28 暗闘
不穏な気配を察して、逃げるように遠ざかる動物たち。
道なき斜面を登る一団は、どうやら山に慣れているわけではなさそうだ。
少なくとも狩りを生業にしている様子はなく、足音や呼吸音、それに時々漏れ出てくる悪態など、かなり騒々しい。
「ったく、馬車の奴等は楽でいいよな」
「オイコラ、ぺっちゃくってねぇで、さっさと足を動かせ」
「あいよ……ったく、なんであんな他所もんに命令されなきゃ、なんないんだよ」
「しゃーない、あの方の命令だからな……」
先頭の三人は捕まったはずのヒュメラ村の使者と賞金首の二人。
残りは、この任務のために、ヒュメラ村から厳選された四人だった。
合わせて七人が武装し、何かを背負って、人目を忍んで足場の悪い山中を進む。
アオォーーーン!
「なんだ? 狼か?」
「周りを警戒しろ。こんな場所で獣に襲われたら、シャレにならんぞ」
騒ぎ始める男たちの周りに、ファサッと何かが落ちてきた。
何事かと考える暇もなく、斜面の上から次々と石が転がり落ちてくる。
そちらを見ると、逆光の中、狼の影姿が浮かび上がり、再び遠吠えを放つ。
気付けば左右に土の壁が現れていたのだが、震え上がった男たちはパニックを起こし、危ねぇだの、避けろだの、邪魔だ、どけっだのと叫びながら、知らず知らずのうちに崖を下り、土壁の間を目掛けて殺到する……
先頭を進んでいた大男の足元が崩れ「うおっ」と声をあげ、立ち止まろうとするが、我先に逃げようとする後続に押されて、次々と穴に落ちていく。
古典的な落とし穴だ。たぶん冷静だったら引っ掛からなかっただろう。
這い上がろうとする男たちの頭上に、無情にも格子のふたが乗せられた。
ウォッ、ウォッ、ウォッという遠吠えの合図を聞き、メイプルがホッと胸を撫で下ろしている。
やっぱり彼女も不安だったのだろう。
「クロエちゃん、上手くやったみたいですね。お兄さま、シアちゃん、それではよろしくお願いします」
「よし、シア、いくぞ!」
「おー!」
目標の馬車が見えてきた。
メイプルの合図でシアが木を倒して道を塞ぐ。
簡単な革鎧で武装した俺は、ゆっくりと歩いてその前に立ち塞がる。
得物は相変わらず腰に差した木剣のみ。
もちろん、全部シアに用意してもらったものだ。
慌てて止まった馬車の車輪を、横から飛んできた一抱えもある岩が破壊する。
サンディーの仕業だ。自作の投石器で攻撃したのだ。
武装した男たちが、転がるように慌てて出てきた。
「ここは行き止まりだ! 命が惜しけりゃ、荷物を置いてサッサと消えろ!」
「さすがハル兄、かっこいい」
いやいや、どう考えても悪役の台詞だろ……と、隣に立ったシアに心の中でツッコミを入れる。
「やかましいっ! こっちは……」
「こっちは、なんだ? ウラウ村を襲うってか? 馬鹿が。お前らの顔は全て覚えたからな。さっさと自分の村に戻って震えて待ってろ」
「ふっざけんな!」
仕方がないと、腰の木剣に手を伸ば……そうとして止める。
空色の光が乱反射するように駆け巡り、次々と敵が崩れ落ちていった。
サンディーの放った二発目の岩が馬車を直撃したのは、その後だった。
六人を縄で縛り上げ、馬車の中を検める。
「ワラの束と……壺?」
「油ですね。恐らく、村に火をかけようとしていたのでしょう」
「とんでもないけど……、何か変じゃないか?」
「そうですね……。よくあるのが、こっそり潜入させた人たちに火をかけさせて、混乱した所へ馬車で兵たちが乗り込む……って感じですよね」
いやまあ、そうなんだけど……、その容姿でそんな事を言われると、心がザワッとしてしまう。
それにしても見事なものだ。本当に自分たちだけで、襲撃を阻止してしまった。
ちょっと、やりすぎな感じもするが、死者も出てないようだし上々だろう。
「ハル兄、片付け終わったよ」
「そうか。シア、お疲れ」
気付けば、道を塞いでいた木も、壊れた馬車も撤去されていた。
「これで終わった……のはいいけど、こいつら、どうするつもりだ?」
「心配いりませんよ。もうすぐお迎えが来るはずです」
その言葉の通り、物々しい足音が聞こえてきた。
あの姿は見間違えようがない。先日も見た領主さまとその兵士たちだ。
「あれ? 今日はフェルミンさん、いないんだな」
考えてみたら、昨日の夜から風精霊の姿も見てない気がする。
返事が無いので、不思議に思ってメイプルを見ると、いつになく真剣な表情で、領主さま一行を見つめていた。
……いや、睨んでる?
「メイプル、どうした?」
「お兄さま、くれぐれも気を付けて下さいね」
「気を付けるって……何を?」
不思議に思いながらも……
「シア、大活躍だったな。お疲れ様」
甘えるように抱き付いてくるシアの頭を撫でてやった。




