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俺の召喚体(いもうと)たちが優秀(やり)すぎる!  作者: かみきほりと
幕間挿話 その三

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259/283

259 ディッケス学院

 キュリスベル王国の南西部に位置する南海地方(セラフット)は、セラフット湾を中心にコの字型をした地形になっている。

 その北西部、セラフット湾とランバー海に挟まれた半島部を中心とした、島々を含む領地がリーフォニア伯爵領となった。

 面積だけなら大貴族に引けを取らないが、その内情は、峻険(しゅんけん)な山々と島々が多くを占める自然豊かで気候が厳しい土地であり、領民の総数は一万人程度で、商都メルシアの人口にも達していない。

 もっとも、商都メルシアには来訪者──旅人や商人などが多く滞在しており、彼らを含めれば人の数が倍ほどにまで膨れ上がるので、比較するのも(はばか)られるが……


 リーフォニア領の主な産業は、農業、狩猟、漁業、採集、林業などで、ほんの少しだが国の援助を受けて鉱業(採掘)が行われている。

 金銀などの希少金属は国の所有物で、それ以外は領主のものだが、援助の見返りとして半分近くを国に納めている。

 領地が広がったことによって領地収入はさらに苦しくなり、現状維持が精一杯という状態に逆戻りした。それも倹約をしてなんとか……といった感じなので、領地を発展させる計画を見直す必要がありそうだ。


 人が少ないせいか危険な野生生物が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)しており、冬場になれば厳しい冷え込みに加えて深い雪で道が閉ざされるので、盗賊すら寄り付かない。

 幸いなことに燃料となる木々や、食料や防寒素材になる野獣が豊富なので、準備さえ怠らなければ問題ないのだが……


 そんな冬が近付き、領主代行のイーゴ・マルセイが冬支度をどうすればいいのかと頭を悩ませ始めた頃、ようやくディアーナたちが戻って来た。




 ディアーナが領主代行に戻ったことで、マルセイは晴れて自由の身になった。

 ……というわけではなかった。


「マルセイはんには、新しい学院のほう、よろしゅう頼んます」


 領主(ハルキ)は、復興を手伝うため、商都メルシアに留まっている。

 その領主からの指示で、領主代行(ディアーナ)から新しい学院の学院長に任命されたマルセイは、大慌てで拒否しようとした。

 前々からそういう計画があると聞いており、教師の打診ぐらいはあるだろうと覚悟していたのだが、まさか学院長に任命されるとは思わなかった。

 権威ある役職だけに、自分には不釣り合いだと尻込みしていたが……


「学院長でしたらお給金が良いですし、自由時間も多く取れます。むしろ教師のほうが束縛されますよ? 問題が起きればこちらで対処しますし、空いた時間で野外活動(フィールドワーク)をしてもらっても構いません。マルセイさんには教師と学院の管理をしてもらえれば、それだけで十分なのですけど……」


