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俺の召喚体(いもうと)たちが優秀(やり)すぎる!  作者: かみきほりと
幕間挿話 その三

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266 夢見るメイドの聖地 後編

 泥炭(でいたん)の魔人が自爆したことで、爆心地に大穴が穿(うが)たれ、外壁の一部が崩れ去り、商都メルシアの三分の一が壊滅した。

 復興のついでに外壁をずらして街を広げ、大穴が空いたついでに下水道を整備しようってのは、タダでは転ばぬ商人らしい発想だけど……

 ともかく外壁の修復を最優先した結果、俺たちは雪で閉ざされる前に、無事ディッケスへと戻ることができた。

 そして昨日の昼前、懐かしのウラウ村に到着した。


 帰り道から外れてるのに、わざわざ村に立ち寄ったのは、そうするようメイプルに指示されたからだけど、言われなくても俺から提案するつもりだった。

 なんせここ(ウラウ)には、俺たちの家(ウォーレンハウス)がある。

 俺にとっては第二の故郷……いや、もはやここが故郷なだけに、無理を通してでもマリーたち……特に実姉であるシェラに見てもらい、俺はここで救われたんだって知ってほしかった。


 到着すると村の人たちが盛大に歓迎してくれた。

 村長やウィル爺さん、仕立て屋のマーリーさん、猟師のマーチンさんなど……

 それに加えて、ミレンスにいるはずの妹たちや、ギルバード・ベルゲン&エレオノーラ夫妻の姿もあった。

 さらにウォーレンハウスでは王都にいるはずのミアとサクヤが待ち構え、フェラルド様、サミュエル、ロアの両親までもが上機嫌で出迎えてくれた。

 何事かと問い(ただ)す間もなくドレス姿のロアが現れ、トドメにメイプルから驚きの告知が飛び出した。


「お兄さま、突然ですけど明後日(あさって)、ロアさんと結婚していただきますね。そこで豊穣の女神ユーカティア様に、マリーさんたちのことを報告しましょう」

「報告なら傍都(ベル)の浄楽園で……えっ!? ロアと結婚!?」

「はい。お兄さまとロアさんの結婚式を行います」


 戸惑う俺を余所(よそ)に優しい笑顔を浮かべるメイプルの横で、はにかみながらロアがお辞儀する。


「ハルキ様、どうぞ末永くよろしくお願いします」

「こ…、こちらこそ……」


 ロアのことはフェラルド様との約束もあって(いず)れはと思っていたけど、まさかこんな突然とは思わなかった。とはいえ、この状況で断れるはずがない。


『今です。ロアさんを抱き寄せてください』


 つい反射的に、メイプルの念話に従ってしまった。

 その光景に、ロアの両親は喜びの涙を浮かべ、フェラルド様は感慨深げに大きくうなずいた……


 そんな感じで、明日行われる自分の結婚式を昨日聞かされるという、信じられない体験をしたわけだけど……

 俺はまだいい。妹たちに全て任せてあるので、書類仕事をする余裕すらある。

 だけど、同じように旅をしてきて、俺と同じタイミングで話を聞かされたマリーたちは大変そうだ。

 女性は準備に時間がかかるもの。俺のようにただ服装を整えて、段取りを覚えるだけってわけにはいかない。


「みんなの様子は、どう?」

「順調そうですよ。サンディーお姉さまとミアお姉さま、マーリーさんやお針子さんたち、それに侍女の方々も、すっごく張り切ってますので」

 

 なかなか壮絶な音や声が、壁越しに伝わってくる。

 明日はマリーたちのお披露目も兼ねてるので、大忙しで身体を磨き上げ、服を仕上げてるらしい。


 こうして旅の疲れを癒す間もないまま、俺たちは結婚式当日を迎えた。




 ウラウ村にリンプス教の施設は無いので、式はノスフィアの教会で行われた。


 このノスフィア・ウラウ教会は小ぢんまりとした建物だけど、周囲の風景と絶妙に調和しつつ、古木のような存在感を放っている。

 とはいえリンプス教の聖堂のような威厳ではなく、それとは対照的というか……自分の居場所に戻ってきたかのような親しみや、自然と共に見守られているような安心感があり、(いこ)いの場として村人たちに親しまれている。

