44 冒険者の洗礼
夕食前なのに満腹になるまでガッツリ食べてしまった。
しかも、旅の疲れもあって、とにかく眠い。
とはいえ雑用は、できるだけ今日のうちにやっておきたい。
次にマリーさんが案内したのは、冒険者組合だった。
盗賊や賞金首に関する情報は、こちらに集約されており、討伐すれば賞金が受け取れる。
冒険者登録をしていないので、少し……というか、結構目減りするが、その分、非常招集などの面倒事がないと思えば安いものだ。
「えっと、まずはコレですね」
害獣退治ぐらいなら、町や村の冒険者組合でも換金してもらえるが、盗賊団の討伐ともなれば換金できる場所は限られる。
途中の村で発行してもらった討伐証明書を、受付のお姉さんに渡す。
「確認いたします。少しお待ちくださいね」
店の中に入った時から感じていたが、やはりここでも俺たちは浮いていた。
ろくに武装もしていない、子供だらけの集団なのだから仕方がない。
むしろ、イヤミのひとつも出てこないのが不思議なほどだが、これはたぶん、宮廷魔導術士のおかげだろう。
それに冒険者は警戒心が強いと聞くし、もしかしたら、シアやクロエの実力を密かに感じ取っているのかも知れない。……というのは、さすがに考え過ぎか。
「お待たせしました。お支払いの相手は、ハルキ・ウォーレン様でよろしいでしょうか?」
「はい。それでお願いします」
「それにしても災難でしたね。旅の途中で襲われたとか」
「そうですね。手続きに時間が取られるのは辛かったですね」
お姉さんが、えっ? ……という表情を浮かべる。
それを見て、お姉さんが何に驚いているのかが分からず、俺も首をひねる。
「書類には、単独での馬車行動中に盗賊に襲われたものの、相手の十七名全員を捕縛……とありますけど、そちらの特命官どのに助けられたのですか?」
「いえ、マリーさんは王都の案内役で、襲われた時は自分たちだけでしたよ?」
そこで一瞬また、不思議そうな表情を浮かべたお姉さんだが、何かに納得したようにコクリコクリとうなずく。
「では、よほど腕の良い護衛と巡り合われたのですね」
「いえ、馬車には俺たち五人だけでしたけど……?」
不思議そうにしていると、メイプルから念話が送られてきた。
どうやらお姉さんは、俺たちだけで盗賊を撃退できるとは思っていないらしい。
それも仕方がない。冒険者組合の受け付けをやっているぐらいだから、いろいろな盗賊退治の話を知っているのだろう。
その常識に当てはめれば、いくらダメダメな盗賊たちでも、十七人もいてこんな子供たち相手に全員が捕縛されるだなんてことはあり得ない……と思っているのだろうと、教えられた。
「すみません、驚かせてしまったみたいですね。私はその、こういう者でして」
そう言いながら、召喚術士見習いのブローチを見せる。
とはいえ、それでもまだ納得した様子は無い。
まあ、廃れ行く召喚術士の、その見習いなのだから、見る目も厳しくなる。
「ハルキは、フェルミンの弟子だわよ。だから、この程度、何も不思議はないのですわね。ハルキ、あの書類を見せればいいよ」
そのひと言で、周りが一斉にざわつき始める。
そんな中、言われた通り、フェルミンさんの書類を見せる。
その時のお姉さんの表情は、かなりの見ものだった。
一瞬驚き、恐怖にも似た硬直と震えを全身に発症させた後、大きく息を吐いて憑き物が落ちたかのような晴れ晴れとした表情を浮かべた。
たぶん、考えるのを止めたのだろう。
フェルミンさんの評判は、いったいどうなっているんだろう……と気になったが、のんびりもしていられない。
このペースでひとつひとつ確認してもらっていたら、結構な時間がかかりそうなので、フェルミンさんの書類をしまうと、残りの討伐証明書を全部渡す。
なんだろう……、一瞬ギョッとした表情を浮かべたお姉さんだが、やけに優しそうな表情を浮かべて、うんうんとうなずいて内容のチェックを始めた。
疑問や質問は一切ない。テキパキと処理を進め、「少しお待ち下さい」と言い残して奥へと入っていった。
どうやら感情を殺して、事務処理に徹したようだ。
「マリーさん、ちょっと聞いてもいいですか?」
「この世話係にお任せあれよ」
「その……、フェルミンさんは、一体何をやらかしたんですか? 周りの反応、これって普通じゃないですよ?」
「あー、それは……。ここで話す事じゃないことですわね。そのうち、本人から聞くが良いわよ」
ますます気になるし、フェルミンさんが素直に教えてくれるとは思えない。
まあ機会があったら、風精霊にでも聞いてみよう。
「お待たせいたしました。こちらが協力金となります。明細をよくお確かめの上、お納め下さい」
かなり目減りしているはずなのに、思ったよりも袋が相当大きい。
ひと抱えほどもあり、灰黒猪の時の四倍以上はありそうだ。
こういうのは個室でやるものじゃないのか? ……と思いつつ、メイプルとサンディーに確認を任せる。
「すみません、お姉さん。なぜか今回、やたらと襲われたんですけど、もしかして最近、治安が悪くなってたりしてますか?」
「そうですね。隣国に不穏な動きがあるようですし、それに合わせて、国内の治安も乱れてきていると、そういう話を聞きますね」
「だからって、あんな小さな馬車まで襲うとか、見境がないな……」
「馬車を所有する家は、裕福と決まってますからね。ウォーレン様も、相応の家系なのでしょ?」
「俺は……まあ、田舎の農夫で、とても裕福とは言えない……かな」
「なのに、馬車を所有しておられるのですか?」
「元は荷馬車だったものを改造したんですよ。そういうことが得意な者もいますからね」
あっ……、またお姉さんが営業スマイルになった。
うん、まあ、気持ちはよく分かる。あれは改造というレベルを超えていた。
もしかしたら、お姉さんの中で、俺はとんでもない嘘吐きになっているのかも知れない。でなければ、背後にフェルミンさんの影を見ているのだろう。
それはともあれ、今になって俺は、メイプルからの指摘で勘違いに気づく。
貧乏だったとはいえ、俺は商家の生まれだ。なので、馬車は見慣れていた。家にあったのは荷馬車だったが、馬や車体の世話をしていたので、身近に感じていた。
その後、王都へ来たわけだが、移動は乗合馬車だし、王都の中では馬車を見かけるのは珍しい事では無い。
その後の田舎暮らしでは、見る機会が激減したが、そういうものだと思って気に留めていなかった。
そんな事もあり、馬車が一定以上のお金持ちしか保有できないもの……といった一般常識が抜け落ちていたようだ。
「お兄さま。確認が終わりました。問題ありません」
「そうか。じゃあ、行きましょうか。マリーさん」
なんというか、こういうのはお約束でもあるのだろうか。
俺たちが建物から出ようとすると、屈強な男たちに取り囲まれた。
「あのフェルミンの弟子たぁ、大きく出たもんだなぁ、おい」
「その実力、ちぃーとばかし、見せてもらおうじゃねーか」
思わずため息を吐く。
よりにもよって、宮廷魔導術士さまの目の前で、何をやらかすつもりだろうか。
「おおっと、逃げようたってそうはいかねぇぜ。こいつを見捨てるってんなら、話は別だがな」
小柄……というか、見るからに子供だし、ボーっとしているように見えるから、狙われやすいのだろうか。
人質に取られたシアを見つめながら、俺は口元を歪めてニヤリと微笑んだ。
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