36 初めての豊作
とうとう収穫をする時が来た。
よくぞここまで育ってくれたものだと、感慨に耽りながら、最初のひとつに手を伸ばす。
皮の上から実が入っているかを優しく確かめ、茎を傷つけないように気を付けながらもぎ取り、中に虫がいないかを確認する。
「ほら、メイプル。文句なしの出来だ」
隣に立つ少女が、嬉しそうにそれを受け取る。
肩口で切り揃えられたクリーム色の髪、まだ幼さを残しつつも利発さを感じさせる青い瞳、もちっとした白い肌をした少女──俺が最初に召喚した、なぜか俺を兄だと慕う人間の召喚妹……いや、召喚体だ。
この玉黍が立派に実ったのは、彼女のおかげだった。
「すごく美味しそうですね。ハルキお兄さま」
「ああ、そうだな。これなら師匠も喜んでくれそうだ。……おっと、急いで収穫しないとな。シア、やり方は分かるか?」
興味津々で、茶色の瞳で見つめてくる妖精のような少女に話しかける。
今日は畑のお手伝いをすると伝えてあったので、空色の長い髪は邪魔にならないように結い上げてあった。
「ハル兄、任せて。クロエと一緒に、ちゃんと勉強した」
その横でクロエも、うんうんとうなずく。
サンディーに結ってもらったんだろう。こちらは黒髪だが、シアとお揃いの髪型になっていた。
それはいいのだが……
「今日はネコクロエか?」
「あの……兄者、これには訳がありまして……」
ネコ耳、ネコ尻尾、それにネコヒゲまで付けて、恥ずかしそうにしながら、上目遣いでこちらを見つめてくる。
可愛いぞ……と頭を撫でてやると、ふにゃ~っと嬉しそうに黒い目を細めた。
「ハル兄のことを『主殿』って言った罰ゲーム。それに、ネコクロエ、かわいい」
もう村では、すでに変わった兄妹として定着しているので、今さら気にする必要はないと思っているのだが、なぜかシアは呼び方にこだわっている。
まあ、お姉さんぶりたいだけかも知れないが、何にせよ、ネコクロエが可愛いのは間違いない。
足音が聞こえ、そちらを見ると、長い金髪を頭巾でまとめた青っぽい瞳の女性が、颯爽とやってくる。
「お兄ちゃん、お待たせ」
「サンディー、仕立て屋のほうはいいのか?」
「うん、向こうは平気だよ。私も収穫するの楽しみにしてたんだから、手伝わせて」
「もちろん、助かるよ。サンディーなら大丈夫だとは思うが、一応メイプルから説明を聞いておいてくれ」
「りょうか~い!」
彼女の目利きは、俺よりも信頼が出来る。
それに、みんなの面倒も見てくれるので、俺は作業に集中できる。
これ以上ない心強い助っ人だった。
どこからどう見ても人間──ひとりネコ娘姿が混ざっているが──なのだが、これでも四人は、俺が召喚した召喚体たちだ。
なんとなく成り行きでそうなってしまったが、全員俺の妹として一緒に暮らしている。
今となっては、村の人たちを混乱させないためにも、それで良かったのだと思っている。もっとも、次々と妹が現れるなんて、それはそれで不自然なのだが……
この畑は、農作業の師匠であるウィル爺さんから借りているものなので、収穫物は全てウィル爺さんに納めることになる。
野菜は鮮度が命なので、急いで収穫を済ませると、シアに手伝ってもらって、台車でウィル爺さんのところへと運び込んだ。
まだ初日なので数は少ないが、師匠も驚きの出来栄えだったようだ。
いやまあ、去年は散々だっただけに、驚くのも無理はない。
「いんや~、こりゃ魂消たに。枝豆ん時も驚ぇたけんど、もう耕作ばモノにしたんかいの。こりゃ将来が楽しみじゃて」
「妹たちのおかげですよ。それに、メイプルにいろいろと教えて下さっているようで、すごく助かってます」
「そりゃま、あんだけ熱心じゃと、教えるのも楽しいわい。それに、どこで学んだんか知識が溢れてくるよけ、この歳になって、こっちも勉強させてもらってるで。ほんに不思議ん子よ」
あはは……と笑うしかない。
「ほれ、前払い分と……、これは上手にできた祝いで、持ってけーさ」
収穫が終われば、次の仕掛かりを始めることになる。
だが、商人に売ったり、税金やら水利用料やらもあって、確定するのを待っていたら時期が過ぎてしまう。
なので、先に前払いの代金を頂き、確定したら差額分を改めて頂くことになる。
ちなみに、間引き玉黍や枝豆の納品は既に終わっており、その前払い分だけでも相当あった。
それに加え、灰黒猪討伐の礼金や、指名手配犯を捕らえた賞金──しかも、フェルミンさんの口添えで二回分──を受け取っているので、懐にはかなりの余裕があるのだが、ありがたく頂戴する。
「あー、ハルキさんや。王都行くなさって聞いたけど、いつ戻って来んかい?」
「それがですね、できれば早く戻りたいんですけど、いつになるか分からなくて。今年中に戻れればいいんですけど」
「そうかい。まっ、あの畑は、まんま置いとくさけ、いつでも戻って来いよ」
「はい。ありがとうございます」
「シアさんも、達者での」
「うん。お爺ちゃん、ありがと」
笑顔で手を振り、箱いっぱいの野菜を台車に乗せて、家に向かう。
その中には当然、収穫されたばかりの玉黍も入っていた。
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