 

 ロアたちは伝統的な民族衣装というのか、昔ながらの装束に身を包み、花や鳥の羽根などで華やかに飾り付けている。

 俺の衣装は古の狩人といった風情(ふぜい)で、どことなく召喚術士の正装に似てるけど、王都と違って田舎(ここ)だとあまり違和感はない。

 ひと言でいえば時代遅れな装いだけど、それが(かえ)って新鮮で、神秘的な雰囲気を(かも)し出している。

 可愛らしく着飾った妹たちも、とても楽しそうだ。

 

 それにしても、こんな田舎の村にロアの家族全員が集まるとは驚きだ。

 祖父のフェラルド様、その次女で母のミランダさん、父のキースさん、長女はロアンナだけど……、妹のエレオノーラさん、その夫のギルバードさん、長男で末っ子のサミュエル……

 その全員が俺たちを祝福してくれている。

 

 急展開過ぎて全く実感がないけど、俺の手に戻った指輪には四人の名に続いてロアの名が刻まれている。

 まさか、ここまで手間をかけておいて、家族ぐるみの冗談でした……などとは言わないと思うけど、まだどこかに信じられない気持ちが(くすぶ)っている。


「ロア、今さらだけど、ちょっと聞いてもいい?」

「はい、ハルキ様、いかがなさいましたか?」

「……もうメイドの仕事はいいのか?」

 

 確かにロアとは結婚の約束をしていた。だけどそれは、メイドたちが成長し、新たにメイド長を任せられる後継者が見つかってからの話だった。

 それにロア自身、メイドの仕事に誇りややりがいを持ってたはずだ。

 たぶん俺が素直に喜べないのは、こちらの都合でロアから仕事(やりがい)を奪ってしまったんじゃ……と恐れたからだろう。

 

「お気遣い、ありがとうございます。そのことですが、メイプル様の提案で引き続きメイド長を務めさせていただけることになりました。それに、お爺様からも『それぐらいのことができなければ、ハルキ様の妻は務まらない』と激励していただきました。ですので、嫁イドとして、これからもよろしくお願いします」

「よめ……いど?」

「はい。嫁にしてメイド、略して()()()と、メイプル様が……」


 メイドを(めと)る物語なら聞いたことはあるけど、そのままメイドを続けさせるって話は聞いたことがない。まあ、その手の話に(うと)いってこともあるけど……

 それが許されるのか分からないけど、メイプルの判断なら間違い無いだろう。

 そもそも……


 魔導術を操って空を飛び、水雷の女神と称される元王女様。

 北方の雄アキュート伯爵にして、皆が恐れる災厄の魔女。

 商都メルシアを治めるフロイス子爵にして、精霊術を開花させた実姉。

 グルーモア伯爵令嬢にして、皆が憧れる白銀の聖法騎士。


 改めて考えてみると、型破りな嫁しかいないわけで……

 それに比べたら、カルミ子爵の孫にしてメイド長を務める嫁なんて、まだまともなほうだ。

 

「ロアがいいのなら、俺は大歓迎だよ。これからもよろしく、ロアンナ」

 

 儀式は教会の中──この教会の主神、豊穣の女神ユーカティア様の御姿に見守られながら行われ、それ以降は野外にある教会の庭で行われた。

 さすがに冷えるけど、いくつも設置された焚き火で(だん)を取り、串に刺した食材を直火で(あぶ)り、笛や太鼓が奏でられ、まるで祭りや宴会のようだけど、これがこの地の結婚式だ。

 陽気で笑顔の絶えない幸せな時が流れる中、お披露目された五人の嫁たちが場を大いに盛り上げ、妹たちとともに華を添える。

 

 喜びに満ちたロアの左手で、陽光を反射した指輪がキラリと光る。

 メイドの時には見せなかった、ロアの心から湧き出す(まぶ)しい笑顔は、俺の心のみならず、参列者の心をも(とりこ)にしたようで……

 後に、公爵家を解雇(クビ)になったメイドが英雄と結ばれる物語として広く語られ、ノスフィア・ウラウ教会は幸せを夢見るメイドたちの間で聖地として語り継がれるようになった。


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