52 道を切り拓く雷球
盗賊風情と侮っていたわけではないが、この結果だけを見れば、責任を問われても仕方がない状況だった。
事前の情報では小規模な盗賊団が複数あるという話だったので、ひとつひとつ順番に、迅速に壊滅させていく予定だったのだが……
いざ討伐を始めてみると、敵の人数が予想よりも多く、兵崩れなのか訓練された動きをしていて一気に攻め切ることができなかった。
しかも、他の盗賊団と連携しているのか、荷駄隊が襲われるなど、ずいぶんと苦しめられた。
我らを誘い出す罠だったのかと気付いた時には既に遅く、決死の覚悟で敵を壊滅させる以外に活路が見出せない状況に陥っていた。
この劣勢を覆せたのは、間違いなく聖法騎士のガイゼル閣下と、あの宮廷召喚術士、フェルミン嬢のご尽力があったからだと、討伐隊の隊長は後に報告した。
急ぎ単独で走らせた馬車だが、ハルキたちが先頭だったわけではなかった。
すでに先発していた救援隊を見つけ、合流する。
荷馬車が二台に護衛が六騎という小規模なものだが……
マリーさんが言うには、傍都ベル──王都の近くで発展した都市──の被害が大きく、取り急ぎ食料や医薬品などを積み込んで出発したもので、第二陣、第三陣の準備も進められているらしい。
こちらの馬車は旅客用だが、荷物を積み込む場所も広めに作られていた。だが、それだけでは収まらず、座席にまで箱が積み込まれていた。
まさに限界まで詰め込んだ感じだ。
相当な重量だろうに、よく追いつけたものだと感心する。
たぶん、サンディーが改造した、この馬車の性能が高いからだろう。
このまま追走するのかと思ったのに、サンディーは馬車の速度を上げ、救援隊を追い越した。
もし襲撃されても、向こうの護衛が何とかしてくれるだろう……と思ったのだが、そんなわけにはいかないらしい。
サンディーに確認すると、先に行くようにという合図が出たらしい。
「メイプル。クロエの様子はどうだ?」
「今は潜入中ですね。もし必要でしたら、呼び戻しますけど……」
「いや、忙しいようなら構わない。そのまま続けてもらってくれ」
さすがに、このままぶっ通しで馬を走らせるわけにはいかない。
実際には速歩だが、それでも途中で一度ぐらいは、休憩させる必要がある。
その時が、一番危ない。
馬車を死守するためには少しでも戦力が必要だし、クロエが居ればかなり心強いのだが……
もしクロエが安全な場所にいるのなら、一時的にメイプルとクロエを入れ替えることも考えられるのだが……
まさか潜入中の現場にメイプルを送り込むわけにもいかないし、最大戦力のシアや、馬車を操るサンディーと入れ替えるわけにもいかない。
俺とクロエが入れ替わるのが最適なのだが、俺は召喚跳躍できない。
つまり、今のメンバーでどうにかするしかない。
宮廷魔導術士なんだから、マリーさんが何とかしてくれるだろう……と思いたいが、王女殿下に無茶を強いるのも気が引ける。
こんなことならもう一人、守りが得意な妹……いや、召喚体を用意しておけばよかったと後悔する。
まあ、何も起こらないのが、一番なのだが……
「ごめん、みんな。凄く揺れるから、荷物が崩れないように気を付けて」
突然、サンディーからそんな注意が飛ぶと、宣言通り、馬車が大きく揺れた。
考え事をしながらも、前の様子を見ていたので、すでに準備はできている。
しっかりと両足を踏ん張り、メイプルを庇うように片手で抱き締め、反対の手で荷物を押さえる。
それに、いつの間にか、手首に腕輪が装着されている。
危険を察知したシアが、反射的に道具生成したのだろう。その上で自身は、小さな身体で山積みにされた木箱を必死に押さえている。
「メイプル、そのまま俺の身体をしっかり支えててくれ」
「分かりました。お兄さま」
ちょっとした方便だ。
メイプルにしても、何もできずに守られているだけなのは、心苦しいだろう。
しっかりと抱き付いているのを確認し、メイプルから手を離して荷物を支える。
当たり前だが、やましい気持ちは微塵もない。
こうすれば両手が自由になるし、メイプルを護り易くなるのだ。
蛇行の原因は、道に置かれた作りかけの障害物だった。
まだ距離があるが、少しでも安全なコースを進むため、道の端へと寄ったのだ。
明らかに急ごしらえの雑な造りで、間違いなく敵の手によるもの。
王都から物資が運ばれてくるのを予想し、道を封鎖して強奪する計画だったのだろうか。
なんにせよ、俺たちに対する最悪の嫌がらせだ。
「マリーさん、あぶな……」
あぶないのはこちらも同じだ。下手にしゃべると舌を噛む。
ここまで端に寄ると道が荒れているようで、振動も激しくなる。
そんな中、マリーさんは御者台に上り、必死に操縦をするサンディーの横で仁王立ちになる。
何か魔導術を使っているのだろうか。すごい体幹……というか、安定感だ。
黒角帽に黄色と金糸で彩られた白い服は、典型的な女性魔導術士服だ。
ひざ上までしかない短いスカートと黒いマントが風にたなびき、黒い二―ハイソックスとは対照的な白い太ももが大胆に現れてドキリとする。
そんな姿をした金髪碧眼の美しい女性が、杖を掲げて呪文を詠唱すれば、現実離れした神々しい光景となる。
だが、そんな夢想の世界は、次の瞬間、儚く吹き飛んだ。
雷撃の光を放つ球が、いくつも宙に現れ、空を切り裂いて飛んでいき……
障害物に着弾して、次々と蒸発させていった。
「こわっ……」
すごいと言おうとして、つい本音が漏れてしまった。
破壊なんて生易しいものではない。
何の痕跡も残さず、きれいさっぱり障害物が消えたのだ。
これがもし、人に当たればと思うと、想像するのも恐ろしい。
王女殿下に無茶はさせられない……だなんて思っていた自分が恥ずかしい。むしろ、やりすぎないようにと注意を払うべき相手だったようだ。
馬車を襲おうとしていたのだろう。姿を現した者たちは、この光景を見て腰を抜かしたり、呆然と立ち尽くしたりしている。
その視線に見守られながら、馬車は速度を緩めることなく、その間を走り抜けていった。
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