66 ただいま、ケットシーハウス
建物の外では、実体化したディアーナが待っていた。
何か面白いことはあったか……と聞いてみたら、返ってきた答えは……
「人を助けたんやけど、したら、こんなんくれはらはって。これ、何やろか」
差し出されたのは、討伐証明書。それも三枚……
なんだか戻りにくい雰囲気だったが、持っていても仕方がない。
ディアーナの紹介も兼ねて、もう一度、冒険者組合商用門前出張所に入り、討伐証明書を預けた。
風精霊の口添えもあったが、フェルミンさんかマリーさんに確認した上でとなるが、俺の同行者と認められるだろう……という答えを頂いた。
敵の親玉が捕まったとはいえ、まだまだ物騒な雰囲気だ。
なにか不都合なことがあってはいけないので、サンディーに確認したのだが、正面玄関から入ってきてもいいらしい。
ケットシーハウスに入ると、管理人さんと、五人のメイドさんが深々と頭を下げて出迎えてくれた。
「ハルキ様、メイプル様、クロエ様、ディアーナ様、おかえりなさいませ」
「ただいま……って、シア……と、サンディーか。何やってんだ?」
三人のメイドに混ざって、二人も一緒になって頭を下げていた。
わざわざ服を借りて……ではないな。サンディーが作ったのだろうか。
「どう? お兄ちゃん、なかなかいいと思うんだけど」
「全く違和感がないぐらい似合ってるけど……、わざわざ作ったのか?」
「えへへ……、分かる? 予備の服を頂いて、仕立て直してみたんだけど。ほらほら、シアも似合ってるでしょ?」
どう? ……とばかりに、シアはその場でくるりと身体を回転させる。
ふわりとスカートが広がり、花が咲いたかのように華やかになった。
「似合ってるし可愛いけど、ここまで改造すると、もはや別物だな」
「少しドレス要素を強く入れてみたんだけど、違和感がないでしょ?」
「ああ、さすがだな」
シアの頭を優しくぽふぽふする。
本格的に撫でたら、綺麗にセットされた髪が乱れそうなので、手をのせるように優しく当てつつ、少しだけ撫でる感じだ。
「セラさん、皆さんも、ただいま戻りました。マリーさんは、ガイゼル閣下と一緒に向こうに残られましたけど、すぐに用事を終わらせて……たぶん、数日のうちには戻られると思います」
「その様ですね」
恐らくサンディーあたりから、先に話を聞いていたのだろう。
ニッコリ微笑んで、奥へ進むようにと促される。
「皆様、お疲れでしょう。まずはお部屋で、おくつろぎください」
「ありがとうございます。じゃあ、そちらのメイドさんに案内してもらおうかな」
「任せて、ハル兄。ついて来て」
あまり気にしないようにしていたが、やはり外では常に緊張していたのだろう。
やっと安全な場所に戻ってきたと実感し、肩の力が抜けた気がする。
シアに案内され、いつもの子供部屋へと向かう。
今のところ、王都で一番くつろげる場所だ。だが……
「ハルキ~、おそ~い」
さっきまで横になっていたのだろう。フェルミンさんが、なぜか待ちくたびれた感じで、上半身を起こしてこちらを見ている。
しかも、いつもの魔女服ではなく、部屋着になっていた。
ウラウ村では……というか、今までずっと黒ローブ姿しか見てなかったので、すごく新鮮な感じだ。それに、すごく幼く見える。
メイプルと同じぐらい……というのは、さすがに言い過ぎだが、サンディーと同年代だと紹介されたら、信じてしまうレベルだ。
それはいいとして……
「ようやっと、戻られましたわね。ワタクシ、待ちくたびれましてよ」
「えっ? なんで?」
なぜかもう、マリーさんも戻ってきていた。
管理人さんの微笑みは、そういう意味だったのだろう。
考えてみれば魔導術士だし、初めて会った時も空を飛んでいた。
宮廷魔導術士ってぐらいだから、空を飛べば、馬車より遥かに速いのだろう。
「空を飛んできたのですね。便利そうでいいですね」
「あら? ハルキは魔導術に興味が? 宜しければ、ワタクシが師となりてお教えいたしますわ」
し……って、師のことだよな……
いやいや、二人の特命官が師匠とか、どんな英才教育だ。
そりゃまあ、使えるようになったら、便利だとは思うけど……
「あ~、だめだめ。ハルキは立派な召喚術士になるんだからぁ。魔導術士にはあげないわよぉ」
「召喚術士になれるということは、魔導術士の素質もあるということ。であれば、どちらを選ぶのかは、ハルキ自身が決めることですわよ」
なんだ、この状況……
よくよく考えてみれば、この二人、王女殿下と、伯爵さま……なんだよな。
いや、もちろんじゃれ合っているだけだとは分かっているが、雲の上の人たちだとは思えないほど……なんというか、親しみやすい。
「ハルキぃ~、あなたからもハッキリいいなさいよぉ。ハルキは召喚術士になるんでしょ?」
「ハルキ、魔導術が使えるようになったら、便利ですわよね?」
やば……、矛先がこちらに向いてしまった。
なんだろう、和やかなじゃれ合いだと思っていたのに、二人から放たれる圧がすごい……
「両方とも使えるようになったら、便利ですよね。学院だと、どれかを選ばないとダメでしたけど……」
あれ? 何故か二人は、落胆したような表情で、そろってため息を吐く。
少し遅れて、風精霊も現れて、呆れたように苦言を漏らす。
「あのね、ハルキ。そりゃまあ、無知なのは仕方がないけど、さすがにそれは常識が無さ過ぎでしょ」
「常識って言われてもな……。俺、子供の頃は、小間使いのことしか教えてもらえなかったから。教育っていうのをまともに受けたのは、学院に入ってからだし」
「そう……だったわね」
しまった。風精霊が落ち込んでしまった。
どうせ、俺の事情を知っていたのに、気付かず酷いことを言ってしまった……とでも思っているのだろう。
「分からなかったら、メイプルに聞けば教えてくれるんだけど、分からないことすら分かってなかったら、お手上げだからね。そういう時は、フィーリアも助けてくれると嬉しいんだけど」
「ふ……、ふ~ん、仕方がないわね。じゃあ、その辺りのこと、今から私が教えてあげるわ」
「よろしくお願いします。フィーリア先生!」
傍から見れば単純と思われそうだが……
俺が風精霊の扱いを心得ている……というわけではない。この場の空気を悪くしないために、風精霊が俺の言葉に乗ってくれたのだ。
そんなわけで、即席の授業が始まったのだが……
罪滅ぼしのつもりなのか、風精霊は、いつになく優しく丁寧に教えてくれた。




