり国家召喚術士の紋章が刻まれていた。

 だが、ネイザさんはニコニコ微笑みながら説明を続ける。


「ブローチの紋章も、カードと連動させることができるらしいです」


 カードの情報を変えると、一角獣(ユニコーン)影絵(シルエット)に変わった。

 面白いし便利そうだけど、間違ったら大変なことになりそうだ。


「たぶん、便利になったんでしょうけど、使いこなすのが大変そうですね」

「あはは……、年配の方は、よくそうおっしゃいますけど。ハルキさんって、まだお若いですよね?」

「十八ですよ」

「えっ? 私より若いじゃないですか。だったら大丈夫ですよ。一度覚えてしまえば簡単ですから」


 まさか年上だとは思わなかったが、そう変わらないだろう。




 ネイザさんが見守る中、カードの表示内容を調整したり、操作方法の練習などをしていると、扉がノックされた。


「ハルキ~、生きてる~?」


 フェルミンさんの声を聞き、もう用事は終わったからとキャロル姉妹が退室の意思を示す。


「イライザさん、ネイザさん、いろいろとありがとうございました」

「もし困ったことがあれば、組合(ギルド)にお越しください。いくらでも説明をさせて頂きますよ」


 事務的に頭を下げるイライザさんと、笑顔で手を振るネイザさん。見た目は似ていても、性格の違いがよく分かる。

 そして、二人と入れ替わるようにして、フェルミンさんと、フェルデマリー王女が、部屋に入ってきた。


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