31 三人の特命官
いきなり世間話を始めたフェルミンさんと風精霊を、俺は呆然と見つめていた。
「それにしてもマスター、遅かったですね。もう全部、終わっちゃいましたよ?」
「ごめんね~。説得するのに、ちょっと時間がかかっちゃってぇ」
その二人の上を、馬ほどもある影が横切った。
何事かと空を見上げると、人が、それも二人、空から降りきて着地する。
一人は旅人のような格好をした銀髪碧眼の、目を惹く容姿の美青年。
もう一人は、見るからにお嬢様といった雰囲気をまとった、金髪碧眼の女性。
こちらは典型的な女性魔導術士服──白と黄色に金糸で飾られた服とプリーツミニスカート。黒角帽に黒のニーハイソックス、黒ブーツに黒マント姿だった。
そのマントに付けられたブローチが、チラリと目に留まる。
杖と流星の紋章に一角獣の影絵……
「宮廷魔導術士!?」
えっ? なんで?
そりゃ、フェルミンさんだって宮廷召喚術士なのだから、宮廷魔導術士が現れてもおかしくない……?
いやいやいや、おかしい! 絶対に、おかしい!
王様直属の特別任命官がもうひとり現れたのだ。よほど重大な事に違いない。
となると……
「お、俺を捕まえに来たんですか? 今回の事は全部俺の責任です。だから、妹たちだけはどうか見逃してやってください。お願いします」
急いで片ヒザをつき、頭を下げる。
「あら~、ハルキ、ご乱心だわねぇ……」
「マスターが、説明をしてあげないからですよ」
冷静に考えれば、召喚術士が処刑されれば召喚体は消えるのだから、召喚体を逃がして召喚術士が捕まるなんて本末転倒だ。
ザッ、ザッと足音がして人影が近付く。
すぐ前でしゃがみ込んだ相手は、俺の頬にそっと手を添える。
「怖がらないで。顔を上げてごらん」
言われるがままに頭を上げる。
あの旅人だ。目鼻立ちの整った凛々しくも美しい顔が、目の前で微笑んでいた。
ふわりと花のようないい香りがする。
「私たちは、キミに危害を加えるつもりも、罪に問うつもりもないよ。むしろ、感謝しているぐらいさ。これで、国に害成す領主を裁けるのだからね」
「俺……じゃなくて、領主を?」
「ああ、そうだ。ハルキ・ウォーレンくん。領主の企みを暴き、更なる悪事を未然に防いだ、キミの功績は素晴らしいものだ」
「…………?」
「キミの協力に感謝する」
訳が分からないままに、美しい旅人とガッチリ握手を交わす。
「そういえば、自己紹介がまだだったね。どうか立ち上がってくれないか」
「はい」
返事はしたものの腰砕けの状態で、控えているだけでもやっとだったのだが、サンディとメイプルに支えられて、なんとか立ち上がる。
「私はファルアラン・ガイゼル。これでも聖法騎士をやっている。……だけど、この姿の時は、どうかアランと呼んでもらいたい」
「アラン……さま。……!!」
「できればアランさんと呼んでもらいたいけど、間違ってもこの姿の時に、ガイゼル閣下だなんて呼ばないようにね」
聖法騎士のガイゼル閣下といえば、凛々しい女性聖騎士として大活躍する、国内でも大人気な超有名人だ。
失礼ながらも二度見してしまった。
「この姿だと、なかなか気づかれないからね。だから、みんなには内緒だよ?」
口元に人差し指を当ててウィンクしてくる。
ようやく、お忍びの為に男装して、旅人姿になっているのだと理解した。
話に聞いていた印象と違って、とてもお茶目な人のようだ。
「わかりました、アランさん。この秘密、墓の下まで持っていきます」
大袈裟だなぁ……と困ったように笑うアランさんに変わって、宮廷魔導術士が進み出る。
こちらは華やかで暖かい雰囲気の人だった。
「ごきげんよう。ワタクシは宮廷魔導術士を拝命しておりますマリーでございますわ。以後、お見知りおきを願いますわね」
「はい。マリーさま、こちらこそよろしくお願いします」
宮廷魔導術士のマリーと聞いても、いまいちピンとこない。それに、よくある名前なので、有名人かどうか判別ができない。
それにしても、何だか話し方がぎこちない……気がする。
「あら~、やっぱりハルキも気付いちゃった? そう、彼女こそはキュリスベルの第三王女、フェルデマリー王女、その人よ」
「えっ?」
いやっ、気付いてないから。全然、気付いてなかったから。
……って、王女さま?!
「ちょっ、ちょっとフェルミンさん! まさか、秘密を知られたからには……って展開になったりしませんよね?」
「心配なさらずとも平気? ……ですわよ。それに、私の事も、マリーさんと呼んで、皆と同じように扱って欲しいのだわよ」
王女さまと握手を交わしてしまった。
なんだか夢でも見ている気分だ。
「は……はい。マリーさん、よろしくお願いします」
話し方は変だが、慈愛に満ちた微笑みは、たしかに王女の気品がにじみ出ているような気がした。




