53 討伐隊に吹き荒れる風
傍都ベルが見えてきた。
だが馬車は大通りから外れると、外壁を遠くに眺めながら、その横を通り過ぎていく。
俺たちの目的は、討伐隊に支援物資を届けること。
その討伐隊は、都市の混乱を避ける為、近くの村を拠点にしているらしい。
当初は都市にいらぬ混乱を持ち込まないように……という配慮だったのだが、今となっては、都市で起こっている混乱に巻き込まれないため……という意味合いが強くなっている。
いくら傍都ベルで騒ぎが起こっていても、討伐隊には討伐隊の任務がある。余程の危機的状況ならともかく、騒ぎが起こっている程度では介入できない。
今はサンディーが馬車を操っている。
もちろん、途中で俺も手綱を握ったのだが、目的地が近付けばトラブルが起きる可能性も高くなる。
ただ馬車を走らせるだけなら俺がやっても変わらないが、トラブルが起きた時の対処能力となると、間違いなくサンディーのほうが優れている。
だから、もうひと波乱ぐらいあるかと思って彼女に任せたのだが、予想に反して村の周囲は静かだった。
どこから取り出したのか、マリーさんは王国の伝令旗を掲げている。
その効果なのか、柵が開けられ、すんなりと村の中へと通された。
ここは、ミナスという名前の村だった。
村人の姿がないのは、どこかへ避難しているからだろう。
見かけるのは兵士ばかりだが、金属鎧の立派な姿をした兵士がやけに多い。それに、統制の取れた無駄のない動きは、精強な印象を受ける。
そんな人たちを苦しめたというのだから、相手はかなりの手練れなのだろう。
「彼らは王都防衛を担う若き騎士たちですわ。当然、王族を詳しく知る者も多くおりますので、ワタクシの正体がばれぬよう、ぐれぐれも用心願いますわ」
「わかりました。任せて下さい、マリーさん」
なんだかもう、忘れがちになっているが……
マリーさんは宮廷魔導術士なんてことをやっているが、その正体はキュリスベル王国の第三王女フェルデマリー姫だ。
農夫だろうが、馬車持ちの商人だろうが、召喚術士の見習いだろうが、たとえ宮廷召喚術士の弟子だろうが、平民である俺が、国王直属の特命官と気安く会話をするだなんて、とても考えられないことだ。
王女殿下に至っては、面と向かって言葉を交わせる相手ではない。それどこか、声を掛けただけでも不敬を疑われて、投獄されかねない。
なので、またフードを被って、付き人のフリでもしようかと提案したのだが、マリーさんは笑って、友人なのだからそのままでいいと言ってくれた。
馬車が到着しても、騎士たちは浮かれることなく、きびきびと荷物を運び出していく。だが、どこかホッとした表情を浮かべていたり、こちらに軽く会釈をする者がいるのは、若い証拠なのだろうか。
いやまあ、若いと言っても俺とそう歳は離れていないだろうし、ほとんどの人は俺よりも年上だろう。
多くは宮廷魔導術士への敬意だろうが、こちらに感謝を向ける人もいて、少し嬉しくなる。
とにかくこれで、依頼の半分が終わった。あとは、重傷者やフェルミンさんを乗せて、王都へ戻ればいいだけだ。
だが、それが難しい。どうせまた、途中で襲われるのだろう。
そういえば、傍都ベルに向かっている救援隊は無事だろうか。
いやまあ、素人同然の俺が心配するのは、失礼な話だが……
「ハルキ、皆と一緒にワタクシと参られよ。隊長殿と面会を致しますわよ」
「えっ? 俺らもですか?」
「もちろんですわ。危険を顧みず尽力した民に感謝の意すら表さずにいれば、隊長の威厳に関わりますし、延いては討伐隊の、騎士の面目にも関わりますわ」
「そんな大げさな……」
「それに、これは士気高揚の儀式でもあるので、我慢してでも付き合って頂きますわよ」
「……はい、分かりました」
実際には、分かったと言えるほど理解していないのだが……
それを読み取ったのか、すかさずメイプルから、念話で補足が入る。
