64 兼業冒険者
王都の雰囲気は、緊張感に包まれていた。
見かけるのは騎士や兵士、それに冒険者などの武装した人たちばかり。
なので、俺たちみたいなものが出歩いていると、すっごく目立つ。
何度も声をかけられ、屋内に避難するよう言われたが、風精霊が現れて「マスター・フェルミンのお使いよ」と答えれば、複雑な表情を浮かべて「お気を付けて」と通された。
見知った冒険者たちからは「また、囮でもやってんのか?」と、からかわれたりもしたが、この場は任せて先に行け……と、説明を買って出てくれた。
念のために召喚術士を示す『杖と鉄鎖』の紋章が入ったブローチを付けているのだが、やはり見習いである『卵の影絵』では、効果はないようだ。
ましてや、小さな子供を連れているだけに、見過ごせないのだろう。
実のところ、俺よりも、この子たちのほうが優秀なのだが……
「そういや、フィーリア。敵の親玉はどうなった?」
「ふぇっ? 親玉? ……あー、王都攻略隊とか名乗っている連中ね。それなら、もう大丈夫のはずよ。敵のアジトは壊滅、親玉も捕まったわ」
「そっか。それはよかった。フィーリアもお疲れさま」
「ちょっ、なによ、いきなり……」
相変わらず、真正面から好意を伝えれると弱いようだ。
「じゃあ、お兄ちゃん。先にケットシーハウスに戻ってるね」
「おう、任せた。じゃあ、シア、サンディーの護衛、しっかり頼んだぞ」
「ハル兄、任せて。シア、ディー姉のこと、しっかり守る」
向こうにも準備が必要だろうからとサンディーが言ったので、先に伝えてもらうことにしたのだが……
無意識かも知れないが、すっかりサンディーには、あの場所が俺たちの『戻る場所』になっていたようだ。
二手に分かれ、俺たちは冒険者組合へと向かったのだが……
「ディアーナ、いつまでそうしているつもりだ?」
なぜか幽霊状態で、姿を消して宙に浮いている。
まあ、姿を消していても、俺や妹たちには見えているのだが……
「アニさま、気にせんでええよ。ぞろぞろ連れ立って歩くんも目立つよって。それに、こうして上からやと、いろいろ見えたりするんよ」
「まあ、ディアーナがいいなら、それでいいけど、何があるか分からないから、気を付けてくれよ」
「気ぃ付けんのは、アニさまのほうえ」
いてて……という声に続いて、カランと何かが落ちた。
どうやら、ナイフを持った男が近づいてきていたらしい。
それをクロエが取り押さえたのだ。
そうだな……とディアーナに答え、素早く男を縛り上げて詰め所に連行する。
証拠のナイフは、メイプルが布に包んで運んだ。
なんだろう、こんなことに手慣れてしまっている自分たちが怖い。
なんだか変な気分だ。
別に俺は冒険者ではないので、ここでは部外者のはずなのだが……
冒険者組合でも予想外に、無事でよかったと温かく迎えられた。
どうやら、暴走馬車の話がここまで伝わっていたようだ。
まあ、それはいいとして……
ぽふっと、討伐証明書の束をカウンターに置く。
なんだかんだと、気が付けば十枚近く溜まっていた。
「あれ? お姉さん、髪を切ったんですね。なんだ雰囲気が、いつもと違う感じになりましたね」
何か変だっただろうか。なぜか楽しげに笑われてしまった。
「お兄さま、この方は、いつもの方とは違いますよ」
「えっ? でも……」
メイプルに指摘され、お姉さんを見つめるが……
う~ん、いまいちよく分からない。
「髪を切って、少しお姉さんって感じが薄まったように思うけど、その分、雰囲気が柔らかくなって、すごく親しみやすく……」
「……兄者。その様な事は、本人を目の前にして言う事ではないかと」
しまった。つい変なことを口走ってしまった。
困ったように俺の服を引っ張ったクロエに指摘され、慌てて謝罪する。
「すみません。余計なことを……」
「いえ、いいんですよ。たぶん、姉と間違われたのですね」
「姉妹で受付を?」
「自分で言うのもなんですけど、キャロル姉妹って有名なんですよ」
なるほど……とは思ったが、それでも間違うのは失礼だろう。
とはいえ、今回の騒動が収まれば、来ることもなくなるのだが。
「私は、ネイザ・キャロルです。ネイザって名前で呼んでくださいね。姉の名前は知っていると思いますけど、イライザです。姉妹共々、これからもよろしくお願いしますね」
「ハルキ・ウォーレンです。こっちが妹の……」
メイプルとクロエも挨拶をする。
実のところ、今までイライザさんの名前を知らなかった。
よくよく考えたら、初めてここに来たときは、全てマリーさんにお任せしていたので、その辺りの記憶が曖昧だった。たぶん、聞き逃していたのだろう。
「それではハルキさん。冒険者カードをお願いします」
「あの……俺、冒険者じゃないんですよ」
「あー、……じゃあ貴方が、あのフェルミンさんのお弟子さんなんですね?」
たぶん、姉やここの人たちから、何かを聞いていたのだろう。
悪い噂じゃなければいいんだけど……と思いつつ、コクリとうなずく。
「でも、もったいないですよ。冒険者になったからといって、特にノルマはありませんし、様々な講習も割安で受けられます。それに……」
なんだか、お姉さんと違って、妹さんは営業熱心なようだ。
しかも何だか、押しが強い。
「別にいいんじゃない? ここにいる間だけでも入っておけば?」
「フィーリア……、でも俺、農夫だし、商業組合のこともあるから、掛け持ちってのも大変だろ?」
「大変っていっても、ここにいる間は商業組合から何かを頼まれることはないんだし、掛け持ちしたらダメって決まりはないんだから」
受付さんは、突然現れた風精霊に驚いたようだが、それでも怯まず説得を続ける。
「そうですよ。今なら、わずかな登録料で、協力金が二倍近くになるんですよ? 絶対に入らなきゃ損です!」
そうは言われても、試験のこともあるし、フェルミンさんやマリーさんとも相談したいところだが……
その辺りのことも含めて、本当に入っても大丈夫なのか、後で面倒なことにならないのかと、念を入れて風精霊に確認する。
「それはまあ、全く何もないってわけじゃなわよ。今回みたいなことになったら召集されたりもするけど、たしか強制じゃなかったはず……」
「国王様の命令による動員だと強制になりますけど、それこそ他国が戦争を仕掛けてきて、王都が危険な状態にならない限り、そんなことにはなりませんよ」
「そんな事になったら、どうせあんたは間違いなく巻き込まれるんだから、気にせず入っておけばいいわよ」
「王都で発行された冒険者カードならば、国内の全ての組合で有効ですから、どこでもサポートが受けられますよ」
参った。なんだか、この二人に勝てる気がしない。
もし、ここで怪しげな壺を持ち出されても、丸め込まれて買ってしまいそうだ。
助けを求めるように、メイプルを見つめる。
メイプルは小さくうなずくと、交渉……というか、条件の確認を始めてくれた。
解約や更新の手続き、その料金や滞納の扱い、冒険者カードの紛失や再発行、冒険者の仕組みに至るまで、俺が気付かなかったことを次々と質問していく。
「分かりました。お兄さま、お受けしましょう」
「そうか。わかった」
メイプルがそう判断したのなら、俺に異存はない。
二つ返事で、冒険者となることに決めた。




