20 サンディーの相談事
無法者三人衆を村の自警員に引き渡し、詳しく事情を説明していると、すっかり時間が遅くなってしまった。
それにしても、あのチカラは……いや、疑問に思うまでもない。
農作業で鍛えられたと思いたいが、もちろん、そんなわけがない。
理屈は分からないが、どう考えても、シアの武器による効果だろう。
ずり落ちそうになる荷物を抱え直し、隣を歩くシアを見つめる。
すでに武器は消え、服も元に戻っている。
「シア、武器を貸してくれて助かったよ。ありがとう」
「契約の時、ハル兄、自分も強くなりたいって言ってた。だから、チカラ貸した」
「そんなこと……言ってたな。だから、その願いを叶えてくれたのか」
「ハル兄が強くなれるよう、シアもがんばる」
「お……おう。何をする気か分からないけど、お手柔らかに頼む」
シアの武器を借りれば、俺もパワーアップできることが分かった。
……のは良かったが、隣村の使者を叩きのめしておいて、このままで済むとは思えない。
わざと諍いを起こさせるつもりじゃなければ、あんな者たちを寄越したりはしないだろう。間違いなく、ヒュメラ村は抗議をしてくるだろうし、それを利用して何かを企んでいるに違いない。
その結果が出るのは数日後になるだろうが、それまでに身の振りかたを考えておく必要がありそうだ。
「畑……、今年は上手くいきそうだったんだけどな……」
「ハル兄、困ってる? シア、ハル兄を困らせる原因、倒すよ?」
ついつい漏れた独り言に、シアが反応する。
「そうだな。その時がきたら、お願いするよ」
「任せて」
気合を入れているのだろう。ふんすと鼻息を吹いている。
それを頼もしく思いながら、どうにかこの村に残れる形で、上手く解決できたらいいのにな……と思った。
仕立て屋に戻ってきた時には、お昼を随分と過ぎてしまっていた。
この時間になるとお客も多くなるようで、すぐに奥へと通された。
驚いたことに、服はほぼ仕上がっていて、試着を待っている状態らしい。
普段着、作業着、寝間着、それに加え山を駆けまわっても平気な野外着と、それぞれの着替えを含めて全部で八着。
遅くなったとはいえ、まだ昼過ぎ。それに、これだけ繁盛しているのだから店の仕事もあるだろう。それを考えれば、最初の頃とは比べものにならない早さだ。
ちなみに、支払いは終わっている……というか、必要がないらしい。
どういう取引があったのか分からないし、もう今さら驚かないが、本当にありがたいことだ。
「シアも、お兄ちゃんも、いっぱい歩いてお腹が空いたでしょ? 仕上げの前に、みんなでお昼にしよっか」
そう言うと、サンディーは、テーブルの上にバスケットを置いた。
「ほう、サンドイッチか。美味しそうだ」
「これがポテトサラダで、こっちがオニオンソテー。あと、こっちは……」
わざわざサンディーが作ってきてくれたのだろう。
マーリーさんも加わって、五人でありがたくいただく。
実のところ、買い物をしている時にいろいろとおやつを頂いたので、それほどお腹が空いているわけではなかったが、見れば食べたくなるから不思議だ。
それに、いつも思うが、あのクズ野菜が生まれ変わって、こんなに美味しくなるのだから感慨深い。
野菜煮汁も用意されていた。さすがに冷めていたが、それでも美味しかった。……と思ったら、冷めても美味しいように調整してあるらしい。
ひと通り食べ終わり、ひと心地つくと、シアはマーリーさんに連れられて、服の仕上げに向かった。
その後を追いかけるように、テーブルの上を片付けて立ち上がったサンディーを呼び止める。
「サンディー、ちょっと待って。二人に相談したいことがあるんだけど……」
そう切り出し、ヒュメラ村の使者と何があったのか、村の昔話を交えて伝える。
それを聞き、俺が活躍する姿を見たかったと残念がるサンディーとは対照的に、メイプルは難しい顔をして考え込んだ。
そりゃそうだろう。俺だってどうすればいいか分からずに頭を抱えているのだ。簡単に解決できれば苦労はない。
「あの、お兄さま……。その、お兄さまはどうしたいですか?」
「どう……? そうだな。俺はこの村を気に入っているし、玉黍も順調に育ってる。できればこの村で暮らしていきたいし、欲を言えばこの村に恩返しがしたい。隣村が二度とこの村にちょっかいを出せないようになれば、いいんだけど」
「なるほど……分かりました。その方向で考えてみますね。……えっと、それとは話が変わりますけど、明日一日、私に頂けませんか?」
「えっ? 別にいいけど……どうした?」
