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俺の召喚体(いもうと)たちが優秀(やり)すぎる!  作者: かみきほりと
落ちこぼれ召喚術士、田舎暮らしで奮闘する
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04 煉瓦を……作る?

 薪はまだ二十日は持つだろう。

 二人分になったからと少しだけ水汲みの量を増やしたが、井戸が近いので全く苦にはならない。

 食費も不出来な野菜がほとんどなので、調味料とパンの消費が増えたぐらいだ。それに野菜も、ダメにして捨てる分が減ると思えば、ありがたいぐらいだった。

 つまり、メイプルが増えたからといって、これといって困るようなことは何もなかった。

 それどころか、居てくれることで受ける恩恵のほうが多いぐらいだ。


 さあ今日()しっかり働くぞ!

 ……と、張り切ったのはいいが、昨日作った土は、まだあと数日は寝かしたほうがいいらしい。

 真新しい作業着に身を包んだメイプルの指示で、動き始める。

 丈夫で通気性の良い服にはあまり手を加えていないようだが、なんとも初々しくて好感が持てる。それに、ツバの広い麦わら帽子がとても似合っている。

 

「今日は、豆の枝……つる? それを干しましょう。何日か干して十分に乾燥させたら、燃やして灰にするのです」


 それならば時々やっている。そのための場所もある。

 畑の隅に片手幅四方の浅い穴を掘り、そこで雑草などを燃やしている。

 ただし、雨が続けば水が溜まるので、天気の良い日が続いた時にしか使えない。


「あまり濡れるとよくないので、できれば穴ではなく、石や煉瓦で囲ったほうがいいのですけど。それに、屋根もあれば便利ですね」

「石なら拾ってくれば何とかなると思うが、さすがに煉瓦は厳しいな」

「粘土があれば作れるようですけど……」

「煉瓦を……作る?」

「はい。敷き詰めたり周りを囲うだけですから、それほど品質の良い物じゃなくてもいいので」


 そういうものは、専門の職人に任せるべきだが、この村にその職人はいない。

 焼き物もたまに行商人が持ち込んでくるが、数が少なく高価だった。

 なので、学院で食器と言えば陶器だったが、ここでは木製なのが普通だ。

 さらに言えば、国内には優良な鉱山があり、金属製品が豊富で手に入りやすいのだが、刃物や農工道具ならともかく、スプーンやフォークは木製を使っている。


「あーでも、そうなると、たくさんの薪が必要になっちゃいますね……」

「まあ、木なら、それこそ山ほどあるから困らないけど、乾燥させたりする時間が必要だよな」


 たまに山仕事も手伝ったりするので、頼めば多少は融通してもらえるし、欠片や小枝を集めるだけでも、そこそこの量になるはずだ。

 ……いやいや、廃棄物を燃やすだけなのに、レンガから作りましょう……というのは、さすがに手間がかかり過ぎる。

 何か理由があるのだろうが、農夫の領分を遥かに超えた仕事だ。


「処分するなら、いつも通り穴で燃やせばよくないか?」

「どうせ燃やすなら、何かに使えないかと思ったんですけど。ついでに、煉瓦があれば、いろんなことに使えますからね」

「えっと、つまり、俺が貧乏生活から抜け出すには、それが必要だと?」

「絶対に必要、というわけではないので、あまり気になさらないでくださいね。また何か、考えておきますね」


 メイプルは、たぶん他にもいろいろと考えてくれているのだろう。だが、それを実行するには、俺の実力が足りてないのかも知れない。

 たぶん俺は、自分は農夫だからと、やる前から諦めているからダメなのだろう。その事を気付かせようと思って、提案してくれているのだとしたら……


「わかったよ、メイプル。上手くいくか分からないけど、煉瓦を作ってみるよ」

「まぁ……ハルキお兄さまっ」


 本当に分かり易い。

 両手で口元を隠すようにして驚いたメイプルは、輝くような笑顔を浮かべ、さあ忙しくなるぞ……とばかりに、パンッと両手を合わせる。


「それでは準備を進めておきますね。私は用事があるので少しこの場を離れますが、お兄さまは草の天日干しと、豆を抜いた土の掃除をお願いします」

「わかったけど、ひとりで行くのか?」

「この村の人はいい方ばかりですし、万が一何があれば、お兄さまの元へ跳んで戻りますので、心配は要りませんよ」


 そういえばそうだ。

 ついつい忘れがちになるが、メイプルは人間の姿をした召喚体なのだ。

 いざという時は精神世界(アストラル)に帰還すれば、危険を回避できる。


 偉大なる召喚術士ともなれば、何十体もの召喚体を使役している。

 召喚体は、普段は召喚術士の精神世界の一部を借りて存在──つまり、分かり易く言えば、精神世界(アストラル)に間借りして暮らしている。

 それを、召喚術士が必要に応じて現実世界へと現出させ、行動を命令するのだ。

 それに、俺にもできるのか分からないが、意識をリンクさせれば、遠くに離れていても会話ができる……らしい。

 

「何か困ったことがあったら知らせてくれ。すぐに助けに行くから」

「はい。頼りにしてますよ、お兄さま♪」


 一人になった俺は、黙々と作業を続ける。

 俺が借りている土地は、ウィル爺さんが管理している土地の一部で、全体から見れば一割にも満たないものだった。それでも、つい数日前までは、時間を目一杯使っても管理するのが厳しかったのに、今では凄く狭く感じるし、どこか物足りなさを感じてしまう。

 たぶんそれだけ、今までが非効率だったのだろう。

 指示通りに動くのは、迷いや悩みがないだけに心身への負担が少なく、驚くほど効率的に作業が進んだ。

 そしてまたしても、お昼を前にして、今日の作業が終わってしまった。


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