128 八方塞がり
大角鹿の討伐報酬は、解体を手伝ってくれた人たちで分けてもらうようお願いした。
高級素材に高級食材が大量に手に入り、多少は町が潤うだろう。
もちろん、領主の館にも素材や肉を少し分けてもらえるように、お願いしておいた。
『お兄さま。あの獣使いの仲間たちを捕まえました』
『そっか。メイプル、お疲れ様。これで少しは安心できるかな』
そう思ったけど、メイプルには気になる事があるらしい。
それを調べてもらうことになり、報告が終わった。
あれから数日経ったけど、細々と届く書類を処理しつつ、大量の資料を読み進める日々が続く。
メイプルからは、特にあれから続報はない。
だけど、調査は続けているようだ。
「まただ……」
書類を手に取り、小さく首を傾げる。
グレンさんが運んできた書類を見て、明らかな違和感に気付く。
「メイプル、これなんだけど……」
どう見ても費用が水増しされている。
最初は小さな額だったのに、だんだん増えているようだ。
これではまるで……
「そうですね。水増しに着服……、これだと、お兄さまが悪い事をしているようにしか思えないですね……」
「やっぱり、メイプルもそう思う?」
「お兄さまは領主なのですから、不正にはなりません。ですけど、これでは印象が悪いですよね……」
「グレンさんからの試験かな……。ほら、こんな事も見抜けないのかっていう」
「どうなんでしょう。それも含めて調べてもらいますね」
また、クロエやディアーナに苦労をかけてしまうけど、他に手がない。
「やっぱり冬が明けたら、真っ先に人を集めないとダメみたいだな。この時期でこんな調子だったら、雪が溶けたら全然手が足りなくなりそうだ」
「その準備も必要ですね。何か考えておきますね」
「ありがとう、メイプル。代わりに俺にできることがあったら、何でも言ってくれ。他のみんなにも、何か恩返しをしないとな」
「そんなこと、別に気にしなくてもいいのですよ。ですけど、せっかくですから、何か考えておきますね」
「ああ、何でも言ってくれ」
「はい♪」
なんだろう……
満面の笑顔が気になるけど、多少の……どころ、かなりの無茶でも叶えてあげないと恩返しにならないだろうし、覚悟をする必要がありそうだ。
貴族や領主って、もっと好き勝手して、贅沢三昧だと思っていたけど、現実は全然違った。
文字と数字を追いかける毎日だし、貧乏……には慣れているけど、好きな事をする時間が全くない。
メイプルが言うには、まずは領内を豊かにして税収を増やし、それで人を雇って仕事を任せていく……というのが、本来のやり方らしい。
その為には、まずは冬が終わらないと……
いや、冬には冬の手仕事がある。
ウラウ村でも、冬の間は藁を編んで小物などを作っていた。
まあ、俺の場合は売り物ではなく、自分で使う物だったけど。
それなら、冬の間に他の町や村……できれば、王都でも売れるような商品が作れるようになったら……と、メイプルに相談する。
いや、もちろん、メイプルに負担がかかるのは分かっているけど、その本人から……
「領主さまは、他の領主さまや貴族たち、王族のみなさまとの関係を築くのも大切ですけど、領地を豊かにするために、いろいろなアイデアを出すことも重要なお仕事ですよ。実現できるかは私が判断させて頂きますし、実際に動いて実現させるのは、配下のみなさんです」
だから普通、領主が害獣退治なんてしませんよ……なんてことを言われたけど、他にする者がいないのだから仕方がない。
それに、今のところ、俺の配下……というか、助けてくれるのは妹たちだけだ。
なんだか八方塞がりのように感じ、メイプルに許可をもらって、念話でフェルミンさんに相談してみた。
話を聞いたフェルミンさんは……
『思ったよりもぉ、頑張ったわよねぇ~。そりゃそうよねぇ。信頼できて有能な人材って、そう簡単には現れないわよね~』
『自分で育てたらいいって言われましたけど、そもそもどうやって集めて、どうやって選べばいいのも分かりませんし』
『領主の館で働くってなったらぁ、やっぱり、貴族のご子息ってことに、なるわよねぇ~。でもぉ、たぶん、ほとんど使い物にはならないわよぉ?』
『あー、ですよね。わざわざ雪の中、訪ねてきた貴族の息子っていうのがいましたけど……、ちょっと調べたら、怠け者でワガママ、それで家を追い出されて流れてきたっていうのがありましたよ』
『まあ~、そんなのしか売れ残ってないわよねぇ。そうね~。使われる側も、相手を選んでるからぁ、この人の下で働きたいってぇ、相手に思われる領主にならないとねぇ』
つまり、とにかく俺の評判を上げていくしかないわけだ。
それか、領民の中から見つけてくるか……
『よかったらだけど~、知り合いに声を掛けてあげてもいいわよぉ』
『それは助かります。よろしくお願いします』
『まぁ~でもぉ、あんまり期待しないでねぇ』
『ん~、そうですね。もし候補が見つかったら、ミアに会わせておいて下さい。たぶん、人を見る目は、俺よりも確かなので』
その後、メイプルも交えて詳しい話し合いをして、念話を終えた。
必要なのは、兵士と屋敷管理、あとできれば料理のできる人にもお願いしたい。
でも、資金にそれほど余裕はない。
「これじゃ、ここの領主を誰もやりたがらないわけだ……」
そう呟いて、俺はため息を吐いた……




