34 湿地帯の戦い
新しく生まれ変わったクワが届いた。
頑丈だとは聞いているが、まさか耐久力の実験をするわけにもいかない。
だが、これまた聞いていた通り、すごく扱いやすかった。
ただ柄が軽いだけなら、クワ先の重量に振り回されることになるが、各部の重量バランスが絶妙なようで、力が伝わりやすく、スッと振り下ろせる。
まだしばらくは出番がないが、今から使う時が楽しみだ。
……などと現実逃避をしていても仕方がない。
できればこのまま無かったことになって欲しかったが、どうやら巨大毒蛇退治からは逃れられないらしい。
準備はメイプルが整えてくれた。
前回のこともあったので、全く乗り気ではなかったのだが、そこへさらに、フェルミンさんからの課題が加えられた。
それは、作戦中は声を出してはいけない……というもの。
もちろん、不意に声が出てしまうということもあるが、少なくとも召喚体への指示は全て念話で行うようにと、言われてしまった。
しかも、監視のために風精霊が同行している。
偶然とはいえ、一度はクロエ相手に成功したのだ。可能性はゼロではない。
実際、あの後、何度も練習して少しは使えるようになった。だが、集中力やパワーが必要で、とにかくとても疲れる。
ちょっとでも意識を乱したら、相手に届かなかったり、他の者にも伝わったりして、念話が大混乱してしまう。
慣れれば選んだ複数人だけ──たとえば、メイプルとシアの三人だけで内緒話をする……なんてこともできるらしいが、そんな日はくるのだろうか。
フェルミンさんの考えは、追い込まれた状況になれば、必死に使おうとするだろう……って事なんだろうけど、なにもこんな危険を伴う場面で、ぶっつけ本番ですることではないと思う。
気付けばメイプルがこちらを見つめて、何か指で合図を送っている。
「もう、仕方ないわね。ハルキ、みんなからの念話は、いつでも受け取れるようにしておかないとダメじゃない。ちゃんと心の中でみんなの事を思い浮かべて、心を開かなきゃ」
「そうは言うけど、フィーリア。これって、すっごく大変なんだけど」
「心の中にみんなの姿を思い浮かべ、部屋で区切って、誰と念話を交わしているのかを明確にするだけでしょ? なんで、そんなこともできないのよ」
「みんなからの念話を聞きつつ、特定の相手だけに念話を送る……」
「そうよ。私と会話をしている間も、何食わぬ顔で念話を続けられるぐらいにならないと、お話にならないんだからね」
風精霊は、呆れながら無茶に無茶を重ねたことを言ってくる。
だがまあ、言いたい事は分かるし、俺自身、そうなればいいなとも思う。
とはいえ、そのためにはどうすればいいのか、それが分からない。
まずは全員の念話を受け取ることに集中する……
不意にグイッと腕を引っ張られて足を止める。
見ると、シアが小さく首を横に振っている。
気付けば、湿地帯の待機場所に到着していた。
心の中にみんながいるのに、その声が聞けないもどかしさに身悶える。
サンディーがシートを広げて座るようにと促す。
どうやら、ひと息入れようということらしい。
彼女たちも俺に付き合って、言葉を話さないようにしてくれている。
だが、たぶん、彼女たちの間では念話が飛び交っているのだろう。
サンディーから木のコップを受け取り、野菜煮汁をひと口飲む。
ほんのり優しい甘さが口の中に広がる。
驚いてサンディーを見ると、笑顔を浮かべてうなずいている。
そうか……相手の表情や仕草を読み取るのも会話のようなものだ。
言葉に頼れない分、視覚に頼っていたのだ。
それを断てば、念話に集中できるかも知れない。
俺は、そっと目を閉じる。
もう一度、心の中に、それぞれの存在を明確に思い描いていく。
メイプル。肩口で切り揃えられたクリーム色の髪。幼さの中に利発さを感じさせる青い瞳。触り心地がよく、もちっとした白い肌。頭が良くて、様々な発想で俺を助けてくれる、ちょっと不器用で研究熱心な女の子。
サンディー。結い上げた長い金髪。普段は青いが、時折、赤味を帯びる不思議な瞳。家事や裁縫が得意だが、天才肌で様々なことをこなし、喜怒哀楽がはっきりしていて親しみやすく、少し甘えん坊で優しい女性。
シア。二つ結びにした空色の髪。三つ編みにしたり結い上げたり……はサンディーの趣味か。目は茶色。見た目より幼い口調だがお利口で、見た目は妖精のようだが、戦女神の化身のような強くて頼りになる女の子。
クロエ。長い黒髪と黒い目。どこか猫っぽい所があるが、実際に黒猫になれたりする。自分のことをボクと呼び、恥ずかしがり屋さんなのに、不思議な体術や道具を使い、諜報や暗殺が得意だという女の子。
まずは、それぞれの声を聞こうと意識を集中させる……
……………………大きく息を吐く。
なるほど、なんとなく分かった気がする。
全てを自分ひとりでやろうとしていた事が間違いだったのだろう。
薄く広く意識を分散させるのではなく、四つの意識を生み出し、それそれ四人に担当を振り分ければいいのだ。
何となくコツはつかめた。
『みんな、聞こえるか?』
一斉に、元気な声が返ってくる。
ならばと、その心を維持したまま、ゆっくりと目を開ける。
『うぉっ! びっくりした』
みんなが、喜びと好奇心を湛えた表情で、俺の顔を覗き込んでいた。
『まだちょっと、個別に会話はできないと思うけど、今日はこの状態で頼む。メイプル、作戦を説明してもらってもいいか?』
『あっ、それなんですけど……』
なんだか言いにくそうに、困ったような表情を浮かべると、視線で向こうを見るようにと促してくる。
何かトラブルか?
なんてことを思いながら、そちらのほうを見ると……
湿地帯の真ん中あたりに、巨大な物体が転がっていた。
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