88 希望と祝福の授与式
国家資格授与式は、王立学院の中で行われる。
通例では講堂で行われるらしいが、今回はグロリアの庭で行われるらしい。
グロリアの庭は、王族が滞在する館の前にある広場だ。
とはいえ、館が本来の目的を果たすのは、年に一度あるかないか。普段は生徒たちの実習の場になっている。
マナーや清掃、補修や装飾技術、使用人としての心得など、王侯貴族に仕える人材育成の場として利用されているのだ。
そんな場所に集められたということは、館に王族が来ているのだろう。
ここは王立学院、しかも国家資格の授与式なのだから、王族の出席も十分に考えられる。それに、それが誰かは容易に想像できる。
視察までしていたのだから、間違いなくフェルデマリー王女だろう。
グロリアの庭には、全部で八十名ほどいるだろうか。
半数は騎士で、残る半数が術士という割合だ。その中でも召喚術士は三名のみ。
残る二名はやはり、一緒に試験を受けたガーランドとソニアだった。
簡単に言葉を交わし、互いの健闘を称え合う。
ここが会場になった意味に気付いているのか、二人も周囲と同じようにそわそわしていて、なんとも落ち着かない様子だった。
特にソニアは、俺と目を合わそうとしないし、かなり挙動不審だ。
「思ったより、合格者が少ないな……」
そんな俺の呟きに反応して、目の前に風精霊が現れた。
しかも、現れるなり、呆れた声を上げる。
「ハルキ、アンタここの生徒だったんでしょ?」
「そ、そうだけど?」
「だったら何で知らないのよ」
「えっ? なにが?」
「試験は年に四回、各地の主要な都市でも行われているわ。まあ、王都だと雪の積もる冬はやらないことが多いけど……。今年の冬はないみたいだから、この時期にしては多い方よ」
弁明させてもらえれば、俺は学生時代、試験を受ける資格すら得られなかった。
だからなのか、試験に関する詳しい内容も教わらなかったので、知らなくても仕方がない。
それでも、そんなものは常識だとか、少し調べれば分かることだとか言われそうだが……
「まあいいわ。それにしてもハルキ。その格好、目立ってるわね」
「だよな。でも、仕方がないだろ?」
ここにいる多くが学院の生徒なので、制服を着用している。
俺は、サンディーに改良してもらった召喚術士の服を着ているが、やはり浮いているというか、目立って仕方がない。
できれば仮面で素顔を隠したかったのだが、そんなことをすれば余計に目立つし、不審者と間違えられて捕縛されかねない。
別の服にすることも考えたけれど、他に正装っぽい服はないし、せっかく作ってくれたサンディーにも悪い。
「おっ、どうやら始まるようだな」
「じゃあ、まあ、ハルキ、頑張ってね」
「えっ?」
何が? ……って聞こうとする前に、風精霊が姿を消した。
全員が名前を呼ばれて、受け取るわけではないようだ。
国家召喚術士、国家精霊術士、国家聖法術士、国家魔導術士、王国騎士、それぞれの成績優秀者が代表して賛辞を受ける儀式だった。
「召喚術士、ソニア・ブラッドリー、前へ」
少し不思議に思ったが、目立つ役目が回って来なくてよかったと、少し安心した。
自分が呼ばれ、フェルミンさんが介入して……という最悪の事態を想定していたのだが、これでもう大丈夫だろう。
「ソニア・ブラッドリー。其方に国家召喚術士の資格を授与する。また、其方は人型の召喚に成功したと聞く。今後も召喚術の発展に深く寄与することを期待する」
聞き間違いかと思ったが、実際にソニアは青年を現出させた。
なるほど、ソニアが挙動不審だったのは、このせいだったのかと納得する。
「私が彼を召喚できたのは、あのお方のおかげと存じます。あのお方が、実際に目の前で人型を召喚されたのを見て、私にも可能性があると確信できました。この場を借りて、あのお方に感謝の言葉を贈りたいと思います」
あのお方とは、ほぼ間違いなく俺のことだろう。
誰かに名前を伏せるよう言われたのだろうか。
それにしても、その言い方だと不自然すぎて、聞いている者は余計に『あのお方』のことが気になってしまいそうだ。
本気で名前を伏せる気があるのだろうか。
まあ、それよりもだ……
もちろん、俺以外にも成功する者が出ることを願っていた。
だが、召喚大会の様子を見てかなり厳しいと思い、諦めかけていたのだが、あの後も挑戦して成功させたのだろう。
仲間ができたことは嬉しいし、自分が特別じゃなくなったことにも安堵しているのだが、なんだか胸の奥にぽっかり穴が開いたようで、寂しい気持ちにもなる。
まあでも、これで、人間の召喚体に関する件は、彼女に任せればいいだろう。
何なら、偉業達成の栄誉とかいうものも、全部持っていってもらってもいい。
それならば俺は、何の気兼ねも、いきなり呼び出される心配もなく、田舎暮らしに戻れるってものだ。
あとは、認定のカードを受け取れば、王都ですべきことが全て終わる。
召喚術士の将来も、ソニアとフェルミンさんで何とかするだろう。
「これで、俺の役目も終わったな……」
つい、ポツリと呟きが漏れた。その時……
「聖法術士、ディアーナ・ウォーレン、前へ」
「……えっ?」
聞き間違い……じゃないよな。ディアーナ……、ウォーレンって……
まさかと思いつつ注目していると、本当にディアーナの姿が。
たしかに、ディアーナは単独行動が多いし、今朝も姿を見なかったが、まさかこんな事をしていたとは思わなかった。
そりゃまあ、派手に聖法術を使うのならば資格があったほうが安心だが、だからといって、幽霊の召喚体に資格を与えるなんて、無茶が過ぎる。
まさかこれが、フェルミンさんが用意したという、ご褒美なのだろうか。
「ディアーナ・ウォーレン。其方に国家聖法術士の資格を授与する。其方の敬虔さ故に起こされた奇跡は、称賛に値するものであった。今後も神の威光で国の発展に深く寄与することを期待する」
「この栄誉を賜りましたこと、我が神、そして、数多の神々に感謝を捧げます。願わくば、この地に集う者たちの新たなる門出に、ささやかな慈悲と祝福を賜りますよう、お祈り申し上げます」
ディアーナが手を組んで祈りを捧げ始めると、どこからともなく鐘の音が響き、純白の鳥たちが翼を広げて青空に飛び立った。
「これ……いいのか?」
誰もが魅了されそうな光景を前に、俺は身震いしながら、そう呟いた。




