51 まるで脱出するかのように
どうしようかと悩んだ末に、俺は指示を出した。
商業組合にいるサンディーとシアに、人目のつかない場所へと移動してもらい、まずはシアを召喚跳躍──精神世界を利用した瞬間移動で、ケットシーハウスへと戻ってきてもらう。
続いて、サンディーの居場所を目印にして、メイプルに商業組合へと召喚跳躍してもらった。
これは、教本に書かれていた方法で、これだと、一度精神世界へ帰還させ、再び現出させるよりもお手軽だった。
難点は、目印……つまり、自分の召喚体がいる場所にしか行けないことと、これは当たり前だが……
「俺もピョンって向こうへ跳べたらラクなのにな……」
「シアに任せて。全力でハル兄を向こうへ運ぶ」
「いや、ごめん。気持ちはありがたいけど、自分の足で行かせてくれ」
召喚術士は召喚跳躍できないので、地上を走り回って行くしかない。
一番早いのは、シアに運んでもらうことだが、俺みたいな男が、小さな女の子に抱えられている姿っていうのは、さすがに見栄えが悪すぎるし、恥ずかしすぎる。
「すみません、マリーさん。お待たせしました……って、どうかしました?」
なんというか、慈愛に満ちた女神のような微笑みを浮かべていた。
「人間って何だろうな……って思っていただけですわ。今さら召喚体なのを疑ったりは致しませんけれど、どう見ても兄妹にしか見えませんわね」
「ハル兄は、ハル兄だよ?」
「そう…ですわね。ワタクシとしたことが、詮無きことを漏らしてしまいましたわ。それでシア、食事はどうなさいますか?」
ふわふわタマゴサンド、ステーキサンド、梨や林檎のパイなどが、食べやすいサイズにカットされている。
それを、持ち運んで、いつでも食べれるようにと包んでもらっている。
俺とメイプルは先に頂いた。サンディーも今ごろは、精神収納から取り出して食べている頃だろう。
「悪いがシア、先に移動しようと思うけど、我慢できるか?」
「大丈夫。運動の後だと、もっと美味しくなる」
「そうだな」
二人分の食事を精神収納へと送り、念のためサンディーに、間違って食べてしまわないようにと伝えておく。
ひとつはクロエの分だ。いきなり俺が話しかけたら、思わぬ邪魔になってしまうかも知れないので、メイプルからクロエに伝えてもらった。
ホールでは管理人さんが待っていて、外の様子を伝えてくれた。
「見たところ、カラスの姿は見当たりませんが、正面から出れば目立ちましょう。ですので、こちらからどうぞ」
「カラスさん?」
なんだか興味津々のシアだが、残念ながら本物のカラスのことではない。
不審者を表す隠語だと、念話で教えてあげる。
「お客人には決して見せてはいけない場所ではありますが、姫殿下のご友人であれば隠す必要もないでしょう。これより屋敷の裏へとご案内させて頂きます」
「えっ? ご友人……?」
「ええ、ワタクシもそのように伺っておりますわ。それに、もちろん、ワタクシとも友人ですわよ」
いつの間にか、マリーさんと友人になっていたようだ。しかも、フェルデマリー王女殿下とも友人になっているらしい。
いやまあ、からかわれているんだろうけど、身が震えるほど光栄なことだ。
もちろん、感激に打ち震えて……ではなく、他の偉い人に滅茶苦茶怒られるんじゃないだろうか……という恐怖で。
「それでは、ハルキ様、シア様、こちらをどうぞ」
何の変哲もないフード付きの外套だった。
たしかにこれなら、怪しまれずに姿を誤魔化せる……かも知れない。
マリーさんも、同じように外套を羽織る。
「マリー様、ハルキ様、シア様、この場にはおられませんが、サンディー様、メイプル様、クロエ様、皆様の無事をお祈りし、お帰りをお待ちしております。いってらっしゃいませ」
いつの間にか三人のメイドも並び、深々と頭を下げ、使用人の通用口から送り出してもらった。
ケットシーハウスから離れてから、マリーさんは外套を脱いだ。
ここからは宮廷魔導術士姿のほうが、トラブルに巻き込まれにくく、何かと都合がいいらしい。
だが俺たちはフード姿のまま、付き人でございますって感じで後を追う。
さすがに、俺たちにちょっかいをかけてくる相手はいなかったが、それでも、途中で騒ぎを見つけたら、介入しないわけにはいかない。
シアの木剣が一閃し、ならず者が崩れ落ちる。
「お見事ですわ。ワタクシの出番がありませんわね」
「すみません。後の始末を、マリーさんにお任せしてもいいですか? 俺だとほら、手続きに時間がかかりますから」
「それでは、協力金が頂けませんわよ?」
「この数日で、十分に頂きましたから、なくても構いませんよ。それより、早くフェルミンさんを迎えにいかないと」
討伐証明書を発行してもらおうと思えば時間がかかる。だが、捕らえたのがマリーさんなら、調書にそのことが書き記されるだけだ。
お金など不要だ……と言うつもりはないが、今は時間が惜しい。
なのに、こういう時に限って、余計なトラブルに巻き込まれたりするのだった。
思ったよりも、かなり遅くなってしまった。
やっとのことで、商業組合に到着したわけだが、すでに荷物の積み込みが終わり、その確認をメイプルが、地形やルートの確認をサンディーが、すでに終わらせてくれていた。
シアは馬車の中で食べると言ってくれたが、さすがに可哀想なので、雑用を済ませながら食事が終わるのを待つことにした。
普段から泥棒対策をしているだけあって、さすがにこの一帯には、ならず者の姿がない。
俺たちは移動で疲れているだろうからと、サンディーが御者台に上った。
やはり、かなり荷物が重いのだろう。辛そうに動き始めた馬車だが、車輪が回り始めると、調子を取り戻したかのように徐々に速度を増していく。
すぐ近くの商用門には、すでに連絡が届いている。
なので、止められることも、検問されることもなく、俺たちを乗せた馬車は、そのまま王都の外へと抜け出していった。
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