45 フェルミンの弟子
そういえば、冒険者組合の伝統に、そういった儀式があるという噂を思い出した。しょせん噂だと高をくくっていたが、まさか本当に行っているとは思わなかった。
新入り冒険者に対する歓迎の儀式のようなものらしいが、あいにく俺は冒険者登録をしていない。だから、歓迎される理由がない。
そんなことは、相手も分かっているのだろう。だから、つまり、そんな事に関係なく、実力を確かめたいと思えるほど『フェルミンの弟子』という肩書に魅力があったのだろう。
要するに、彼らにとっては格好の暇つぶしなのだ。
相変わらず危機感の無い様子で、シアは何かを期待しながら、俺にどうすればいいのかと無言で訴えかけている。
そんな目で見られると、俺もついつい悪ノリしたくなってしまう。
疲れと眠気で思考能力が低下しているせいだ、ということにして……
芝居がかった感じで分かり易くガックリと肩を落とし、うんざりした様子を存分に漂わせて振り返る。
「それは脅しのつもりか?」
「どう受け取ろうが、お前さんの自由だぜ?」
「なるほど。ならば、殺すつもりはないが、骨のニ、三本は覚悟してもらおう」
身体を動かしながら、筋肉を解していく。
「かかってくる奴は前に出ろ。その気の無い奴は壁まで下がれ」
「ほう、やる気か? ボンボンのくせに、威勢がいいじゃねぇか。こりゃ、ちったぁ世間ってもんを教えてやらねぇとなぁ」
世間知らずなのは認めるし、全て妹頼みなのも自覚している。
だが、これでも一応、俺も修羅場……と言ってもいいのか分からないが、何度も危険な場面に遭遇している。
それに比べれば、こんなものはただの余興だ。
「相手は七人か……」
なぜか、マリーさんも壁際に移動している。
いやまあ、すぐに助けてくれなかった時点で、そんな気はしてたけど……
どうやらマリーさんも、俺たちの実力を見物したいようだ。
俺は、相手と会話をしながらも、次々と念話で指示を出していた。
お金の入った袋を精神収納へと入れさせて身軽になってもらい、メイプルを俺の背後に移動させ、サンディーに護衛をさせる。
いつの間にか姿を消したクロエから準備完了の合図を受け取ると、シアに特別な刀を出すようお願いする。
「ったく、しょうがないな……」
俺は、できるだけ太々しくしく呟くと、腕を高く掲げる。
その手の中に、光を放ちながら、何かの伝説に出てきそうな豪華かつ切れ味が鋭そうな刀が現れた。
それをブンとひと振りすると、無造作に構える。
室内の空気が変わる。
顔をひきつらせるもの、冷や汗を垂らすもの、明らかに狼狽えているもの……
わざわざ派手な演出をしたこともあり、相手の注意は俺に集まった……はずだ。
「相手してやる。かかってこい」
それを合図に、シアとクロエが行動に移る。
最初に絡んできた大男以外が、あっという間に倒れ伏した。
何が起こったのか、誰にも分からない。
狼狽える大男に向かって、俺は容赦なく刀を振り下ろす。
「勝負ありだ。そこまでにしておけ」
どこかから声が飛んできたが、俺はお構いなしに相手を殴る。
悲鳴が上がり、ざわめきが広がり、大慌てで止めようと近づく者がいる中、俺は気にせず刀で殴り続ける。
ぽふっ、ぽふっ……
途中から、様子がおかしい事に気付いたのだろう。徐々に失笑が広がっていく。
頭を抱え、うずくまる大男の身体に、ダメージはないはずだ。
俺の手の中にあるのは、見た目こそ凄いが、その刀身は全く殺傷能力のない柔らか素材だった。
「ひでぇな。なんてことをしやがる。あんた、本当は奇術師じゃねぇのか?」
「いやいや、俺はただの農夫だよ。召喚術士の見習いもやってるけどね」
「農夫……? なんだそりゃ? 冗談キツイぜ」
少し悪ノリし過ぎただろうか。周りの半数が安堵し、半数がドン引きしている。
今さらだが、できるだけ愛想良くしながら話しかけ、手を差し伸べて、大男を立たせてやる。
「脅かして悪かったな。じゃあ俺は、まだ急ぎの用があるから」
そう言って、妹たちの様子を確認すると、みんなで冒険者組合を後にする。
その背後から……
「さすが、フェルミンの弟子を名乗るだけのことはある。アイツも相当ぶっ飛んでるぜ」
「あれ、見たか? 一瞬で六人を気絶させたんだぜ? 信じられるか?」
「フェルミンもまた、ヤベー奴を見つけてきやがったな……」
「召喚術士のくせに、召喚獣も使わずこの強さかよ……」
……なんて声が微かに聞こえ、マリーさんがクスクスと、いつまでも楽しそうに笑っていた。
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