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俺の召喚体(いもうと)たちが優秀(やり)すぎる!  作者: かみきほりと
試験に挑む召喚術士、王都滞在中も奮闘する

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81 救済と祝福の鐘

 どうやら、敵左翼の排除が終わったようだ。

 その様子を見ていたのだが、サンディーの勇ましさには驚いた。


 ウォーハンマーというのだろうか。

 サンディーが大きな鎚を振り回し、叩き付けられた相手がよろけたところを、ディアーナが長剣で仕留めた。

 力には力で……という感じの、何とも豪快な戦い方だ。

 それにしても、あんな武器をいつの間に用意したのか……

 そう一瞬だけ思ったが、シアが生み出したのだろうとすぐに気付く。


 敵右翼(こちら)では、二体目をクロエが倒したようだ。

 報告は受けたが、その瞬間を見逃してしまった。

 だが、今度は壊したわけではなさそうだ。


 メイプルの横に立った俺は、召喚術士の杖を精神収納(アストラルボックス)から取り出し、仁王立ちになって全体の状況を確認する。

 当初の予定では、みんなで敵の左翼を攻撃し、中央の部隊が合流する前に、四体全てを倒すつもりだった。

 だが、俺のミスで予定が狂ってしまったが、みんなの頑張りもあって、さらに敵の右翼を二体倒すという戦果も加わった。

 想定以上の立ち上がりだ。




 ディアーナは、後方で待機している三体の足止めに向かう。

 サンディーは少し休憩だ。

 教えれば何でもできるといった印象のある彼女だが、シアやディアーナとは違って戦闘のために召喚したわけではないので、あまり無理はさせられない。

 怪我というほどではないが、多少は手足に衝撃が残っているだろう。


 敵の右翼に中央の部隊が合流した。

 全部で六体となり、シアとクロエの二人だけでは、圧倒的に不利な状況となってしまう。


 周りからは、俺とメイプルが高みの見物をしているようにしか見えないだろう。

 だが、メイプルはもちろん、俺だってちゃんと自分の役目を果たしている。

 精神経路(アストラルパス)を通じて力を送り込み、サンディーの回復を手伝っているし、今も、シアが盾による突撃(シールドチャージ)を受ける直前、身体を強化してダメージを和らげ、即座に受けた衝撃を癒し始めている。


「おっ、クロエ、上手い!」


 群れの中から、なんとか一体だけを引き離すことに成功した。


 残る五体がシアに向かって迫るが、包囲される前に姿を消した。

 現れたのはクロエの近く。さらに、そこへサンディーも召喚跳躍(テレポーテーション)してきた。

 これで、一瞬にして有利な状況が生まれた。

 サンディーとシアが正面から攻め立て、クロエの奇襲で撃破する。


 目の前でシアが消え、目標を失った五体のうち、二体がこちらへと迫って来た。

 だが、そのシアが、俺たちの前に現れると、迎撃するために走っていく。


「なんだか凄いな。みんな、そんな戦い方、どこで学んだんだ?」

「みんなで考えたんですよ。でも、まだお試しの状態ですし、練習もしていませんから、ぶっつけ本番なんですけどね」


 フェルミンさんの召喚体である風精霊(フィーリア)黒狼(ニック)が、移動と跳躍を使って、人一倍……どころか、人の何倍もの働きをしていた。

 それに感化され、この戦いに取り入れようと思ったらしい。


『クロエちゃんに強化を五で。その後、シアちゃんの治癒を二に』


 雑談しつつも、メイプルから念話で指示が飛んでくる。

 さすがにもう、これには慣れた感じがある。

 もはや条件反射で無意識に行えるレベルだ。


 俺の強化を受けてクロエが旋風を巻き起こすが、着地をしてもキメポーズをとらずに、土煙を上げて再び宙に飛び上がる。

 すかさずサンディーが飛び込み、ウォーハンマーを振るう。

 ドカッという鈍い音が鳴って攻撃が決まり、一体の人形が動きを止める。

 だが、それに目もくれず姿を消し、空中を舞うクロエの横に現れ、風で薄衣をスカートのように大きく膨らませながら、頭上から人形を襲う。

 その横で、クロエは再び旋風を起こした。

 今度は手応えがあったのだろう。ズサーっと地面を削りながら勢いを殺して、弧を描いて着地すると……


「秘技・風刃の舞い」


 逆手に持った小刀が、陽光を反射させてキラリと輝いた。


 これであと五体……と思った瞬間、俺の視界がグラリと揺れる。


「お兄さま!」


 メイプルが慌てて俺を支えようとしてくれるが、徐々に傾いていく。

 公衆の面前で妹を押し倒す兄の姿を思い描き、それだけは避けなければと必死に足を踏ん張ろうとするが、力が入らない。

 そこへ救世主が現れた。


「お兄ちゃん! 大丈夫!?」

「サンディーか。ごめん、助かった」


 俺もまだまだ、力の使い方がなっていないようだ。

 まだ敵が残っている状態で、召喚術士の俺が倒れるわけにはいかない。

 気絶したところで召喚体が消えたり、活動が制限されたりするわけではないが、指示やサポートが行えなくなると…………

 ふと気付く。よくよく考えてみれば、指示はメイプルが出しているし、サポートが無くても、みんななら互いに補い合えるはずだ。

 一般的な召喚体なら、戦闘中に主が気絶すれば、身の安全を最優先に考えて運び出し、戦場から離脱するだろう。こんな模擬戦なら、負けを宣告して戦いを終わらせようとするのだろうが、俺たちは一般的とはとても言えない。


