58 それはまるで透き通るような
ウラウ村に戻って、みんなで仲良く作物を作りながら楽しく過ごしたい。
その為には、ちゃんと資格を取って、いざという時の為に、みんなの身分を保証してあげる必要がある。
見習いだと年数が経てば失効する。
フェルミンさんの弟子を続けていれば、更新されるかも知れないが、それにも限度があるだろう。
別に資格を失ったからといって、俺の能力は消えないし、妹たちが消えたりすることはないが、その力が危険だと判断されれば、自由が奪われる……こともあるらしい。
その辺りのややこしい事は全て、国家召喚術士になることで解消される。
そう思い、試験を受けるため、わざわざ王都へとやってきたのだが……
なぜだか盗賊のフリをした、隣国の兵士に襲われていた。
多勢に無勢の状況を覆すには、何か強力な召喚体を呼び出すしかない。
それが叶わなければ、妹たちから『命を奪ってはならない』という枷を外し、俺自身も手を血に染める覚悟をしなければならない。
俺は杖を握りしめて意識を集中させる。
この杖は綺麗な直線の、少し太いステッキのような形状だが、その正体は、シアを呼び出すときに使った、折れたクワの柄だったものだ。
それをメイプルの発案で、サンディーが杖に加工した。
長らくクワの柄と呼んでいたのだが、やはり名前を付けようとシアに決めさせたのだが、なぜかクロエと命名した。
さすがに、同じ名前だとややこしいし、そもそもこの杖とクロエには関連性がない。そう指摘すると、だからこそクロエがいいと頑なに答えた。
そうすることで何か絆の証にしようと思ったのだろうか……
その意図までは分からないが、ならばとクロエの本当の名前『黒霧』と名付け、シアにも納得してもらった。
それに『黒霧の杖』って、何か意味深で格好良い感じがして、俺自身とても気に入っている。
……思い出に浸っている場合ではない。
だがこれで、クロエを呼び出した時の気持ちを思い出した。
召喚を成功させなきゃ……と思ったが、それではあの時と同じように失敗するだけだろう。だから……
周りを見て、この状況で何が必要なのかを考える。
敵に打ち勝つ強さ……では、シアと同じだ。
一番大事なのは馬車を護ること。
いや違う。負傷者を護ること……、命を救うこと……
敵も味方も、誰も殺さず命を護り抜く強さが欲しい。
そう思った瞬間、自然と杖が動き召喚陣を描き始めていた。
「大いなる慈悲を以て、苦難より我らを救うべく、我が呼びかけに応えよ! 召喚!」
不思議だった。
口からあふれるように、自然と聖句が零れ出た。
……なのに、何も起こらない。
「やっぱり、そう上手く………ん?」
そういえば、シアの時は、姿を現すまで時間差があった。
召喚陣はまだ消えていない。
それどころか、徐々に光を増しており、あふれる力もどんどん強くなって……
とにかく、何か今までとは違う感じがする。
「天使?」
ひざを抱え、身体を丸めるようにした天使が、空中に現れた。
いや、天使のような女の子だった。
少しウェーブのかかった長い赤髪に、輝くような白い肌。人間のようだが、どこか人間離れした雰囲気を感じさせる。
召喚には成功したようだけど、肝心なのはその能力だ。彼女の力で、この状況を打破できるのか、それが重要だった。
緊張している俺の目の前でその少女は手足を伸ばし、ゆっくりと目を開き、その金色の瞳が俺を見つめた。
今までの召喚体も少し浮いた状態で現れ、フワリと着地していたのだが、この女の子は宙に浮かんだままだ。
「いややわぁ、天使やなんて。ご主人様は、そういうご趣味をお持ちなん?」
「趣味って、どういう意味なのか気になるけど、肌が透き通ったように綺麗だし、一瞬羽根のようなものが見えた気がしたから」
見間違いだったのだろうか……
身体は小柄……の印象を受けるが、メイプルよりは背が高そうだし、少し年上のように思える。可愛い雰囲気なのだが、とにかく胸のふくらみが大きい。間違いなく、サンディーよりも大きいだろう。
チラッと、右脇の下に召喚印が見えた。
「まあ、分かりはりました? 触ってもろたら分かるんやけど、ウチ、実体があらへんのよ」
言われてみると、微かに透けているような気がする。
バサッと、馬車から服が投げ落とされ、見上げるとメイプルと目が合った。
慣れというのは恐ろしい。
裸の女性を前にして、全く気にせず観察していた上に、遠慮なく肌に触れようとしていた。
慌てて手を引っ込める。
「俺はハルキ・ウォーレン。詳しい事は、他の妹たち……召喚体たちに聞いてもらえると助かる」
「いもうと……? そやった。自己紹介がまだやったねぇ。ウチはディアミリアスフィリーナ。見ての通り……ん~、幽霊ってことになるんかな? ご主人様、こんなウチでも契約してくれはりますか?」
「ディアミリ……えっと、なに? あー……いや、それより、とりあえず服を着てもらってもいいか?」
「契約は……」
「するする、だから服を……」
「えへへ……。せやったら…………これでええかな?」
自分で道具生成したのだろう。身体を覆うように服が現れ、ふわりと地面に降り立つ。
空気をはらんで揺れる服は、なんだかフリフリが多くて、どことなくケットシーハウスのメイドさんが着ていた服を、大胆かつ華やかにしたような印象を受ける。
それに、契約をし易いようにだろう。脇ががら空きで、召喚印も見えている。
気付けば、サンディーがこちらを睨んでいた。
睨みながら、背後から迫る敵を蹴り飛ばした。なんとも器用なものだ……だなんて、言ってる場合じゃない。
投げ落とされた服を拾って、頭を下げながら馬車内のメイプルに返し、分かってるからと小さくうなずいてから、再び少女と向き合う。
「へぇ、変わった服だけど似合ってるね。可愛いよ」
「せやろ? ご主人様、こういうの好きかなって思て」
「その、ディアフィ……ーナ? えっと、ごめん、名前をもう一度、教えてもらってもいいかな?」
「ディアミリアスフィリーナ……やけど、やっぱり長いし覚えられへんよね。せやったら、ディアーナって呼んでもろてええよ」
「ありがとう。じゃあ、ディアーナ。今、どんな状況か分かる?」
「そやねぇ……、よう戦ってはるけど、かなり厳しいようやねぇ」
「味方を助けるのはもちろんだけど、できれば、敵を殺さずに全員捕まえたいんだ。ディアーナの力でなんとかできないか?」
「ん~……」
アゴに指を当て、首を傾げて考えている。
やっぱり、難しいようだ。
「せっかく期待してくれはったんやし、任せて……って言いたいんやけど、やっぱり、ご主人様と契約して、力を借りんと難しいわぁ」
「分かった。契約しよう」
「ええっと……、気持ちのええほど即答しはるねぇ。あとからイヤヤゆうても、もう離しまへんえ?」
迷いはなかった。
なんとなく普通じゃない事には気付いていたが、そもそも俺の召喚術は、異例なことだらけだ。今さら、実態を持たない女の子だからといって拒否する理由にはならない。
契約し、力を貸せば何とかなる……というのなら、従うまでだ。
「ディアーナ、俺たちの家族になって、一緒に楽しく暮らせるよう力を貸してくれ」
「もちろん、よろこんで。今から、ウチの力のお披露目やねぇ」
二人で目を合わせてコクリとうなずくと、俺はディアーナに近付き、右脇の下にある召喚印に唇を当てた。
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