24 幸運の連鎖
「まだ信じられん。そうしておると、ただの子供にしか見えぬが……」
領主さまが不思議そうに見つめてくる前で、よくやったとシアを褒めてやる。
まだ少し疑われている感じがするのは、何か仕掛けでもあったのではと思われているからだろう。もし俺ならそう考える。
だから、ついでに長大な剣を使った剣舞と、木の伐採をさせてみた。
実のところ、木の伐採なんてさせたことはないし、シアもしたことがないと答えたのだが、それでも出来ると言ったのでお願いしてみた。
心配は杞憂だった。
自分の胴体よりも太い木を、シアは飛び跳ねながら頂上まで登り、枝を打ちながらスルスルと降りてくる。
すっかり丸坊主になった木の根元に剣を走らせ、見事に一撃で切り倒し、料理でもするかのように、薪にするのに丁度いい長さに切り揃えていく。
本職の木こりでも、ここまで早くはできないだろう。
ダメ押しに帰還と再現出する様子を見せれば、さすがに領主さまも俺が召喚術士でシアが召喚体だと納得してくれた。もっとも、俺は見習いだが。
それならばと……実はどうしようかとずっと悩んでいたのだが、あのお荷物を引き取ってもらうことにする。
「失礼ながら、領主さまにお願いしたき儀がございます」
「なんだ、申してみよ」
「はっ。実はつい先ほど、この村にて狼藉を働いておりました者を、このシアが捕らえましたので、どうかお引き取り頂きたく存じます」
「それは、そこで転がっている者たちの事か?」
「はい、左様に御座います。隣村の使者と名乗っておりましたが、店に難癖を付けては店主を困らせ、商品を勝手に奪い、気に入らなければ店の破壊や子供に脅しをかけるなど狼藉三昧。その事で私が咎めましたところ、人質を取って脅しをかけてまいりました」
「なんと、もはや……」
「幸い、人質にされたのがシアであり、なんとか事無きを得ましたが、これが他の者であったならばと思うと恐ろしい事です。是非、厳しきお裁きをお願いしたく存じます」
訴えている間にも、兵士たちが三人組を検分する。
頭に被せられた麻袋が取り払われた瞬間、驚きの声を上がった。
何でも、大男とチンピラは賞金首だったらしい。
ただ、使者と名乗った男は素性が分からなかったが、まとめて引き取ってもらえることになった。
「なるほど。メイリア嬢が目を掛けている理由が分かった気がしますな」
「でしょ。じゃあ、あの件は……」
「約束だからな。メイリア嬢にお任せする」
何だかよく分からないが、なんとか丸く収まった……?
改めてシアにお礼を述べ、頭を撫でてやり、作業に戻るようお願いする。
ペコリと頭を下げて小走りで戻っていく姿を見送ると、俺は再び片ヒザを付き、頭を下げて畏まる。
「おお、そうだ。この者たちを捕らえた褒美は、後日、兵に届けさせる故、受け取るが良い」
「ご配慮痛み入ります。村の為に使わせて頂きたく存じます」
「うむ。では、さらばだ!」
バサッとマントを翻し、馬に乗って兵士と共に去っていく。
その後ろを、黒狼に乗ったフェルミンさんが追っていった。
領主さま一行の姿が見えなくなると、ふぅ……と大きく息を吐いて、地面に座り込む。
疲れた……、途轍もなく疲れた……
懐の重みに気付き、そういえばと褒美の小袋を取り出す。
「うそだろ……」
「ハルキお兄さま、お疲れ様です。……どうかされましたか?」
話が終わったことに気付いて、メイプルがやってきた。
「うわ~、すごいね。ハルキ、大金持ちじゃない」
いつの間にか風精霊が現れて、小袋の中を覗き込んでいた。
中には金貨が入っていた。十や二十どころではない。
「さすが、お兄さまです。これでしばらくお金に困りませんね」
「まあそうだが、できれば村の為に使いたい。何ができるか分からないけど」
「わかりました。何か考えておきますね」
「ああ、頼む。いつも悪いな、メイプル」
「いえ、いいんですよ。こうして頼ってもらえるのが、私は嬉しいのですから」
悪いと言えば、ずっと窯のほうを三人に任せっぱなしだった。
袋の中にどれだけ詰まっているのか気になったが、さすがにこんな場所で広げるのは不用心すぎる。
なので、確認は後にして全てサンディーに預けると、シアと交代して薪を投入していく。
