89 ちょっとした余興
王国騎士が列へと戻り、これで五部門、ひと通り終わったことになる。
これであとは、王族の方がバルコニーに現れ、お言葉を賜る……という流れで閉式となるはずだ。
そう思ったのだが……
ガチャという音がして、ゆっくりと館の扉が開かれていく。
何事かと一気にざわめく。
声に出した者はほんのひと握りだったが、驚きで無意識に身体が反応し、足音や衣擦れの音が重なり合う。
予想通り、現れたのはフェルデマリー王女だったが、なぜかバルコニーではなく、扉から外へと出てきた。
そのまま登壇すると、演台の集音器に向かう。
俺たちは、一斉に跪いて頭を下げる。
「その才を示し、資格を得てこの場に集う、キュリスベル王国の未来を担う者たちを歓迎する。新たなる一歩を踏み出し、研鑽に励み、王国の発展に寄与することを望む」
ははーっとばかりに頭を下げる。
やっとこれで終わりか……と思ったのだが、王女は館へ戻ろうとしない。
「続いて、特別授与を行う。ハルキ・ウォーレン、前へ」
進行役の声に「特別授与なんてものがあるのか……」と思っていると、一拍置いてから自分が呼ばれたことに気が付いた。
「えっ? ……俺?」
何かの聞き間違いかと思ったが、顔を上げると王女さまと目が合った。
何事かと思いつつも、立ち上がって前に出る。
その間に、起立するよう号令がかかる。
「ハルキ・ウォーレン。其方に国家召喚術士の資格を授与する」
光栄なことに、王女さまから手渡された。
俺は跪き、両手を捧げるようにして受け取る。
これも儀式なので本物のカードではない。すぐに係の者が受け取りにくる。
「其の方、長きにわたる召喚術士たちの夢、人の召喚を成し得たと聞く。その者たちを、この場にて披露せよ」
これこそが、フェルミンさんの企みだったのだろうか。
王女さまの頼みを断れるはずもないので、素直に従うしかない。
もちろん、不満な様子を欠片も見せず、快く応じる。
「お望みとあらば喜んで」
できるだけ観客──試験合格者の列から見栄えが良くなるように、一斉に一列で現出させる。
もちろん、色とりどりの軽装鎧に仮面姿だ。
ミアは結局、白い衣装のままにしたようだ。
空中に現れ、フワリと一斉に着地すると、王女さまに向かって跪く。
「ふむ、真、人であるな。構わぬ、立ち上がって、その姿をよく見せよ」
華やかな妹たちに少し顔を向け、小さくうなずきつつ、念話で指示を出す。
端から順番に立ち上がり、くるりと身体を回転させて、淑女らしく薄衣の端を摘まむようにして軽く腰を落として礼をしていく。
「実に見事。今後も召喚術の継承と発展に尽力されることを望む」
「はい。ありがたきお言葉を胸に秘め、日々精進いたします」
再び頭を下げ、妹たちに戻るようお願いしようとしたら「怪しい奴め」「何者だ」なんて言葉が聞こえてきた。
このタイミングで騒ぎが起り、真っ先に思い浮かんだのが「まさか、フェルミンさんの仕込み?」という言葉だが、そんなことを疑っている場合ではない。
メイプルを見ると、小さくうなずいて指示が飛んできた。
ならばと、その通りに実行する。
俺は立ち上がって命令する。
「レッドとピンクは状況の確認を。ホワイトとグリーンは姫さまを建物へ。イエローとブルーは周囲の警戒を」
名前を呼んだら顔を隠している意味がないというので、色で呼ぶことにしたけど、かなり変な感じだ。
いつも通り、ディアーナとクロエに様子を見に行かせ、戦闘能力の低いメイプルとミアは王女さまと一緒に避難してもらい、残るシアとサンディーと一緒に、俺も周囲を警戒する。
だが、王女さまは、この場に留まるらしい。
そりゃまあ、陰で宮廷魔導術士なんてことをしているだけに、この中で一番強かったりするんだろうけど、正体を明かすわけにはいかないのだから、大人しく避難してもらったほうがいいんだけど……
『お兄さま。敵は五名。正面の三名は警備の騎士と交戦中。残る二名は背後から迫っています。そちらの対処をお願いします』
小さくうなずいて了解の意を示す。
「サ……えっと、イエローは、ここで警戒を続けて。ブルーは背後の敵を叩くぞ」
「任せて」
つい声を出してしまい、シアは慌てて自分の口を押さえる。
声でバレるのを恐れて禁じてあったのだが、まあ、大丈夫だろう。
シアに木剣を出してもらい、迎撃に向かった。
敵は手練れだったが、シアとディアーナには敵わなかった。
もちろん、俺もちゃんと活躍したが、館に接近する前に捕縛したので、目撃者はほとんどいない。
それよりも、クロエとサンディーが目立っていたようだ。
囲みを突破し、館へ向かう相手の前にサンディーが立ち塞がり、空中に現れたクロエが上空から襲い掛かって取り押さえたらしい。
再び王女さまの前で跪くが、クロエとディアーナは別行動をしているらしく、姿を現さない。
「迅速な対処、実に見事であった。ちょっとした余興であったが、聞きしに勝る働きに満足である」
いやいや、騎士が二人を斬り伏せたと聞いている。
俺が戦った相手も、敵意と殺意を剥き出しにしていた。
とても仕込みとは思えない。
『お兄さま。本物の襲撃となれば騒ぎが大きくなり、この式典も中止になってしまいます。なので、話を合わせて下さい』
メイプルの指示はもっともだ。
どう考えてもサンクジェヌス帝国の残党だった。
新たな敵や、新たな企みならばともかく、騒ぎ立てるよりも日常に戻ったことをアピールするほうが良いと判断したのだろう。
「平穏を取り戻したとはいえ、油断なきようという教え、しかと心に刻みます」
それっぽい言葉を並べて頭を下げると、ふむとフェルデマリー王女は満足したようにうなずき、館の中へと戻っていった。
進行役に促され、みんなを精神世界に帰還させ、列に戻る。
その後は滞りなく進み、魔導具を使って本物のカードが発行され、ブローチも卵の影絵が入った実習召喚術士から、獅子の影絵が入った国家召喚術士のものに交換され、なんとか無事に授与式が終わった。
やっと終わった。
そう思い、帰ろうと外門へ向かおうとしたら……
こちらへ……と係員に声を掛けられ、グロリアの庭からは死角になった入り口へと案内された。