「準備が出来ましたから、陶器を焼いて頂こうかと思いまして……」
「あー、アレをするのか?」
「はい、アレをお願いします」
地獄の薪入れが始まるらしい。変な悩み事が増えたが、今夜はしっかりと休んでおいたほうが良さそうだ。
表情に出てしまったのだろう。メイプルが我慢しきれず笑い声を漏らす。
「うふふ……。心配しなくても大丈夫ですよ、ハルキお兄さま。今回はサンディーお姉さまとシアちゃんもいますからね」
「今度は倒れない程度に、がんばるよ」
こんな時に、そんな事をしていてもいいのかと思うが、せっかくここまで作ったのだから、ちゃんと形にしてお世話になった人たちに渡したい。
それを思えば、今のタイミングしかないのかも知れない。
困った時にばかりメイプルに頼って、申し訳ない気持ちになる。
彼女の負担を減らす為にも、もうひとり……いや、人間じゃなくてもいいから、彼女の手足となって働ける召喚体が欲しい。
「お待たせ。ハルキ、期待していいからね。みんなで作った自信作だから♪」
生き生きとしているマーリーさんを見ていると、こっちも嬉しくなる。
メイプルの服を買いに来た時、一種類しかないからと嘆いていた頃を思うと、まるで別人だ。
「ほう、これは……」
思わず感嘆の声が漏れる。
なるほど、マーリーさんの自信もうなずける。
部屋に招き入れられたシアは、今までとは全く違う服を着ていた。
「シアちゃんは活発らしいから、どれだけ激しく動いても平気な服じゃないとね。トップスは丈夫な素材でゆったりとしつつも要所を絞り、ボトムスはハーフスパッツにショートのフレアスカートを合わせ、アクティブながらもキュートさを演出。シアちゃんの髪色に合わせた水色で、みんなとお揃いのリボンとシアちゃんを表す『剣と妖精』の刺繍をさりげなく配置してみました。……どう?」
「何を言ってるか分からないけど、とにかくすごい……っていうのは分かったよ」
たぶん、メイプルの知識なのだろうが、それを吸収し、自分のものにしているマーリーさんも恐るべき貪欲さ……柔軟さ? ……とにかくすごい。
マーリーさんの勢いに圧倒されてしまったが、もちろんシアの姿に文句はない。妖精の雰囲気はかなり薄まったが、その分、現実感のある可愛さになっていた。
王都に行けば奇抜な服があったりするが、そういう奇をてらったものではなく、しっかりと実用的でそれでいて遊び心がある感じだ。
「シア、すごくいい。似合ってるぞ」
「ハル兄、ありがと。シアも気に入った」
「よかったな」
二つ結びにされた空色の髪を、優しく撫でてやる。
満足そうに目を細めるシアを見ていると、サンディーがおずおずと話しかけてきた。
「それでね、お兄ちゃん。私の相談事なんだけど……」
あっ……そういえば、朝にそんな事を言ってた気がする。すっかり忘れてた。
内心の焦りを顔に出さないようにして、続きを促す。
「そうだったな。サンディー、どうした?」
「この村、時々行商人が来るでしょ? その人に頼んで、こんな感じの服を村の外でも売ってもらおうかって思ってるんだけど……いいかな?」
「えっ? いいんじゃないか? 朝言ってた相談って、それのこと?」
「うん。とっても重要な事だから、お兄ちゃんの意見を聞きたいなって」
もっとこう……何か深刻な話なのかと思っていただけに、拍子抜けする。
「なんで俺? 許可とか手続きならマーリーさんのほうが分かると思うけど……」
「あー、そうじゃなくてね、この服、他の場所でも売れるかな……あっ、販売許可の話じゃなくて、買ってくれる人がいるのかなって意味で……」
なるほど、そこまで言われて納得した。
村の外のことが分からないので、学院や王都のことを知る俺に、この服が他所の土地でも受け入れられるのかを教えて欲しいのだろう。
とはいえ、流行り廃りがあるので、俺がいいと思っても売れるかどうかまでは分からない……と伝える。
「最初は物珍しさで多少高くても買ってもらえるとは思うけど、値段次第かな。でも、そういうことは、マーリーさんのほうが詳しいだろうし……」
「まあ……ね。でも大事なことよね」
「服のデザインって意味だと、自然が豊富な場所なら人気が出そうかな。王都だと、激しい運動をする時はそれ専用の服があったりするから、普段着はもっと飾り付けたもののほうが喜ばれるかもね。それと……」
俺は服の専門家じゃないし、それほど注目していたわけでもない。だが……
真剣に耳を傾けるサンディーとマーリーさんに、知る限りの知識を伝えた。




