22 炎の熱気に中てられて
すでに四日経つが、身体は全然……とはいかないが、それほど辛くはない。
四人で役割を分担したり、交代をしながらなので、途中で畑の様子を見に行く余裕すらあった。もちろん、休息も十分に取れている。
一定のリズムで、薪を投入し、その合間に窯の周りに新たな薪を並べていく。
「プル姉、木、運んだ。これでいい?」
「はい、ありがとうございます。では、シアちゃんはお兄さまのお手伝いをお願いします」
「うん、わかった」
サンディーは休憩している。
指示出しや窯の状態確認はメイプルの役目だが、彼女が休憩している間は、代わりにサンディーが行ってくれた。
教えれば何でもこなせる彼女の存在は、本当にありがたかった。
武装したシアは、俺を遥かに凌ぐ身体能力で心強いが、俺と同じで窯の状態を見極める……なんてことはできないようだ。
その俺は、シアの木剣を腰に差して恩恵に授かっている。
最初こそ、力加減が難しかったが、今となっては慣れたもので、逆にこの力を失った時の反動が怖いぐらいだ。
「では、最後の仕上げを行いますね。お兄さま、あまり一度にたくさん入れ過ぎないように気を付けながら、少しずつペースを早くしていってください」
「ん~、こんな感じ?」
「そうですね。火がどんどん強くなるのを確認しながら、続けて下さいね」
ただただ炎を見つめ、薪を窯にくべることだけに集中する。
どれだけ時間が経っただろうか。ずいぶんと経つ気もするし、まだ始まったばかりのような気もする。
「お兄さま、そろそろシアちゃんと交代してください」
メイプルの声に、わかった……と返事をしたつもりなのだが、声が出ない。
それに、身体も止まらない。
「ハル兄、無理はダメ。休憩して」
シアに無理やり後ろへ追いやられ、やっと動きを止める。
俺は一体……、何をしていたのだろうか……
「お疲れ様です、お兄さま。まずはお水で口の中をゆすいで下さい。ゆっくり……、はい、もう一度……」
メイプルに言われるまま、口の中を湿らせつつ吐き出すと、少しだけ喉へと水を流し込む。
「一気に飲んではダメですよ。少しずつ慣らしながら……」
少し咳込んだが、何とかひと心地ついた。
どうやら脱水症状で意識が朦朧としていたらしい。
ぬるま湯というか、人肌に近い温度の水に何かが入っているようで、甘いのかしょっぱいのかいまいちよく分からないが、とにかくとても飲みやすかった。
「ふぅ~、助かった。メイプル、ありがとう」
「……いえ、すみません、無理をさせてしまって。もう少し早く止めるべきでした」
「その前に、俺が自分で気付いて、助けを求めればよかったんだけどね」
今になって、一気に汗が噴き出てくる。
「お兄さまは、しばらく休んでいて下さい。薪運びは、私がやっておきますので」
いやまあ……、うん、分かってた。
周りに置かれている薪の束を、シアの近くへ移動させるだけなのだが、明らかにメイプルには辛そうだった。
その一生懸命な姿を見て、少し元気が出た。
最後にもう一度、不思議な水を一杯飲むと、俺は気合を入れて立ち上がった。
途中でシアとサンディーが交代し、俺が薪を投入して火力を上げていく。
メイプルが、飲み物を用意してくると小屋へ向かったのだが、なかなか戻ってこない。
……と思ったら、そこへ、厄介な客がやってきた。
「そこのお前、ちょっといいか?」
嫌な予感しかしない。
声を掛けられ、チラッと振り返り、相手を見てため息を吐く。
たぶん、炎には気分を高揚させる効果があるのだろう。この時の俺は、かなり特殊な精神状態だったのだと思う。
普段なら何事も穏便に済まそうと考えるのだが、一度喧嘩を売った相手だし、この大事な作業……それも、この忙しい時に邪魔をされて、気持ちが攻撃的になっていた。それにたぶん相手は……
「見たら分かるだろ。今は忙しい、後にしてくれ」
「そうはいかない。私も忙しい身なのでね」
「だったら勝手に用件を話せばいい」
「そんな態度を取ってもいいのかね?」
「どういう意味だ? また村同士で戦争が始まる、とでも言うつもりか?」
「それもあるが……。その前に、この子たちがどうなってもいいのかね?」
相手は隣村の使者を名乗る、例の三人組だった。
しかも、案の定、シアとメイプルが捕まっていた。
メイプルはともかく、なぜシアが大人しく捕まっているのかと思ったら、武装を解除していたらしい。
だが、そんなものはすぐに装着できるはずだ。
恐らく、相手に何か言われて、俺の指示を待っているのだろう。
サンディーにしばらく作業を任せると伝え、腰の木剣を確認して、自称ヒュメラ村からの使者たちの方へと歩き出す。
「貴様らが悪党だってことはよく分かった。それで俺に何の用だ?」
「大人しく投降して私に従えば、この村だけは見逃してあげますよ」
大きくため息を吐く。
つくづく、悪人の見本のような奴らだ。
ただでさえ面倒なのに、この上だらだらと長話が始まったらもっと面倒なので、早く終わらせることにする。
これほど俺に余裕があるのは、人質となった二人は絶対に死なないと分かっているからであり、こんな時のために対処法も考えてあったからだ。
試しに俺は、心の中のメイプルに向かって、精神世界へと帰還するよう願った。
ダメなら声で指示を出そうと思ったが、メイプルはコクリとうなずくと、霞のように姿を消した。
間髪入れずに命令する。
「シア! 遠慮は無用だ。殺さない程度にいたぶってやれ!」
「うん、分かった」
次の瞬間、シアを押さえていた大男が地面に崩れ落ちた。
その物音がした時には、空色の光が流れ、剣の柄でチンピラの鳩尾を抉っていた。
何が起こったのか理解できなかったのだろう。狼狽えている使者の首筋に、シアの長剣が当てられる。
まさか、この少女が?! ……そんな驚きの表情を浮かべると、わなわなと男はその場にへたり込んだ。
分かっていたことだが、俺の出番は一切なかった。
まさに電光石火。あっという間の出来事だった。




