50 積み重なる不穏な気配
今回の騒ぎについて、もう少し詳しくメイプルから聞こうとした矢先、子供部屋の扉がノックされ、宮廷魔導術士が入ってきた。
「マリーさん、どうしたんですか? そんなに慌てて」
「ハルキ、食事を終えましたら、フェルミンを迎えに行きますわよ」
「えっ? 俺がですか? 迎えに行くのはいいですけど、どうやって?」
「貴方の馬車を、お借りしたいのですわ」
馬車を動かすには準備が必要だ。
フェルミンさんを迎えに行くのであれば断る理由はない。だけど、食事を終えたら……という事は、今すぐにでも準備を始めなければ間に合わない。
「わかりました。では、商業組合に行ってきますね。準備する物って、何かありますか?」
「いえ、お兄さまはマリーさんのお話を聞いておいてもらえませんか? 馬車の準備は、私が手配しておきますので」
「外は危険だから……」
俺とシアで行こうと思ったのだが……
「危険だからこそ、お兄さまには残って頂かないと困ります」
そう言ってメイプルは譲らない。
「お兄ちゃん、私が行って来るよ。体力には自信があるし、あんな人たちなんかに捕まらないよ。それに、もし何かしてきたら、ガツンとやっつけちゃうから」
特殊な体術を持つクロエほどではないが、サンディーの身体能力も高い。
もちろん、戦闘モードになったシアには到底敵わないが、サンディーもシアの武具を手にすれば、ならず者風情に後れを取ることはないだろう。
「メイプルは、話を聞いておいたほうがいいでしょ?」
「わかった。サンディーに任せる。シア、サンディーの護衛を任せてもいいか?」
「うん。任された。ディー姉はシアが護る」
任せたぞ……と、シアの頭を撫で、マリーさんから受け取った書類を、サンディーに預ける。
とにかく、これを渡せば、準備を整えてもらえるらしい。
サンディーは書類を確認すると、失くさないよう精神収納へと送り、急ぎ二人で商業組合へと向かった。
話し合いは主に、マリーさんとメイプルで行われた。
もちろん、俺も状況を把握しておく必要があるのだが、耳を傾け、内容を理解しようとするのが精一杯で、とても口を挟めるような雰囲気ではなかった。
マリーさんの話では、ガイゼル閣下が兵を率いて、隣のベル郡で盗賊退治を行っており、それにフェルミンさんが同行しているらしい。
なかなか手強く、なんとか壊滅させたものの逃げた者も少なくなく、とはいえ、糧食が心許ない上に多数の負傷者を抱えていては、掃討戦もままならない。
だから、補給物資を急いで届けることになった。
そのついでに、重傷者とフェルミンさんを王都へと連れ帰る。
他にも馬車は確保されているが、一台でも多い方がいい……ということだった。
王都でも騒乱が起きているが……
それはマリーさんも承知しているが、明らかな犯罪者ならともかく、同胞を解放しろ……とかいうデモにまで、人員を割いている余裕はない。
「放置してはおけませんが、取り立てて周りに危害を加えていないのであれば、他の騒乱が落ち着くまで放置する……という決定となっておりますわ」
「放っておくのも危険だとは思いますけど、人手が足りない以上、やっぱり、そうなっちゃいますよね。でも、それが相手の狙いなのかも知れませんよ? たとえ妄言でも、長く続けば毒のように周囲を汚染していきますから」
「そんなことで惑わされる国民はおりません……と言いたいところですけど、人の感情は容易く揺らぐもの。早期解決を図る為にも、ベル郡に派遣した兵士をすぐにでも呼び戻す必要があるのですわ」
この騒乱を受けて、国境の警備を厳格にするよう通達が出ているらしいが、時すでに遅しといった状況だ。
それに隣接する、フレスデン王国、サンクジェヌス帝国とは、どちらも外交関係は良好で、交易も盛んに行われている。
検問を強化するにしても、それ相応の理由が無ければ良好な関係にヒビが入りかねないし、混乱が長引けばキュリスベル王国の統治能力が問われるだろう。
そんなマリーさんの話を聞いたメイプルは、やっぱり……と呟いた。
「やっぱり……とは?」
「嫌なタイミングで、嫌なことが起こり続けているのが、少し変だなって思ってましたから。それこそ、誰かに仕組まれたかのような動きなので……」
「範囲が関湾地方と南海地方の全域に渡っているのですよ? それらを全て連動させるなど、訓練を受けた兵士でもなければ難しいと思われるのですけれど」
「視点を大胆に変えて、この国を攻める側の立場になって見れば、見事な采配だと思えませんか? 流通を混乱させ、兵を分散させ、王都を混乱に陥れ、王の不手際を責める。更には、良好だった隣国との関係を悪化させようとしています」
実際、その通りになっているのだから、そんなバカな……とは言い切れない。
マリーさんも、真剣な表情で考え込んでいる。
「これで隣国との交易が途絶えたらどうなるでしょう。すでに盗賊によって影響が出ていると思いますが、今後も物価が高騰し、物によっては手に入らなくなるでしょう。それに不満を持つ民も出てくるでしょうし、その時に先程の毒が劇的な効果を生み出す……なんてこともあるでしょうね」
「民の不満が王家に向けられる……ということですわね。であれば、やはり討伐隊を速やかに撤収させ、王都の治安維持を最優先とするよう提案してみましょう」
「その……マリーさん。これから話すことは私個人の見解で、まだ証拠はないのですけど、聞いて頂けますか?」
「もちろんですわ」
メイプルが語ったのは……
この騒乱は組織的に仕組まれたことで、フレスデンから流れてきた者を装っているが、サンクジェヌス帝国の陰謀の可能性が高い。
つまり、サンクジェヌスの兵が、わざわざフレスデン人のふりをして、このキュリスベル国で騒ぎを起こしているのだ。
その目的は、王家を貶め、国力を削ぐこと……だと思われるが、それだけのことにここまでの労力を使うのは不自然だ。
なので、他に何か目的があるのだろう。
たとえこの企みが失敗しても、キュリスベルはフレスデンの仕業と考えるだろうし、それで両者が仲違いすれば、結果的に帝国の利になる。
そんなところではないか……と話を締めくくった。
メイプルだけに、それなりの確信があるのだろう。でなければ、こんな話をするはずがない。
今ごろは、その証拠を集めるため、クロエが奔走しているに違いない。
だったら、クロエが戻ってきたら、盛大に甘やかしてやろうと心に決めた。
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