83 ソニア、決意の告白
ソニア・ブラッドリーに声を掛けられ、反射的に身構える。
なんせ彼女は、フェルミンさんの一番の弟子だと名乗り、俺に対抗心をむき出しにしていたのだ。
また何か難癖を付けられるのか? ……と思ったら、少し様子が変だと気付く。
相手は後輩……と呼んでいいのか分からないが、召喚術士の道を歩む者だ。フェルミンさんとも縁がある相手でもある。そう邪険には扱えない。
厄介事の予感がして、俺は内心で頭を抱える。
そっと風精霊に視線を送って助けを求めると、仕方がないわね……といった感じで仲介役を引き受けてくれた。
「ソニア、今日はよく頑張ったわね。筆記試験の結果までは分からないけど、実技試験は及第点だと思うわよ」
「あ、ありがとうございます、フィーリアさん。私のことも、ちゃんと見ててくれたんですね」
「そんなの、当たり前じゃない。ソニアにはマスターも期待してるのよ? 今回のことは間違いなく、すごくいい経験になったと思うから、これからも精進するようにって、言ってるわ」
「そう……なんですね。フェルミンさん……」
敵意が消えたのは、俺のことを見直したから……だったら嬉しいのだが、どうもそういうわけでもなさそうだ。
敵意どころか、覇気までもが失われたように感じる。
「なあに? ソニア、もしかして貴女、ハルキを見て自信を失っちゃったの?」
ハッと顔を挙げた女子学生は、俺と目が合った途端、慌てて顔を逸らす。
図星だったのだろうか。
とはいえ、俺に用があるのは間違いない。
ここにはまだ、みんなが残っている。こんな場所では話しづらいだろう。
「よかったら、場所を移そうか。どこか落ち着いて話せる場所があったら、案内してもらえると助かるんだけど」
「ご、ごめんなさい」
即答で拒否された。
そりゃそうか……
「まあ、俺と二人っきりになるのは嫌だよな。でも、フィーリアもいるし、相談だったら、俺の代わりに妹に任せてもいいけど……」
「いもうとさん? いえ、そうじゃなくて……。色々と失礼なことを言ってしまって、すみませんでした。噂は本当だったんですね」
またか……と思ったが、独りで放浪した挙句、遭難しまくっている噂話に、今度はどんな脚色が施されたのか気になるし、ここまでくると楽しみですらある。
「ちなみに、どんな噂?」
「その……、早世された前国王の兄君の血を引くお方……とか」
俺が否定するより早く、風精霊が爆笑する。
そりゃそうだ。俺だって笑い飛ばしたいし、王族だと騙れば死罪なのだから勘弁してもらいたい。
「先に言っておくが、それは絶対にないからな。俺は貧乏商家の生まれで、しかも勘当された身だ。さらに言えば、召喚術士を目指して挫折し、田舎で農夫として、ささやかながらも幸せに天寿を全うすること願っている、そんなごく普通の男だ」
なぜか風精霊が、机の上に落ちて、笑い転げている。
これだと、俺が嘘を言っているように思われてしまう。
「フィーリア、何がおかしい?」
「だって……(クスクス)、それの、どこが……普通なのよ……(クスクス)」
「そうです。ふざけないで真面目に答えて下さい。たしかに先生からは聞きました。学院を退学になった落ちこぼれだって。でも、それだけの力を持っているのに、どこが落ちこぼれなんですか? わざと退学になったんですよね? 何かの密命ですか?」
「ちょ、ちょっと、落ち着けって。俺が特殊部隊じゃないのかって噂が流れているのは知っているが、それも違うからな。さっき俺が言ったことが真実だ」
話が少し長くなるが……と前置きをして、俺がウラウ村で過ごしてきたことを、簡単に教えてあげた。
まあ、さすがに兄妹として暮らしているだとか、領主をやっつけてしまったとか、そういう誤解されそうなことは端折ったが……
偶然、召喚したら人間だったこと。
フェルミンさんが、わざわざ訪ねてきてくれたこと。
召喚に成功したのなら国家召喚術士になったほうがいいと、勧められたこと。
作物の収穫がひと段落ついたので、王都に試験を受けに来たこと……など。
「マスターは、すぐにでも王都に引っ張って来るつもりだったのに、ハルキってば、畑をこのままにしては行けないって、真面目な顔をして答えてたわ」
「本当に……? でも、豪華な馬車で怪我人を迎えに行って、途中で盗賊に襲われたのに無事に戻ってきたって……」
女子学生は、あの治療院の院長の、年の離れた妹なのだと、風精霊が説明してくれた。
そういえば、どこかでそんな話を聞いたような気がする。
だとしても、怪我人を運び込んだのは、つい数日前だ。
街中の治安は悪化しているが、学院の中ならば安全だ。なので、そうそう外出許可は下りないだろうし、話が伝わっているとは思えないが……
「行きは宮廷魔導術士の方が乗っていたし、帰りはフェルミンさんが居たからね。黒狼も頑張ってくれたし、すごく幸運だったと思うよ」
「……わかりました」
とても、納得したとは思えない表情だ。
だけど、これ以上、話をしても無駄だと思ったのだろう。
言葉を切って、大きく深呼吸をしている。……と、思ったら、決意に満ちた瞳をこちらへ向けてきた。
「単刀直入にお願いします。私に、人間を召喚する方法を教えてください」
「…………えっ?」
ガタン……と音を鳴らしたのは俺ではない。
そちらへ顔を向けると……
ずっとこちらを様子を窺っていたのだろう。
部屋に残っていた全員が、サッと目を逸らした。




