41 遠ざかる村を思う
とうとう出発の日が来た。
すぐに戻るつもりなので、できればこっそり出発したかったのだが、そうもいかない人たちもいる。そんな人たちに、みんなで手分けをして挨拶をする。
俺とメイプルは、ウィル爺さんと村長を担当する。
ウィル爺さんとは納品で何度も顔を合わせているので、好きな時に帰ってくればいい……といった感じで、あっさりとしたものだった。
村長には、陶器小屋のカギを返却し、村で焼きものをしたいって人がいたら自由に使わせてあげて下さいとお願いする。
俺たちは、すでに必要分の煉瓦を焼き上げ、焼却炉を畑の片隅に設置して使っている。少し遅くなったが、目的は達成できたので、あの小屋や窯は返却することにした。できれば、また必要になった時に使わせてもらえればありがたいのだが……
でも、それ以上に、この村で専門の職人が育ち、陶器や煉瓦を作ってもらえるようになれば、それが一番いい。
全員が文字を読めるわけではないので、役に立つかどうかは分からないが、一応、教本のようなものを作って小屋に残しておいた。
それに、道具の手入れも可能な限りやっておいた。
「では、村長さん、あの……、後のことはお任せしますね」
「うむ、バッチリ任された。だから、安心して行っておいで」
何だか意味深な二人のやりとりが引っかかったが、出発の時間が近い。
話を振ると長くなりそうなので、俺も挨拶を済ませて仕立て屋に向かった。
挨拶が終わったら、仕立て屋に集合することになっていた。
マーリーさんに、旅の服をお願いしてあるのだ。
店の裏で工事をしているようだが、また増築でもしているのだろうか。
それに、新たな看板が増えていた。
「キッシュモンド商会?」
最初の頃とは、すっかり変わってしまった店の雰囲気に苦笑しながら、仕立て屋の扉を開ける。
「いらっしゃい。ハルキ、待ってたわよ」
「マーリーさん、妹たちがまた、いろいろと無理を言ったようで、すみません」
「そんなの別にいいのよ。少しでも良い物に仕上がるんだったら大歓迎。じゃあ早速だけど、仕上げを始めるわよ」
俺とメイプルは奥の部屋へと通されると、一斉に従業員やらお針子さんやらが集まり、次々と服を身体に押し当てたり、実際に着せたり、そのまま手足を動かすよう指示されたりした。
いつの間に合流したのか、気が付けば、すっかり旅人姿に変貌した五人が並べられていた。
「うん、完璧ね。あとこれが日除けの外套で、こっちは防寒用の服、一式ね。ああ、あと防水外套もあるわよ」
いつ戻れるか分からないが、遅くなれば冬が来る。防寒対策は必須だろう。
とはいえ、それを全員分となると、かなりの量だ。
「あっ、そうそう。もう会計は済んでるから、ハルキは気にしなくてもいいからね。それと、もし誰かに服のことを聞かれたら、ウラウ村のキッシュモンド商会を宣伝してくれると嬉しいな」
「キッシュモンド商会? ああ、表に看板が出てたな」
「外部に商品を流通させるには、商会登録が必要だから。その名前で商品を届けてもらってるの。だから、宣伝してもらえると、すごく助かるのよ」
「まあ、それぐらいは構わないけど……。その商売、上手くいってるの?」
「まあね。それも二人のおかげよ。本当にありがとう」
マーリーさんは、メイプルとサンディーをギューっと抱き締めながら、二人の耳元でささやく。
「気を付けて行ってくるのよ。絶対に無事に帰って来てね。なんなら、私の所で留守番をしていてもいいんだからね」
冗談でも、お世辞でもなく、本気なのは間違いない。
マーリーさんにとって、二人が居なくなるのは痛手だし、不安なんだろう。
だが、二人の意志は固い。
「お兄さまをお助けするのが、私の役目ですから」
「そして、私の役目は、お兄ちゃんのお世話をすること」
「ハル兄は、シアが守る」
「ボクは……、兄者を影から見守る?」
なぜかそれに、シアとクロエも続くが……
自信なさげに首を傾げるクロエに思わず笑ってしまい、頭を撫でる。
「クロエは居てくれるだけでも癒されるけど、頼りにしてるからな」
そんな光景を見せつけられたマーリーさんは、大きく息を吐く。
「あ~あ、なんだかハルキに嫉妬しちゃうな。私も、そんな妹が欲しい」
「マーリーさんには、たくさんの優秀な人たちがいるでしょ? ちゃんと王都で宣伝しておくから、拗ねない、拗ねない」
「……そうね。またみんなで元気に戻って来てね」
「もちろん」
別れを惜しみつつも、マーリーさんや従業員たちに見送られ、大量の荷物を抱えて店をあとにする。
「よし、忘れ物はないな」
絶対に忘れてはいけない召喚術士の杖、折れたクワの柄で作った黒霧の杖、生まれ変わったクワ、自分で作った七つのコップ、お金や書類など、大切なものは精神収納に入れてある。
最後にもう一度、家の中を確認すると、全員で馬車に乗り込む。
手綱を握るのはサンディーだ。
二頭立ての馬車は扱ったことはないが、俺も御者の経験ならある。シアやクロエもできるらしいが、ここはサンディーに任せることにする。
ゆっくりと馬車が動き出す。
ギシギシ音を立てているが、思ったよりも乗り心地は悪くない。
それどころか、乗合馬車よりも格段に快適かも知れない。
そのまま門番と軽く挨拶を交わし、村の外へと出る。
「風が気持ちいいわよ。お兄ちゃん、こっちにくる?」
「ん~、あとでな」
サンディーの誘いを断り、窓の外を眺める。
すぐに戻って来るつもりだが、この光景を目に焼き付けたい気分だった。
たとえ平和な国とはいえ、悪人もいれば、獣たちもいる。
病気や事故の可能性もあるし、危険は常に近くにあると思ったほうがいい。
二度と戻ってこれない可能性もあるだけに、つい感慨に耽ってしまう。
無邪気にはしゃぐ妹たちの声を聞きながら、俺は遠ざかるウラウ村を、いつまでも見つめていた……
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