60 神の奇跡
ディアーナの聖法壁によって、盗賊たちは、それ以上馬車に近付けなくなった。だが、その聖法術には、すでに入り込んでいる相手を排除する効果はない。
メイプルの指示を受けて、サンディー、シア、クロエの三人は、そんな運の悪い相手を次々と無力化していく。
『お兄さま。次は、ディアーナさんに強化を三十三でお願いします』
『分かった』
さっきよりも多く!?
そう、内心で驚いたが、言われた通りに従う。
「聖法壁!」
ディアーナが再び、聖法術を使う……のだが。
効果が発動し、効果が安定したのを見計らって声を掛ける。
「おいおい、ディアーナ。神への祈りとか、聖句はどうした?」
「えへへ……。アレ、気に入ってくれはったん? なかなか様んなっとったやろ? やっぱり、聖騎士は見栄えも大事にせんといけんからねぇ」
「いやいや、そうじゃなくて。今、祈りも聖句もなしに聖法術を使わなかったか? 神に仕える人って、そういう儀式とかに厳しかったと思うんだけど」
「あらまあ一種の布教活動やし、別に無くても構へんのよ。聖句は人に聞かせるもんやない、自分に言い聞かせるもの、自分の中から湧き上がるもんやからねぇ」
そういうものなのか……と、納得しかけたが、聖法術を使っているようだが、どこか型破りだし、彼女を聖法騎士だと思っていいのか、ますます怪しくなる。
それはさておき……
「これって、どういう状況なんだ?」
「なんやウチも分からへんのやけど、メイプルはんが罠を仕掛けるぅゆうてはったわ。二重に結界を作って、敵さんを間に閉じ込めるぅゆうてはったよ? しばらくこのまんま待てばええんやて」
聖法壁は、自分や味方を護るために使われる聖法術だが、ディアーナが言うには、要するに、術者が許可したモノしか通れない結界らしい。
だから、少し工夫をすれば一方通行になるし、その結果、一度入ったはいいが出られなくなる……なんてこともできるようだ。
メイプルは、それを利用して罠に使ったんだろう。
内側の結界に遮られ、馬車に近付けなくなった敵たちは、悔しそうに殴ったり、大声で怒鳴り散らしたりしている。
どうやら武器も通さないようで、剣や投石も跳ね返していた。
諦めたのか、戻ろうとした敵が、今度は外側の結界に阻まれて驚いている。
罠にはまったことに気付いた者たちが、仲間に近付くなと注意を促すが、別の方向から馬車に近づこうとして、罠にかかったりしている。
しかも、黒狼が暴れて、警戒している相手を罠へと追い込む。
「なんというか……さすがメイプルだな。でも、この後どうするつもりだ?」
「そんなん、一気に片付けるに決まって……ちょお待って。………なんや、もう片付けてもええらしいよ。ご主人さま、ほなまた頼んますね」
その直後、メイプルから、ディアーナに強化十五の指示が来た。
シアたちへの持続する強化と違って、ディアーナへは瞬間的な強化を何度も行っている。たとえこれで、合計で百を超えたからといって限界を迎えるわけではないが、確実に疲労は蓄積されていく。
ずいぶん力を使ったので、この調子だと、すぐに俺は役立たずになるだろう。
これで決着が付かなかったら、かなりマズイ事になりそうだ。
……そんな不安を抱きながら、ディアーナを強化する。
どうやら、今度は剣を使うようだ。
「豊穣の女神よ、騒乱を起こし、この大地を穢そうとする愚か者たちに、天の裁きを与え給え……」
まるで、この場が劇場の舞台になったようだった。
決して大声を張り上げているわけではないのに、広く遠くまで響き渡る。
抱く様に持った剣が、徐々に輝きを増していく……
敵味方が注目する中、ディアーナは、その剣を天に突き上げた。
「天罰の光」
怒りや悲しみなどの感情が一切ない、無感情な言葉が、無慈悲に放たれる。
突き上げられた剣先から光が天へと立ち昇り、しばらくして、再び地上へとシャワーのように降り注いだ。
「これも聖法術だよな。こんなの初めて見た……」
明るい中でも分かるぐらいだ。これが夜なら、さぞかし幻想的だっただろう。
俺の身体にも光が降り注いでいるが、特に何の変化もない。……いや、そういえば、疲れが取れているような気がする。
なのに、なぜか敵はもがき苦しみ、頭を抱えるようにして地面に倒れ伏し、涙を流しながら何かを呟いている。……懺悔の言葉だろうか。
二重結界の牢獄は、ある意味地獄絵図となった。
「そらまあ、大司祭でも使えるかどうか分かれへん大技やから。そないに心配せんでも、今回は自己紹介を兼ねたお披露目やさかい使わせてもろたけど、こないに恐ろしいもん、そうそう簡単には使わへんよ」
そりゃそうだ。こんなものがポンポン使えたら無敵すぎる。
今のうちに全員を拘束するよう、メイプルから指示が出た。
いい年したおっさんが、怯え震え、涙を流し許しを乞う姿は、見るに堪えない。
だが、私情を殺し、武装を解除して縄で縛り上げていく。
さすが、クロエは手際がいい。
俺が一人縛り上げている間に、三人近くを処理している。
そのクロエが、いきなり動きを止め、周囲を見渡したかと思うと、処理中の男を放り出して姿を消した。
不思議に思いながら、その続きを引き継ぎ、ついでに念話で確認する。
『お兄さま、どうかされましたか?』
『忙しいところ悪いな、メイプル。いきなりクロエが消えたんだけど、何かあったのか?』
『その……、ブラワーって人を見つけたようです』
『ブラワー? 誰だそれ?』
『この陽動隊の隊長ですよ。どうやら離れたところから、この様子を見ていたようで、逃げたから捕まえてくるって言ってます。……いえ、もう捕まえたようです』
さすがクロエだ。仕事が早い。
『そういや、騎士たちはどうした?』
『あのお二人には、近くの町へ、応援を呼びに行ってもらいました。五十人近くも連行するのは大変ですから……』
『あー、そうだな。それは助かる』
騎士たちは、盗賊の馬を使って町へと向かったらしい。
そう遠くないとはいえ、相応の時間はかかる。
その間に、陽動隊長を捕らえたクロエが戻り、フェルミンさんは例のごとく、ディアーナの身体を隅々まで調べて堪能していた。
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