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俺の召喚体(いもうと)たちが優秀(やり)すぎる!  作者: かみきほりと
田舎の宮廷召喚術士、領主となって奮闘する

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126 代行と良い関係を結びたい

 ディッケスには三つの町がある。

 ミレンス、スート、キューレ……

 その町を中心に、ディッケスは三つの区域に分けられている。


 町と呼ばれてはいるが、それに相応しいのはミレンスぐらいだろう。

 キューレの町も、スートの町と同様、宿や馬留があるだけの、寂れた村といった雰囲気らしい。


 町は区域内の村々などから税を集めて、領主である俺に収める。俺は、そこから決まった額を、王都へ届ける事になる。

 村から町へは農作物や工芸品などの物品でも構わないが、領主へは金銭で納められる。王都へも金銭で納めることになる。一部、例外があるけど……

 帳簿を見れば、その額は長らく低迷していて、王都へと納める最低金額ギリギリを彷徨っていた。

 前領主が失脚し、不正な蓄財を没収したことで多少は改善したものの、王宮へと本来納めるべき税金に加え罰則金も支払ったので、ほとんど残っていない。


 それはいいとして、不思議なのは交易の状況だ。

 相手は南海地方(セラフット)内のみで、かなり不利なものばかり。

 こんな条件ならば、他の場所とも交渉をすれば、必ずいい条件が出てくるはず。

 すぐ北には西海地方(ランバー)もあるのに、そちらのほうとは交易どころか、交流すら全く無いようだった。

 もちろん、俺にそんなことが分かるわけもなく、全てメイプルの指摘だ。

 そのメイプルの推測では、帝国が南海地方(セラフット)全域を手に入れるため、他の地方との交流を断たせていたのでは……ということだ。


 ともかく……

 領主が不在の間、ディッケスの平穏が保たれていたのは、全て、王都から派遣された領主代行、グレン・ネガーさんの手腕によるものだろう。

 代行の役割は、現状を維持して新たな領主に引き継ぐことらしいが、目に余る部分には多少手を加えてくれていたようだ。

 俺たちが目を通しているのも、そのグレンさんが引き継ぎ用の資料だと言って渡してきたものだったりする。

 文章を見れば、書いた相手の人柄が分かるようで、メイプルは詳しい上に分かり易いと感心していた。


 有能な人ならばずっと残ってて欲しいところだけど、冬が終われば王都へと戻り、待たせている恋人と結婚するらしい。

 それを聞いてしまうと、無理に引き止めることなんてできない。

 代行の話が来た時は、新任者が決まって引き継ぎが終わるまで……という条件だったので、下手をすれば数年は戻れないと覚悟をしていたらしいけど、思いのほか早く決まり、すごく喜んでいた。

 引き継ぎも簡単に済むようにと資料をまとめ、それを渡したらさっさと王都へ引き上げるつもりだったらしいけど、雪に閉ざされて戻るに戻れない。

 それならばと、冬が終わるまで、俺たちの先生をしてくれることになった。




 扉がノックされた。


「前日の分をお持ちしました」

「はい、どうぞ」

「失礼します」

 

 わざわざ名乗らなくても、すぐ分かる。

 俺たち兄妹以外で、この館に住んでいるのは、グレンさん──痩身で眼鏡姿の、学者のような風貌をした、なんだか常に眠そうな男性だけだ。


 かつてこの館には、十人以上の使用人がいたらしいが、前領主の息がかかった者ばかりなので、全員が解雇された。

 これは非情でもなんでもなく、いわば慣例で、新たな領主は、新たな人材を独自に集める必要がある。

 もちろん、有能な人材ならば再雇用してもいいらしいけど、なんせ俺はその前領主を失脚させた張本人だ。どんな恨みを買っているか分かったもんじゃない。

 いくら有能でも、そんな火種を抱え込むぐらいなら、新たな人材を雇って育てたほうがいい……というのが、グレンさんの考えであり、忠告だった。


 グレンさんは、持ってきた書類を未決裁の場所に置く。

 ……よかった。今回は、かなり少ない。

 考えが顔に出てしまったのか、グレンさんが答える。


「まあ、この天候ですからね。たぶん届いたのは、この町の一部だけですよ」

「そうですね」


 とはいえ、たとえ吹雪いていなくても、冬じゃなくても、一日に持ち込まれる書類はひと抱えもあれば多いほうらしい。

 本来ならば、ひっきりなしに書類が持ち込まれ、それを数人から数十人がかりで分類や決裁を行い、その統計や難しい案件などが領主の元へと届けられる。

 それを思えば、このディッケスがどれだけ寂れているのか、よく分かる。

 ……とは、グレンさんの言葉だ。


 俺が新しい書類に目を通している間、メイプルはグレンさんに質問をしていた。

 何だか資料を取り出し、真剣な様子で話しかけているが……漏れ聞こえる単語だけでは、俺には何のことやら……

 いやこれは、たぶん、鉱山のことだ。

 このディッケスに、鉄鉱石が採れる場所があると前に聞いた。

 手つかずのまま放置されているのだが、その権利関係を確認しているようだ。


 金や銀は国有財産なので全て国のものとなるが、鉄は領主の財産となる。

 ただし、その採掘と精製には、多額の税金がかかる。けれど、その税金は鉄で納めても構わないとなっているらしい。

 つまり、鉄が欲しければ自力で採掘し、その何割かを国に納めなさい……ということだ。

 そのためには、石から鉄を取り出す必要がある。だけど、この地に、そんな技術はない。門外不出の秘伝とされ、絶対に教えてもらえないらしいので、全て手探りで進めることになるだろう。

