69 なぜ俺がこんな事を?
どうやら、ならず者たちの間で、俺たちのことが噂になっているらしい。
片手間に捕らえた相手の所持品から、なぜか俺と妹たちの似顔絵が出てきた。
しかも、危険人物と書かれている。
戦力分析の一環だろうけど、派手な活躍を見せるシアやクロエとは違い、俺の働きは地味だったようだ。
だから、キュリスベル王国がこの混乱を収める為に送り込んだ秘蔵っ子と、その指導者……ということになっていた。
そんなわけで、子供たちのいない今がチャンスと襲ったらしい。
本当に噂とは恐ろしい。
いつの間にか、もっともらしい話に仕上がっていた。
今までのことを思い返せば、そう思われても仕方がないと自分でも思えるだけに、さらに困りものだ。
「俺が指導者? 危険人物? なんでそうなる……」
「お前らのせいで、何人、仲間が捕まったと思ってやがる!」
「いや、ちょっと待て。それは話がおかしいだろ。そもそも、お前らが王都で悪巧みをしなけりゃ、捕まることもなかったんだろ?」
「何が悪巧みだ。これは正義の鉄槌だ!」
「まてまて、冷静に考えてみろよ。じゃあ、俺たちがお前たちの帝都で同じことをしたとして、正義の鉄槌だから仕方ねぇよな……って済ませてくれるのか?」
「ふざけるな! 我が帝都でそのような無法、許されると思っているのか!」
「だろ? この国の人たちが、お前たちに抱いてる感情がそれだよ。……まあいい。お前は帝国のためなら命を捨ててもいいと思ってんだろ? どうやらその願いが叶いそうだぞ」
「もちろんだ。私は祖国に命を捧げている!」
「だよな。……だったら、この作戦に参加した者、全員が処刑されても構わないよな。そう覚悟を決めて参加したんだろ?」
「全員……だと? そんな無法が……」
「いやだって、考えてもみろよ。お前たちはフレスデンの難民ってことだよな? 当然、フレスデンに確認をするが、違うと答えるだろう。となると、どうなる?」
「…………」
「お前たちは難民でもない、ただのならず者ってことになる。となれば、何の遠慮もいらない。ならず者が徒党を組んで国家に反逆したんだ。そりゃ、処刑されても文句は言えねぇよな?」
相手は何も答えない。
そりゃそうだ。答えられるはずがない。
作戦のことを漏らすわけにはいかないのだから、捕虜として扱えとも言えない。
「あのさ、考えてもみろよ。そもそも、他国まで来て混乱を起こす必要があったのか? 捕まったことを恨むよりも、こんなバカな作戦を立てた無能のことを責めるべきだろ?」
「逆らえるわけが……ない」
「いいや、違うね。逆らおうとしなかっただけだ。結局、その無能のせいで、お前たちは嫌々こんなことをさせられ、挙句に失敗して、捕まって、処刑されるんだ。命令した無能は、その結末を聞いても心を痛めもしないし、だったら次の作戦だ……なんて思いながら、居心地のいい場所で、酒でも飲んでるんだろうよ。そんな無能を排除しない限り、また同じ悲劇が繰り返されるぞ」
「それは……」
「いま、お前が怒るべき相手は、あの時、あの無能を止められなかったお前自身だ。方法はいくらでもあったろ? 仲間もいたはずだ。……だがまあ、それも今さらだな。そう長くはないが、処刑されるまでの間、しっかり考えてみるといい」
そう言い残し、俺はその男の前から姿を消した。
それにしても、フェルミンさんも無茶を言う。
俺に尋問をして欲しいとか、素人に何をさせるんだよ。
とはいえ、相手が単純で助かった。おかげで、貴重な証言も取れた。
もちろん、全て、メイプルによるサポートのおかげだ。
こっそり彼女を召喚跳躍させ、物陰に潜んでもらった。
そこから様子を見て、俺に念話で指示を出してくれていたのだ。
「ほんっと、メイプル、助かった。ありがとう」