その後、何度か交代を繰り返しながら二時間以上続け、「どうやらここまでのようですね……」というメイプルの言葉で薪の投入を止める。
さらに、言われるがままに石を積み、隙間を泥で埋め、投入口と排煙口を塞ぐ。
「お疲れ様でした。あとは、このまま待つだけです」
「メイプルもお疲れ。ちなみに、どれぐらい待てばいいんだ?」
「ん~、どうでしょ。七日ほどでしょうか……。焦らず、のんびり待つのがいいらしいですよ?」
本当に上手くできたかどうかは、開けるまで分からない。
ひと息ついてから、片付けを始める。
これまでも合間にサンディーが掃除をしてくれていたので、かなり楽だったが、問題は粉々に砕け散った大岩の残骸だ。
「お兄さま。これ、集めて小屋に運んでもらえませんか?」
「いいけど、どうした?」
「ちょっと、面白いものが見つかるかも知れませんよ?」
「それって、これのことか? なんか、宝石みたいだけど……」
チラッとメイプルを見ると、口元に手を当て、目を見開いて驚いていた。
「そうです……けど、すごく大きいですね……。ビックリしました」
「そういうことか。だったら、焼き物が出来上がるまで、宝石探しだな」
「はいっ!」
「そういうのだったら私、得意だから手伝ってあげるわよ?」
いきなり、風精霊が割り込んできた。
そういえば、忙しすぎて完全に存在を忘れていた。
「それは助かるけど、こんな所で、そんな事をしていていいのか?」
「いいの、いいの。それより、その大きな宝石、どうするつもり?」
その結晶は、人差し指と親指で輪を作ったぐらい大きかった。……いや、さすがにそれは言い過ぎか……。でも、メイプルの手でなら、それぐらいの大きさになると思う。
色は薄い紫色っぽいが、桃色にも見える。
「小さなものならともかく、こんな大きなもの、持っていても困るだけだからな。売ってお金に変えたほうがいいと思うけど……」
「でもそれ、たぶん国宝クラスだと思うわよ? 私もそれほど詳しいわけじゃないけど、珍しい色だし、その大きさでしょ?」
「国宝か……。だったら、フェルミンさんに預けたほうが良さそうだな」
「マスターの手柄になっちゃうけど、ハルキはそれでいいの? 王宮に届けたら、王都で豪邸に住めるわよ?」
「まあ、それも憧れるけど……。大きな家だと、建物を維持するだけでも大変そうだし、使わない部屋がたくさんあっても仕方がないかな。それに、どこへ行くにしても、まずはこの村に恩返しをしてからじゃないと」
「まあ、マスターが帰ってくるまで、まだ数日はかかると思うから、ゆっくりと考えるといいわ」
「そんな必要はないよ。どうせなら、今すぐフェルミンさんに渡せたらいいんだけど。追いかけたら間に合うかな?」
「だったら、私が届けてあげるわ。……でも、それでハルキは後悔しない?」
「そんな言われ方をしたら、ちょっと怖いけど、別にいいよ。フェルミンさんにはいろいろとお世話になってるから、そのお礼ってことで。まあ、厄介事を押し付けるだけだけど」
「わかったわ。ちょっと行ってくるわね」
風精霊が近付くと、結晶の大きさがさらに際立つ。
それを少し苦労しながら抱えると、空気に溶け込むようにして消えた。
なぜか風精霊は、再び戻ってきて手伝ってくれた。
召喚術士の元へは一瞬で行けるが、こちらへ来るには時間がかかるようで、わざわざ長い距離を飛んできてくれたらしい。
みんなで協力して岩の残骸を数日がかりで調べた。
さすがにあれほど大きなものはなかったが、それでも、いくつもの結晶が見つかった。
メイプルも、風精霊も、どれほどの価値になるか分からないようだが……
「この程度なら、店に持ち込んでも不審も思われないと思うけど……。酷い相手だと、盗掘の疑いをかけて没収しようとするから、気を付けたほうがいいわよ」
そんな、恐ろしい忠告をしてくれた。
これまで俺は、とても幸福とは言えない人生だった。
そんな人生が大きく変わったのだとしたら、メイプルを召喚してからだろう。
どんな偶然か、神様の慈悲なのか、なぜか召喚できてしまい、さらにサンディーやシアも加わって、こんな幸運にも恵まれた。
だが……
どうにも恵まれた環境に慣れていない俺は、何か良くないことが起こる前兆ではないかと疑い、そんな事で悩んでいる自分に気付いて苦笑した。