「ごめんなさい、お兄さま。この方法は、負担が大きかったのですね」

「俺が不甲斐ないだけだ。メイプルのせいじゃないんだから、そんな顔をしなくてもいいよ」


 サンディーに支えられながらも、なんとか大地を踏みしめる。


「顔って、仮面で見えないですよね」

「おっ、ちょっと笑ったな? そんな仮面で隠していても、そのぐらいは分かるって。油断するつもりはないけど、ここまで来れば負けは無いんだろ?」

「はい」

「こんなこと、何度もさせられたら困るからな。フェルミンさんが納得するように……じゃないよな。この観客たちが召喚術に夢中になるような、そんな最後をキメてくれ」

「お任せ下さい。お兄さま」


 すぐにメイプルから指示が飛んできた。

 シアとディアーナの強化を十ずつに。クロエの強化は二を維持したまま、その他はゼロにする。




 シアの動きが明らかに変わった。

 水色の閃光が走り、人形の腕が宙を舞う。

 それが地面に落ちるよりも早く、ドカッと背中に、シアの大剣が突き刺さった。

 それで、終わりではない。

 人形の肩に乗ったシアは大剣を強引に引き抜くと、その勢いを利用して縦回転をしながら高く宙を舞い、もう一体の人形の頭に刀身を叩き付けた。


 今まで正面からまともに打ち合っていたことを疑問に思うべきだった。この機動力を生かした速攻こそが、本来あるべきシアの戦い方だ。

 あっという間に二体を屠り、どうだとばかりに胸を張る姿に、大きな拍手と歓声が沸き起こった。

 

『ウチがトリを務めるやなんて、ええんやろか』

『もちろんだ。最後だからな。派手にキメてくれ』

『そやねぇ。アニさまの頼みやし、ウチの取って置きでも出して、気張らないけまへんなぁ』


 ディアーナの姿が宙に浮かび上がっていく。


「とっておきって、何を……。ディアーナって実体化してても浮けるのか?」

「その逆のようですね。霊体化した上で、みんなからも見えるようにしているようです」


 薄衣が揺れる軽装鎧姿も相まって、本当に妖精のようだ。

 これがとっておきなのだろうか。たしかに目立っているが……


 よく見ると、手には錫杖が握られている。

 少し遅れて、空中に光でできた『実った稲穂』の聖印が現れた。


「豊穣の女神たるユーカティア様に祈りを捧げ、奇跡の行使を請い願い奉ります」


 この光景は見覚えがある。

 ディアーナが最初に見せてくれた聖法術の時に使ったものだ。

 この詠唱は、実際には必要が無く、見栄えを重視した布教活動のようなものだと言っていたが、たしかにこれは派手だ。

 それに、これだけ距離が離れているのに、声がはっきりと聞こえてくる。

 念話の類ではなく、耳から音で伝わってきているのが分かる。


 派手にと言ったのは俺だが、そういう意味じゃなかった。

 シアのように、武力で圧倒する様子を思い描いていたのだが……


「聖なる力よ、この罪深きモノたちに、救済の眠りを与え給え…… 聖法の鐘(ホーリーベル)


 光の聖印にぶら下がるように、光の鐘が現れる。

 教会にあるような鐘の形だ。

 かなり大きなもので、ここからでもはっきりと分かる。


 光の鐘が揺れ始めると、ディン、ゴーンと繰り返しながら、音を奏で始めた。

 荘厳な響きに導かれて現れた小さな光が、次々と三体の人形に降り注ぐ。

 その光に触れた箇所が、徐々に風化を始める。

 その様子が、「どれだけ強さを誇っていても、いつかは朽ちて果てるものなのだ」と言われているようで、哀愁を感じる。


「あいつ……、本当に天使だったんだな……」


 ゆっくりと、地面に舞い降りるディアーナを見つめながら、ついつい、そんな呟きが漏れてしまった。

 それほどまでに、神々しい光景だった。


「聖法術を使う召喚体って、驚いたわよねぇ。しかも、哀れな戦闘人形に救いを与えるって、にくい演出のオマケ付き。私も、まだ興奮が収まらないけど、夢のような時間もこれで終わりよぉ。この模擬演習の勝者は~、召喚術士と可憐な召喚体の少女たちぃ~」


 フェルミンさんはご満悦だ。ここからでも、すごく喜んでいる様子が分かる。

 観客たちも盛り上がっているが、その反応は二分していた。


 勝利を祝福するように鐘の音が鳴り響く中、多くの者は、凄いものを見せてもらったと無邪気に歓声を上げているのだが……

 聖法術科の生徒だろうか。一部の者は、涙を流しつつ神に祈りを捧げていた。


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