 そんな少女(メイプル)の願いにマルセイは何ひとつ反論できなかった。

 領主代行の給金で多少蓄えができたとはいえ、他に職が無い以上、ここで生活を続けるには働くしかない。

 学院長といっても田舎の学校だし、条件も良い。わざわざ自分のために用意してくれた役職(ポスト)なら、断れば義理を欠くことになる。

 だから引き受けた。……断る理由が無いので、引き受けるしかなかった。


 領主城の一部を利用して設立された学院の名称は、いろいろな候補の中から最も無難な『ディッケス学院』というものが選ばれた。

 仰々しく学院などと名乗ってはいるが、今のところ、読み書き計算を教えるためのクラスがひとつだけ。

 採用した教師も二人のみ。


 トゥーレ先生は、営んでいた道具屋を孫に任せ、領主様の役に立つのならと名乗り出た年配の女性で、読み書き計算はもちろん人当たりが良い。

 三角耳ともふもふ尻尾のキキナ先生は、ディアーナたちとともにやってきた移住者で、狐人族(オルフォックス)──キツネの特徴を持つ獣人種の若い女性だ。

 こちらも読み書き計算はもちろん人当たりが良く、特に子供の扱いに長けていて、人気者になっている。


 正直なところマルセイは、生徒が集まるとは思っていなかった。

 商売人ならいざ知らず、このような田舎では読み書き計算が出来なくても生きていけるし、それよりも家業を覚えるようにと子供のうちから仕込まれる。

 興味があっても学ぶ機会はないし、学んだとしても活かす機会がない。

 なのに、今日も三十人近くが集まっていた。


 まだお試し期間ということで希望者は全員受け入れており、学費免除の上に質素ながらも昼食が出るので、子供だけでなく大人も学びに来ている。

 生徒も協力的で、学ぶついでに食事の材料を持ち寄ったり、掃除などの雑用を手伝ったりと、良好な関係が築けている。


「なんか、夢みたいだ……」


 キキナ先生が和気あいあいと授業を進めている風景を見て、ついマルセイ学院長は言葉を漏らす。

 その隣で、トゥーレ先生が力強くうなずく。


「そうさね。こんな田舎に学校を作ろうだなんて、領主様も酔狂さね……って思ったけんど、活気があっていいねぇ」

「本気なんですよね……」

「……ん? なにがだい?」

「領主様は、本気でこの田舎に研究拠点を作って、この地を発展させるつもりなんだなって……」


 今は基礎的な学習しか行えないが、農業、畜産、林業、繊維業、服飾関係の専門分野に関しても準備が進められている。

 ここを研究拠点にするだなんて夢物語だと思っていたが、これなら本当に実現するかもしれない……と、マルセイ学院長は思い始めていた。

 

「学院長さん。うちは期待してるんよ。あの領主様は、うちら平民のこともちゃんと見てくれてるってね」

「まあ、変わったお人なのは痛感しています。もちろん、すごいお人なのも。なにせ、農夫から成り上がって王女様を射止めた英雄様ですからね」

「あはは、あれは度肝を抜かれたねぇ。だけど、本人は田舎で畑を耕して、楽しく平和に暮らしたいって、言ってるんさね。……本気でね」

「そうらしいですね。私もそう聞きました」

 

 ディッケスが豊かになって、平和に暮らせるようになったら、領主を誰かに任せて自分は田舎暮らしを満喫(まんきつ)する。

 それが領主様の本心なのだと、マルセイ学院長のみならず、領主様に近い者ならば誰もが知っている。


「んまあ、農夫になる前は流れ(もん)だったって話だし、没落した貴族さまの末裔(まつえい)じゃないかって噂もあっからねぇ……」

「他にも、王都で英才教育を受けた秘蔵っ子とか、あの災厄の魔女の弟子って話もありますね」

「秘蔵っ子かは知らねぇけんど、フェルミンの弟子ってのは間違いないさね。こんな辺境まで魔女が来たって、大騒ぎになってたからねぇ」


 災厄の魔女(フェルミン)が宮廷召喚術士なのは広く知れ渡っており、その魔女が何の用でこんな田舎に来たのかと皆が恐怖した、という事件があった。

 それが後に、弟子に会いに来ていたのだと判明するのだが、その弟子は獣人たちを従える召喚術士で、この地の新たな領主だという。

 あの魔女の弟子が新領主になったというので民たちは不安に思っていたが、野獣や魔獣から村を守ったり、貧民に手を差し伸べたり、領主自ら出稼ぎをするなど、領地のために尽くす姿を知って評価が覆った。

 今や領主(ハルキ)は、ディッケスを照らす希望の光になっている。

 ついでに優秀な妹たちも、この地で有名になりつつある。


「あの領主様、ちょっと有力貴族に挨拶をしてくるって言って王都に向かったはずなのに、英雄になって、伯爵になって、領地が増えて、四人の嫁を連れて戻って来るっていうのですから、ぶっ飛んでますよね」

「あはは、王女様とガイゼル閣下……北方の伯爵様に、商都の子爵様だったかい? 何をどうすれば、こうなるんだろうねぇ」

「普通なら有頂天になって、貴族病を(こじ)らせてもおかしくありませんが……」


 貴族病──正しくは『似非(えせ)貴族病』と呼ばれ、突然大金を手に入れた貧乏人が、いきなり贅沢(ぜいたく)を覚えたことで欲に溺れて身を持ち崩すことで、成金病ともいわれている。


「あの領主様なら大丈夫じゃないかい? なんでも、欲が無さ過ぎて王様が褒美に困ってたって話だからねぇ。それよか、いっぺんに嫁さんが四人ってほうが心配さね。今ごろ苦労してんじゃないかねぇ……」


 これは予言でも千里眼を使ったわけでもなく、身分の高い女性と結ばれた商家の跡継ぎの話など、一般的な物語や噂話を参考にして導きだされた冗談のような推測だったのだが……

 これが年の功なのだろう。トゥーレ先生の推測は、見事に的を射貫(いぬ)いていた。


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