「いえ、いいんですよ。前から思ってましたけど、お兄さまって、演技がお上手ですよね。途中からノリノリでしたよ?」
「いや、だって、やるからには失敗したくないし。相手は俺を、すごい人物だと思ってるんだろ? それを利用して尋問して欲しいって、フェルミンさんからも頼まれたから」
そのフェルミンさんは、報告に向かった。
他の無法者を仲間と呼び、フレスデンは認めないという言葉に反論をしなかった。それに、我が帝都という言葉は証拠としては決定的なものだ。
帝都のある国は、サンクジェヌス帝国しか存在しない。
その結果を伝えに行ったのだ。
フェルミンさんが戻ってくるまで、俺、メイプル、クロエ、ディアーナの四人と、風精霊は、食事のできるお店で時間を潰すことになった。
休業中だったのだが、フェルミンさんがお願いしたらしい。
もちろん、全部フェルミンさんのおごりだ。……とはいえ、物流が滞っているこの状況なので、足りない材料も多い。
なので、軽いおつまみと飲み物と注文し、何が出てくるかは店側にお任せした。
「明日、試験だっていうのに、何をしてんだろな、俺」
「少し、予習をしておきますか?」
「いや、できればもう、ゆっくり休みたいな。……フェルミンさんも、なんでこんなことをやらせたんだろうな」
「そうですね……。王都の騒動も帝国による陰謀だった……その確証が必要だったのでしょうね」
この国では拷問は禁止されている。
敵もそのことを分かっており、いざ尋問が始まると、頑なに口を閉ざすようだ。どうやら、そういう訓練を受けているらしい。
でも今回は……
新兵まるだしの相手、丸腰の相手に負けた衝撃、いかにも素人そうな俺、それに似つかわしくない噂……
怒りと混乱で冷静な判断を失うには十分であり、つい本音が漏れやすい条件が整っていた。
だから、その屈辱を与えた俺が適任だったのだろう……ということだ。
桃のジュースを飲みながら風精霊が質問する。
「ハルキ、名演技だったわよ。でも、最後のは必要だったの?」
「最後の? ……ってなんだ?」
「無能を排除しろーっとか、反乱を煽ってたわよね?」
「あーそれは、俺も思った。メイプル、あれでよかったのか?」
あはは……と、メイプルは苦笑する。
「私は、こんな謀略を仕掛けても無駄ですよって、釘を刺しておきましょう……って伝えたのですけど。でも、お兄さま、期待以上で素晴らしかったですよ」
「あれ? そうだったか?」
役に入り込んでいたからか、その辺りの記憶があいまいだ。
でも、失敗じゃなかったのなら、それでいい……と思う事にした。
なんだか、風精霊からは、呆れたような視線を向けられているが……
ちなみに、なぜかフェルミンさんは魔獣使いだと思われていた。
そういえば、あの時、黒狼の姿がなかったことを思い出す。
だから余計に、好機だと思ったんだろう。
その魔獣使いが……いや、フェルミンさんが戻ってきた。
「みんなぁ、お待たせ~」
報告の結果が良かったのだろう。なんだか異常なほど機嫌が良さそうだ。
テーブルの上に小袋が置かれる。
「はいこれ。ハルキの報酬よぉ」
「報酬? ……そんなのが出るんですか?」
「当然よぉ。さあ、帰りましょ」
「あっ……はい」
中には小金貨が十枚入っていた。
大銅貨に換算して四千枚。堅パンが二千個も買えてしまう。
たったあれだけのことで、この金額は異常なように思えるが……
「フェルミンさん。こんなにもらってもいいんですか?」
「いいの、いいの~。家族が増えて、いろいろとお金がかかるでしょ? ありがたくもらっておけばいいのよ」
たしかにそうだけど……
「正当な報酬でしたら、返されてもフェルミンさんが困るだけですよ」
そうメイプルに言われ、じゃあ遠慮なく……と、精神収納に放り込んで、席を立った。




