30 責任と覚悟
戦場でひざ枕をされながら、のんびりと見物……なんて、してられない。
そう思い、ゆっくりと身体を起こす。
「ありがとう、メイプル。もう平気だ」
なんとか声が出るようになったが、身体が怠い。
もしかしたら同じような状態で、シアは戦ってくれているのかも知れない。
だったら……
大丈夫、できるはずだ。
……そう自分に言い聞かせながら、精神世界にある四つの存在に向かってチカラを注ぎ込む。
精神経路を通じて、みんなに届くように……、優しく触れるように……、みんなの事を思って…………
時間にして数秒ほどだが、一気に疲労感に襲われる。
少なくとも、俺からはチカラが抜け出たようだ。それがみんなに届いていればいいのだが……
「これ、ハルキお兄さまが?」
メイプルは信じられない表情で両手を見つめ、拳を握ったり広げたりしている。
「ああ、ちょっと試してみたんだけど、どうだ? みんなにも届いたかな?」
「届きましたよ。ほら……」
クロエの奇襲で二人の術士は倒せたが……
領主はやはり只者ではなかったようで、シアと互角以上に戦っている。
そのせいで、残る四人がクロエを囲んでいた。
防戦一方とはいえ、それでも耐え続けているクロエもすごいのだが……
ざわっ……と風が動く。
次の瞬間、クロエを中心に旋風が巻き起こり、身体を横回転させた黒装束の少女がピタリと動きを止めた。
華麗……というのか、美しくも格好良い姿に目を奪われる。
右手には風変わりな剣、左手には苦無が握られていた。そして……
「秘技・風刃の舞い」
ビシッとポーズを決めてクロエが呟くと、四人の兵が同時に倒れた。
残るは領主のみ。
俺のチカラを受け取ったシアは、本来の実力を取り戻し、より強化された身体能力を発揮しようと、グッと力を溜め込む。
「あっ……」
思わず間抜けな声が出てしまった。
それはメイプルも一緒だった。
シアが、さあ、これから反撃しよう……とした、まさにその瞬間、領主の側頭部に岩がめり込んだ。
なんだかすごく心が痛い。
領主さまにこんなマネをしたんだから、まず間違いなくお尋ね者だ。
そんな事をぶつぶつ呟きながら、男たちの武装を解除して縄で縛り上げていく。
「お兄さま、大丈夫ですよ。全員、ちゃんと生きてますから」
「いやまあ、それは良かったんだけど、そういう問題じゃないっていうか……」
たしかにメイプルの言う通り、シアもクロエも俺の指示には忠実に従ってくれた。切り傷は多いが全て浅く、すでに血もほとんど止まっている。
派手に見えた血しぶきも、一度にたくさん切り刻んだかららしい。ある意味、それも残酷なような気がするが……
サンディーが投石器で放ったトドメの一撃も、命を奪うまでには至らなかったようだ。これは領主の丈夫さに感謝するしかない。
この状況、フェルミンさんにどう説明すればいいのかと頭を悩ませているところに、できれば聞きたくなかった子供っぽい甲高い声が響く。
「うっわぁ……、これはまた派手にやっちゃったわね。ハルキ、さすがにこれはやりすぎよ?」
風精霊の役目は、俺を見守ることらしいから、そりゃいるよな……と頭を抱える。
「見てたなら分かってるだろ? やりすぎたのは、俺じゃなくて……」
「あら、言い訳をする気? 召喚体は召喚術士と一心同体って、今さら言わなくても分かるわよね……」
そりゃそうだ。この責任を彼女たちに押し付けるのは間違っている。
「なあ、フィーリア。俺、どうすりゃいい? 捕まったら、やっぱり処刑?」
「どうなるかは分からないけど、いろいろ覚悟を決めたほうがいいかもね」
「覚悟…… 覚悟か…………」
ハァーーーーと、深い深いため息を吐く。
「やっと畑も上手くいきそうだったのに。陶器だって……まだ、ちゃんとできたか分からないけど、みんなに配ってないし……。そうだマーリーさんにも謝らななきゃ。サンディーが行けなくなったら困るだろうな……」
思わずその場に座り込む。
その頭をフワッと柔らかいもので包み込まれた。
ひざ立ちになったメイプルが、おれの頭を包み込むようにして抱き締めたのだ。
「大丈夫ですよ、ハルキお兄さま。心配しなくても大丈夫ですから。お兄さまは勝ったのですよ」
「そりゃ、生き残ったけど、領主にこんな事をしたら、結局は……」
「いえ、私の計画通り、その領主に勝ったのです。だから、安心してください」
計画? ……どういうことだ?
つまり、これも全部メイプルが……
「あらぁ? ちょっと目を離しただけなのに、二人の関係はそこまで進展しちゃったの~? ちょっとフィーリア、こんな面白いこと、なんで報告してくれなかったのよ~?」
そう指摘され、メイプルは顔を真っ赤にして慌てて離れる。
「マスター、お疲れ様です。報告する暇なんてありませんでしたよ。今、まさに生まれたばかりの芸術作品ですから……」
「これが夕焼け空なら、もっと絵になったでしょうね~」
こちらは絶望に打ちひしがれているというのに……
いつも通りの呑気な様子で、フェルミンさんが現れた。