『あのマリーさんの言葉、面会だけではなさそうですね。救援物資の到着を切っ掛けにして、士気高揚の儀式をする……ということでしょうね』
『まさか、騎士たちの前で、演説させられたりしないだろうな?』
『どうでしょう。そこまで求めたりはしないでしょうけど、功労者として紹介される可能性は高いでしょうね』
『功労者って、フェルミンさんを迎えに行くから馬車を借りたいって、頼まれただけなんだけどな……』
『ついでに荷物を運ぶことになりましたけど、こんなに積み込めるのかって、商業組合の人たちも、驚いてましたよ』
『あー、なんか、おかげで荷馬車を出さなくても済みそうだって、言ってたな』
『結果的に……ですが、お兄さまは危険を顧みず、軍に協力した功労者なのですよ。次は自分たちが頑張る番だ……だなんて隊長さんが言ったら、すごく盛り上がるでしょうね』
なるほど……と、納得する。
『だったら俺は、国に忠誠を誓う、献身的な民を演じればいいんだな』
『そうなりますね。ハルキお兄さま、頑張ってくださいね』
乗り掛かった船だ。演技力には自信がないが、それで上手くいくのなら頑張ってみよう。
そんなやり取りをしながら、決意を固めて面会に向かった。
クロエから連絡が入ったのは、そんな時だった……
ずらりと並ぶ騎士たちを目の前にすると、壮観過ぎて気圧されてしまう。
それに、マリーさんに言われるがまま全員でこの場に立ったのだが、よくよく考えれば、なぜ子供連れなのかと不思議に思われても仕方が無い状況だ。
隊長さんには事前に説明したのだが、その時も軽く流されてしまった。
そりゃそうだ。
彼女たちは俺の召喚体です……と言ったところで混乱させるだけだろう。そう思い、いつも通り妹たちだと紹介したのだが……
実際に御者を務めていたサンディーはともかく、メイプルがこの件を仕切り、シアが護衛を努めているだなんて、言葉だけで納得させるのは難しい。
「ハル兄、緊張しすぎ。顔がムムーってなってる」
左側から抱き付くように寄り添うシアが、そう指摘する。
口元に拳を当てて咳払いをするフリをしながら、深呼吸で気持ちを落ち着かせようと試みる。
隊長による訓示が続く。
要約すると、苦しい戦いだったが、ここにきてようやく、このバカげた反乱を終わらせる目処が立った……というもの。
その功労者として、俺が紹介される。
多少、顔が強張ったり、動きがぎこちなかったりするのは容赦して欲しい。
なんとか所定の場所まで歩き、ひざまづく。
「この者は実習召喚術士であり、南海地方よりはるばる師匠を訪ね、王都に滞在していた若者だ。こちらの宮廷魔導術士殿とも知り合いで、我らの窮地を耳にし、命を賭して……」
隊長の話が終わったら、合図と共に立ちあがってしっかりと握手を交わし、騎士たちに向かって深々と礼をして元の位置に戻る。
そんな段取りを頭の中でおさらいしていると、地響きにも似た騒がしい足音が近付いてきた。
敵の襲撃かと若い騎士たちが動揺するが、隊長の「静まれ!」という一声で秩序を取り戻す。
まあ、俺には、足音の正体も、どんな状況なのかも想像はつくのだが、苦笑しつつも、ひざまづいたまま待機を続ける。
その目の前に、風精霊が現れた。
「わぁ、本当にハルキ、来てたんだ。でもなんでまた、こんな場所に居るの? それにその格好、何をしてるの?」
「見ての通りなんだけど。今まさに、隊長さんの見せ場が台無しになった所だよ」
「あっ……、そういうことね。それは、悪い事をしちゃったわね」
「だったらフィーリア、責任を取って、この場を上手くまとめてよ」
「無茶、言わないでよ。あっ、マスターが来たから、また後でね」
そんな言葉を残して、風精霊の姿が消えた。
それと入れ替わるようにして、黒狼に乗ったフェルミンさんが姿を現した。
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