 なかなかに厳しい条件だけど、もし領内に鉄が行き渡れば、いろいろと便利になるだろうし、いつぞやのようにクワで害獣の相手をすることもなくなるはずだ。


 メイプルたちの話を聞きながら、新たな書類に目を通す。

 そのほとんどが現状報告で、急ぎの用件は……

 サンディーが部屋に近付いてくるのを感じた。

 念のため、グレンさんがいると念話で伝える。

 

『あっ大丈夫だよ。ちゃんと余分に持ってきたから』


 優雅に紅茶で休憩を……ということらしい。

 昼食もそうだけど、さすが領主とでも言えばいいのか、村での生活とは比べものにならないほど贅沢だった。

 だけど、これでも、何かの苦行なのかと疑われるほど粗末なものらしい。

 まあ、たとえ野菜くずでも、サンディーの手にかかれば美食に変わるし、ちゃんとした食材なら、たとえ庶民的なメニューでも豪華になる。

 しかも王都で、ちゃっかりと様々な料理の作り方を覚えてきたようだ。


「お仕事中に失礼しますね。領主さま、あまり根を詰め過ぎると、お身体に障りますよ。グレンさんも一杯、いかがですか?」


 サンディーから領主さまって呼ばれるのは、なんだか耐えがたい違和感がある。

 だけど、前に「まさか、お客様の前で、お兄ちゃん……なんて呼んだらダメだよね?」と言われ、それ以来、慣れようと努力している。

 いやまあ、俺のことはどうでもいい。


 普段からグレンさんは、私たちはあまり慣れ合ってはいけないと言って、使用人のキッチンで、自分で料理をして食事をしている。

 そういう人だけに、少し迷っているようだ。


「庶民的なおつまみなので、お口に合うかどうか分かりませんけど、よろしければ食べて下さい」


 そのおつまみは、芋をフライにして軽く塩を振っただけのものだ。

 食材や茶葉は、前任者が残した者をグレンさんが管理していたもので、腹いせに毒が仕込んであったり……なんてこともなく、品質も確認済みらしい。

 すこし行儀が悪いが、芋をつまみながら書類を読んでいく。


 休憩中にも関わらず、メイプルの質問が止まらない。

 いや、たぶん、そうやってグレンさんを引きとめているのだろう。

 できればいい関係を築きたいという、俺の希望を汲み取って……


「それでは、遠慮なく頂きますね」


 フォークで突かれた芋が、グレンさんの口へと運ばれる。

 ……どうやら、お気に召したようだ。

 少し驚いた表情をしながら、二つ、三つと食べ進めていく。


「すごく美味しい。それに、懐かしい味がします」


 メイプルが微笑んでいる。

 何かを仕掛けたのか……と思ったら、本当に仕掛けていた。

 事前に好みを調べ上げて、この状況を作ったらしい。

 これはグレンさんの好物らしく、絶対に無視できないはずだからと用意させ、それが美味しければ少なからず心を開いてくれるだろう……という計算だった。

 なんという、恐ろしくも頼もしい妹さまたちだ。


「私が作れるのは、庶民の家庭料理ですけど、それでよければ食事も用意しますよ。一人ぐらい増えても手間は変わりませんから」


 サンディーが、流れるように食事に誘う。

 グレンさんは、なんとか料理はできるものの、それほど上手じゃないらしい。

 それに、遠慮をしているのか、傷みかけの破棄寸前のものばかりを使っていて、健康を考えると少々心配なのだそうだ。

 だから、ちゃんとした食事を……ということらしい。

 

「そうですね。お手数でなければ……」

 

 仕事とはいえ、恋人のいる王都から遠く離れ、一人暮らしをしながら領主代行をしていたのだ。寂しくないわけがない。

 まあ、嫌な相手なら放っておくけど、グレンさんはとてもいい人のようだし、だったらディッケスに来て良かったと少しでも思ってもらいたい。

 色々と相談に乗ってもらいたいということもあるが、そんな打算を抜きにしても、いい関係を結んでおきたいと思う。




 報告書の中に、気になるものを見つけた。


「グレンさん、これ、なんですけど……」


 冒険者組合(ギルド)からの報告で、町に近い北の山で、キャリーブの群れを見かけたらしい。


「キャリーブって、何ですか?」

「身体が大きくて、角も大きくて立派な鹿の仲間です。気性が荒くて危険な動物なんですけど……」

「大きくて狂暴な鹿……ですか」

「はい。寒さに強い動物なんですが、北海地方(ウォルナーダ)にしかいないはずなんですけど……。だから、目撃者の勘違いという事も十分に考えられます。でも、本当ならば非常に危険ですね」


 大角鹿(キャリーブ)は雪の中を自由に動き回れるのに対し、こちらは満足に動けない。一方的にこちらが狩られることも十分にあり得る……のだそうだ。


「冒険者組合(ギルド)から、そんな報告が上がって来たということは、討伐や確認の依頼があったのに誰も引き受けなかったのでしょう。だから、注意喚起を装って、領主に救援を求めているのだと思われます」


 つまり、厄介事を押し付けられた……いやいや、困った末に助けを求めてきたのだろう。だったら……

 視線を送ると、メイプルは小さくうなずいた。


「分かりました。こちらで対処することにします」

「えっ? 相手は、雪の魔獣ですよ? どうやって?」


 もちろん、本物の魔獣ではない。それぐらい恐ろしい相手という意味だ。


「それを今から考えるんですよ。まあ、退治できればいいんでしょうけど、せめて町に近付かせないようにはしたいですね」


 半信半疑どころか、思いっきり不安な様子ながらも……


大角鹿(キャリーブ)のお肉って、美味しいのかな……」

「えっ? あっ、はい。とても美味しいですよ。それに栄養も豊富な高級品です」


 サンディーの何気ない呟きに、グレンさんは大真面目に答えてくれた。


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