54 空気をぶち壊す師匠との再会
暴風のように現れたフェルミンさんは、黒狼から飛び降りると、戸惑う騎士たちに構わず、ひざまづいたまま控える俺の元へと駆け寄った。
いつも通りの、ツバの広い黒の三角帽に、地味で簡素な黒ローブという魔女姿。三つ編みおさげの黒髪に、大きな眼鏡をかけた、物静かな容姿にも関わらず、その行動は気分次第にして破天荒という……俺の師匠だ。
キラリと光るブローチには、召喚術士を表す『杖と鉄鎖の紋章』に加え、国王直属の特命官を表す『一角獣の影絵』が合わさっている。つまりフェルミンさんは、宮廷召喚術士なのだ……というのも、今さらか。
「もぉ~、やっときたー。ずっと、待ってたんだよぉ?」
「あっ、ちょっとフェルミンさん。今、大事な話の途中で……」
いいから、いいからと、立ち上がるよう無理やり引っ張られ、よく来たとばかりに握手と同時にぶんぶんと振り回される。
ああ、なんだろう……
狐に化かされると、人はこんな表情になるのだろうか。王都防衛を担う若き騎士たちが、目を見開き、身体を震わせ、顎が落ちんばかりに口を開けて呆けている。
それに、ガシャンという音を立てて、その場に座り込む者も続出している。
「邪魔をして申し訳ない」
「い、いえ、滅相もございません。ガイゼル閣下、頭を上げて下さい」
見るからに立派で凛々しい、銀髪に青い目をした女性騎士の登場で、更にざわめきが広がる。
……って、ガイゼル閣下?
写し絵ではない、本物のガイゼル閣下を見るのは初めてだ。
いやまあ、お忍びのために男装をした旅人姿っていう、更に希少な姿を拝見したことがあるが……当たり前だが、全く雰囲気が違っている。
華やかさというのか、頼もしさというのか、とにかく目を惹く美しさで、老若男女を問わず大人気なのもうなずける。
「見ての通り、彼女は弟子の来訪を、ずっと心待ちにしていたからね。我慢ができなかったようだ」
そう言いながら、こちらにウインクを飛ばしてくる。
それを見て、さらに何人か、騎士がへたり込んだ。
俺の心臓も、鼓動がヤバイ。
光栄なのだが、いらぬ恨みを買っていないかと心配になる。
それに加えて……
「あのフェルミンの弟子……?」
こっちの衝撃も負けていなかった。
恐らく、この場にいる騎士全員が平常心を失っていただろう。
それは隊長も同じだった。
そんな状態で続きが行えるわけもなく、諦めにも似た嘆息を放った隊長は、後に仕切り直すと宣言して、皆に解散を命じた。
互いに報告すべきことが多すぎる。
まずは盗賊の残党狩りについて、ガイゼル閣下が報告する。
「やはり相手の動きは、兵として訓練されたものだ。それも盗賊の戦い方、奇襲とかく乱を目的としたゲリラ戦を行っている。軍の統率力に盗賊の戦法、なかなか厄介な相手だ」
罠や囮まで使ってくるだけに、被害を抑えようと慎重になれば時間がかかり、強攻すれば相手の思うつぼ。
かといって、放置して王都へ引き上げたりすれば、我らが敗北したと声高に喧伝するだろう。
つまり、このまま残党狩りを続けていても、劇的な戦果は期待できない。
討伐隊の隊長からは……
物資が到着したことで、当面の活動に支障はなくなった。
とはいえ、実戦訓練も兼ねて……などと色気を出したせいで、若手騎士ばかりなだけに、いつまでもこんな戦いは続けられないだろう。
気力が尽きて大打撃を受ける前に、撤退するのが上策なのだが、新たな計画が持ち上がっていると話し、詳しい説明は後ほどと締めくくる。
「そのおかげで、精鋭部隊が王都に残っておりますので、それが幸いとも言えますわね」
次はマリーさんの報告だ。
王都で起こっている騒乱についての説明なのだが……
「被害は無視できるものではありませんが、迅速な対応のおかげで秩序を取り戻しつつありましたわ。それも、早い段階で、このハルキがならず者をバンバン捕らえた事が大きいでしょう。全部で四十人以上は居ましたわよね?」
「細かな数までは覚えてませんが、そのぐらいは居たと思います」
いきなり話を振られて大いに焦る。
自分だけでなくクロエの分もあるので、正確な人数までは分からない。
それにしても、この場に俺がいることすら変だと思っているのに、注目されると洒落にならない圧迫感が襲い掛かって来る。
なのに……
「最後は、ハルキからの報告ですわ」
などと、言われてしまう。
まあ、ほとんどが見知った相手だし、騎士たちの前で演説をさせられることを思えば、まだ気が楽だ。
そう自分に言い聞かせ、すでに考えてあった文言を、なぞるように話す。
「妹のクロエが調査した結果を報告させていただきます。この一連の騒動は、隣国からの攻撃によるものと判明致しました。その詳細を、こちらのメイプルより報告させて頂きます」
視線で後は頼むと懇願し、一歩下がって彼女に場所を譲る。
すれ違いざま、任せてとばかりに小さくうなずいたメイプルは、臆することなく堂々と口を開いた。
先程とほとんど内容は同じだ。それを、新たに加わったガイゼル閣下とフェルミンさんに向けて、メイプルは詳しく説明していった。
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