82 結果はともあれ全てが終わった
入り口が開き、兵士を伴って騎士たちが入ってきた。
全部で十二人。建物を背にするようにして一列に並んでいたが、回れ右の号令で、建物の方を向く。
ほどなくして、バルコニーに、フェルデマリー王女が姿を見せる。
敬礼の号令に兵士たちが反応する。
兵士ではない俺たちは、深く礼をする。
観客席の学生たちにとっては青天の霹靂だ。
王女さまがご臨席されているとは知らされていなかっただけに、ざわめきが起きたが、号令でそれもピタリと止み、立ち上がって礼をする。
たっぷりと時間をかけてから、直れの合図。
魔道具によって拡張された声が、会場に響き渡る。
「此度の演習、実に見事であった。この結果により、ワタクシ、フェルデマリーの名に於いて、召喚術科の存続を許可する。ただし、今後も改善が見られぬ時は、再び廃止が検討されるであろう。ワタクシとしては、歴史ある召喚術が、今後も末永く継承されることを願う」
フェルミンさんに続いて、俺たちも再び頭を下げる。
フェルミンさんの企みは、召喚術士の悲願である人間の召喚体を発表し、その性能や有能性をアピールすることで、召喚術の人気を取り戻そうというもの。
あの人の思い付きが積み重なって、最終的にはこんなことになったが……
これほど多くの学生の前でお披露目をし、大活躍で観客を沸かせ、王女さまからこれ以上ないお言葉を頂いたのだから大成功だろう。
フェルミンさんも満足したはずだ。
王女さまとフェルミンさんの関係性を知っている俺としては、やっと壮大な茶番劇が終わったって感じなんだけど……
王女さまが部屋へと戻り、模擬演習の終了を告げるアナウンスが流れると、いきなりフェルミンさんが俺に抱き付いてきた。
これも何かの演出だろうか。
魔女の帽子のツバが俺の顔を直撃したが、まあいい。
どういう思惑か分からないが、興奮気味に感謝の言葉を繰り返すフェルミンさんなんて珍しいものを見せられたら、もう何も言えなくなってしまった。
兵士たちが強化魔導人形の残骸を片付け始めているのを横目に見ながら、俺たちは、フェルミンさんに連れられて、王女さまのおられる部屋へと向かう。
その途中でディアーナは幽霊になり、クロエは黒猫になって別行動を始める。
メイプルからは、他に潜入している敵がいないかを調べるためだと説明された。
そんな事は俺たちの役目ではないのだが、後になって調べておけばよかったと後悔するよりはいいだろう。
「ふぅ~。や~っと、おわったわぁ~」
部屋の中には、王女さまはもちろん、試験の関係者や受験者たちもいる。
なのに、フェルミンさんは、部屋に入るなり気の抜けた声を出して、思いっきりだらけ始める。
「フェルミン、ご苦労様でした。これで、召喚術士を目指す者が少しでも増えると良いですね」
「そうよねぇ~。これでダメだったら、もう、打つ手なしよねぇ~」
王女さまに対してこの態度は、さすがに怒られるんじゃないかと思ったのだが、騎士たちは何の反応も示さない。
それよりも……
「ハルキも見事でした。召喚術士の未来がかかった重要な場においても、常と変わらぬ働き、その豪胆さは称賛に値します。それどころか、観客に対してあぴいるする余裕まであるとは、驚きました」
いやいや、その発言に、周りが滅茶苦茶驚いてるんですけど……
王女さまが一介の平民に過ぎない俺の名前を知っていて、命令するわけではなく称賛したのだ。しかも、どこか親しげにすら感じられる。
これは、とても危険だ。俺にとっても、王女さまにとっても。
すかさず、感激に打ち震える小芝居を挟んで跪く。
「王女殿下。過分なお言葉、恐悦至極に存じます。すべては我が師、フェルミン様のおかげにございます」
「……であるか。フェルミン、良き弟子に恵まれましたね」
……誤魔化せたか?
……いや、先生たちまでもが、詮索するような目でこちらを見ている。
「ふむ。では、次へと向かう事にする。皆、精進なされよ」
王女様の言葉で全員が立ち上がり、代表して試験の担当官がそれに答えると、みんな一列に並んで王女様御一行を見送る。
案内係のフェルミンさんも一緒に出て行き、これでやっと全員が緊張から解き放たれた。
考えてみれば、まだ試験の最中だ。
とはいえ、説明が少し残っているだけってことなので、この部屋を借りて続けることになった。
召喚術士の集まりだけに、召喚体を出していても咎められたりはしないが、さすがに人間が三人もいれば目立つし、他の者も気が散るだろう。
なので、全員、精神世界へと帰還させる。
事前に聞いていた通り、発表は後日で、合格者には授与式が行われるらしい。
細々とした説明がひと通り終わり……
「資料に詳細が記されているので、後でしっかりと確認しておくように。それでは、国家召喚術士の認定試験を終了する」
これでやっと本来の目的が終わった。
本当に終わるのは合格してからだが、ここまでさせられて不合格だったら、さすがに落ち込むどころではない。
とにかく疲れた。いろんな意味で、とことん疲れた。
こんな時には黒猫をもふもふしたいところだが、調査で駆け回っているところを邪魔しては悪い。
「フィーリア、いるか?」
「ん? 呼んだ?」
やはり……と言えばいいのか、近くで潜んでいたのだろう。声を掛けると、風精霊が姿を現した。
「じゃあ、帰ろうか」
「久しぶりの学院だよね? 次、いつ来られるか分からないんだし、ゆっくり見て回っても構わないわよ」
「って言われても、ここじゃ俺は部外者扱いだからな。それに見て回りたい場所は、どうやら見学が難しいみたいだし」
それに、あんまりのんびりしていると、また何か厄介事に巻き込まれそうで怖いし、早々に退散したほうがいいだろう。
そう思っていた矢先、意外な相手から声をかけられた。
「ちょっと、いい……かしら」
女子学生の受験生が、敵意を剥き出しにして睨むわけでもなく、なんとなく困った様子で立っていた。




