63 なぜ検問を突破したのか
いくらなんでも、検問を突破するのはマズいと思うのだが。
しかも、前を黒狼が走って、障害物を排除している。
さすがに速度を落としているが、それでも街中を走る速さではない。
何度か角を曲がり、恐怖を感じるような横揺れに耐えていると、ようやく暴走馬車が止まった。
「やっときたわね。ハルキ、出番よ」
「フィーリア? 出番? どういうこと?」
小さな風精霊が、出てくるなり、急かすようにそんなことを言う。
大体ここはどこだ?
「治療所が襲われてるから、あなたたちで、どうにかしてみなさい」
「治療院が? いや、うん。分かったけど、フェルミンさんは?」
「だから、マスターは謹慎中なんだって。ガイゼル閣下の指揮下以外で、力を使ったらダメって、国王様から言われてるのよ」
風精霊は、しまったって顔をしながら、慌てて手で口を押える。
「前も禁じられてるって言ってなかったか? あー、やっぱりまた、何かやったんだな……」
「その話は後で。それより……」
「ニックやフィーリアを使うのはいいのか?」
「そんなの、当たり前じゃない。私たちまで禁じたら、任務はどうするのよ。いや、だから! それはいいんだって!」
「あー、今、クロエとディアーナに状況を探ってもらってる。相手は五人で、職員の二人が怪我をしているみたいだけど、軽いものだってさ」
「ハルキ、いつの間に……」
いつの間にも何も、王都で馬車を暴走させるって、よっぽどのことだから、隣に座るメイプルに、状況を探って欲しいとお願いしただけだ。
あとはメイプルが、ディアーナとクロエに指示を出したのだろう。
馬車が止まった時に、黒猫が外へと飛び出していった。
「もう、終わったようだぞ。いや……」
馬車の中から怪しげな人影を発見し、チラリをメイプルを見る。
何も言ってないが、メイプルは小さくうなずき、すぐに対応した。
「全部で八人……だな。さすがに、もう追加はないよな」
「そうですね。周りも見てもらいましたけど、大丈夫のようです」
「よし。メイプル、お疲れさま……は、まだ早いか。怪我人を運ぶ準備を頼む」
「分かりました。お兄さま」
フェルミンさんに報告すると、治療所へ一緒に来るように言われた。
なので、サンディーに馬車のことを任せ、シアと一緒に外へ出る。
建物に入ると、何だかすごく荒らされていた。
だけど被害は、入り口付近と受付だけらしい。
幸い診療には差し支えないようで、怪我人の受け入れも問題ないようだ。
治療所で、白衣を着た人が怪我をして、例のフリフリ服を着て実体化したディアーナに治療をされている。
しかも、なかなか手際が良いらしく、うちで働いて欲しいと口説かれている。
なんだかなぁ……と思いつつ苦笑していると、フェルミンさんに呼ばれた。
「所長さ~ん、この子がハルキよぉ」
いきなり過ぎて、何が何やら。
とにかく目の前に立つ女性は、ここの所長らしい。
「えっと……、初めまして、ハルキ・ウォーレンと申します。あの……、もしかして、フェルミンさんのお姉さんですか?」
「違います!」
あっ、思いっきり嫌な顔をされた……
体格はもちろん、大きな丸眼鏡や髪型も……こちらは、青髪を大きな三つ編み……というかエビ編みにしているが、物静かで理知的な雰囲気が似ている。
もっとも、フェルミンさんの場合は、見た目だけは……という注釈がつくが。
「私は、ミルファ・ブラッドリー、ここの所長をしております」
「失礼しました。少し似たものを感じましたので。フェルミンさんの場合、少し暴走気味、いてて………痛いですよ、フェルミンさん」
思いっきり、ほっぺをつねられてしまった。
なぜだろう、所長さんが信じられないものを見た……って感じで、驚いている。
「ありがとうございました。妹さんたちに助けて頂いたおかげで、被害が少なくて済みました。貴方の指示だと聞きましたが?」
「指示だなんてとんでもない。俺はお願いをしただけで、これは彼女たちのお手柄ですよ」
「そうでしたか。ですが、本当に助かりました。所員一同を代表して、お礼を申し上げます」
「お言葉、ありがたく頂戴いたします。妹たちにも伝えておきますね。それでは、騎士の皆さんのことをお願いします」
「はい。承りました」
クロエの姿を見かけ、フェルミンさんの許可を得て離れる。
「クロエ」
「兄者、裏口の三人も引き渡してきました」
「そうか、ありがとう。被害のほうは大丈夫だったか?」
「もちろん、何もさせませんでしたよ」
「そうか。よくやった」
よしよ~しと、喉を……つい撫でてしまった。
だがクロエは、抵抗せずに受け入れている。
いつもなら、シアもせがんでくるのだが、この光景が面白かったのだろう。クロエに抱き付いて、頭を撫で始めた。
フェルミンさんは、まだ用事があるらしい。
なぜか風精霊が同行することになった。
「ハルキのお守り役だからね。先にケットシーハウスで待ってればいいけど……、その前に、馬車を預けないとね」
負傷者の搬出が終わり、空になった馬車を預けるため、商業組合へと向かったのだが、やはり、苦い顔をされてしまった。
そりゃそうだ。
検問破りなんてすりゃ、怒られるに決まっている。
しかも、街中で馬車を暴走させるというオマケ付きだ。
その事情を風精霊が説明する。
負傷者を搬送する先の治療所が、ならず者に襲われていたので、急いで駆け付けたのだと。
所員に軽傷者がでたものの、ならず者は無事に全員捕縛され、治療所の機能にも問題はないと付け加える。
実行犯はフェルミンさんとはいえ、俺の馬車だ。
申し訳ありませんでしたと、深々と頭を下げて謝罪したのだが……
「そりゃ、災難だったな。フェルミン相手じゃ、しょうがねぇや」
「馬車が無事だったのは、運が良かったぞ」
「お前さんにゃ罪はねぇよ。だから心配するな。もし役人が何か言ってきても、お前さんたちとこの馬車は、俺たちが全力で守ってやるからな」
なぜか思いっきり同情され、励まされてしまった。




