38 ウラウ村の回想 前編
ウラウ村に流れ着いてからも、様々なことがあった。
これもいい機会だからと、今までのことを思い返しながら、クロエに説明する。
とはいえ、召与才能に関することもあるので、念話を使ってみんなでわいわいしながら話を進める。
最初はほんの偶然だった。
腰を痛めて動けなくなっていたウィル爺さんを助け、しばらく代わりに畑仕事を手伝うことにしたのだが……
五日ほどで復活したウィル爺さんは、俺の身の上話を聞いた上で、ここで農夫にならないかと誘ってくれた。
村の人にも協力してもらい、住居や畑、その他諸々の準備を整えてもらった。
とはいえ、やはり素人には難しく、なかなか上手く作物が育たない。
そんな状態が二年続き、貯金も心許なくなってきた頃、召喚術士を目指していた時のクセで、考え事をしながら召喚陣を描いた。
とはいえ、一度として召喚に成功したことがないので、軽い気持ちで聖句を唱えたのだが……
その結果、呼び出されたのは、なぜか俺のことを兄と慕う人間の女の子、メイプルだった。
彼女の使命は……召喚時の聖句の通りなら、困窮する生活から俺を救い出すこと。その為に授けられた召喚付与能力──召与才能は知識や頭脳ということになるのだろうか。
召与才能は召喚体自身もはっきりとは分からないらしく、手探りで理解するしかないらしい。
メイプルは不器用……というか、よく失敗をするのだが、研究熱心で、暇を見つけては実験のようなことを続けている。
畑の土も何やら色々と調べていたようで、そんな彼女の助言に従って、畑を整理し、土を改良し、品種も大豆と玉黍の二種類に絞って育てることになった。
それと、なぜか煉瓦造りをすることになり、ついでに陶器を焼く事になった。
今にして思えば、俺が常々「村の人たちへの恩返しがしたい」と言っていたので、その方法を考えてくれたのだろう。
情けないことに、疲労で倒れてしまったことがあった。
どうやら倒れる直前に、ほぼ無意識のまま召喚術を使ったようで、目覚めたら裸エプロンの女性が料理を作っていた。
それが二人目の召喚体、サンディーだった。
おぼろげな記憶の通りなら、家事や雑用の一切を担うべく呼び出された……ということになる。
召与才能も、家事や雑用に関係するものなのは間違いないだろう。料理や掃除、洗濯はもちろん、裁縫や大工仕事までこなす、心強い妹だ。
スタイルは良いが、セクシーというよりは爽やかで健康的な印象が強い。しかも、俺に対しては、幼い頃から一緒に育った兄妹のように遠慮がなく、裸を見られようが触れられようが、恥じらいのようなものは感じていないようだ。
勘当された身だが、俺も兄弟の多い家庭で育ったので、妹の扱いに慣れていた。こういうものは下手に意識するほうが関係がギクシャクするものだ。
サンディーの服を買いに、仕立て屋に行った。
その時、メイプルが発案したものをサンディーが実行し、服の改造や小物を作ったりしたことで、店主のマーリーさんにすごく気に入られた。
その後もサンディーはお針子さんとして、仕立て屋に通うようになった。
人数が増えた分、家計に負担がかかるから、その足しにと始めたらしい。
彼女としては労働というよりは趣味の延長のようなものらしく、苦ではないようで、むしろ楽しんでいるようだ。
メイプルと一緒にアイデアを出し、服のデザインも色々と増え、行商人を通じて村の外でも売ることになった。
家のことは、家事が得意なサンディーに任せることにした。
もちろん、丸投げするわけではない。できる限り手伝うのは当然だ。そう思っていたのだが……あまりにも熟練度が違い過ぎた。
下手に手伝うと、余計な手間を増やしかねないので、困った時は声をかけるようにとお願いするしかなかった。
彼女の家事は、それだけに留まらない。
どこかから大工道具を借りてきたかと思えば、ボロ家の改修を始めた。
使われていなかった棚がベッドの拡張や壁の補修に使われたり、家具の配置を変えて使いやすくしたり、気付けば随分と過ごしやすい家になっていた。
二人のお陰で苦悩の日々が終わり、今後に希望が見え始めたのだが……
懐かしい相手と再会したのは、そんな頃だった。
黒狼に乗り、風精霊を従えた、魔女姿の宮廷召喚術士にして、俺に家を出る切っ掛けを与えてくれた恩人、フェルミンさんだ。
フェルミンさんは、俺が学院を退学になったと知ると、学院に抗議をして退学を取り消させた。
だが俺は、勘当された身なので実家には戻れず、放浪の旅を続けてこの村に流れ着いていた。誰にも知らせていなかったので、探すのに苦労したらしい。
二年もかかってやっと見つけた俺に、召喚術士見習いの資格復活と、学院への復学を伝えてくれた。だが俺は、この村での生活を捨てるつもりはなかった。
それを聞いたフェルミンさんは、俺を弟子にした。しかも、ひと通りの基礎が身に付いたら、王都で国家資格を受ける……という手筈まで整えてくれた。
そこまで親身になって世話をしてもらうとなると、こちらとしても秘密を話さないわけにはいかない。
もちろん、メイプルとサンディーの事だ。
二人は俺が召喚した、人間の召喚体だとフェルミンさんに打ち明けた。
人間の召喚体は前例がないらしく、疑われても仕方がない。
だが、かなり念入りに調べられたものの、最終的には納得してもらえた。
それ以降、召喚術士としての基礎──契約、召喚体の強化、念話など、様々な事を教わることになった。
獣による被害は、多かれ少なかれ毎年のように発生するものだが……
ここ数年、近隣の村々を荒らしまわっている、猟師でも手に負えない恐怖の存在、灰黒猪がこのウラウ村に現れた。
よそ者の俺として、こういう時こそ積極的に参加して、活躍したいところなのだが、あいにく武器になりそうなものは、ウィル爺さんから頂いたクワぐらいしかない。
仕方なくクワを担いで参戦したのだが、村人が束になったところで敵う相手ではなかった。死人を出さないように逃げ帰るのが精一杯で、俺のクワも先が折れ、柄だけになってしまった。
失意のまま、物陰でたそがれつつ、クワの柄を杖代わりにして召喚陣を描いた。
どういうわけか杖と同様に先端から光が放たれ、召喚陣が描けてしまった。
とはいえ、どうせ発動するわけがないだろう……と思っていたのに、妖精のような少女、シアが現れた。
少女は、俺たちに危害を加える悪鬼羅刹を倒すという願いで呼び出された。だからなのか召与才能も、戦闘に関するもののようだ。
分かっているのは、自在に武装を生み出すことができ、装着者の身体能力を飛躍的に高める効果があり、装着できるのは、俺と、俺の召喚体に限られる……ということ。
ともかく、シアの戦闘能力は凄まじく、あの灰黒猪を、ただの一撃で倒してしまった。
大変なことに巻き込まれたのは、この後だった……
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