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俺の召喚体(いもうと)たちが優秀(やり)すぎる!  作者: かみきほりと
幕間挿話 その二

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124 馬車の中から報告を

 俺は……俺たちは、崩れ落ちた家の前で、呆然と立ち尽くしていた。


「……どうしよう」


 絶望感を深く感じるのは、薄っすらと積もった雪化粧のせいだろうか。

 かなり傷んでいたとはいえ、ここまで酷い状態になるとは思わなかった。

 屋根が完全に落ちており、これはもう修復するのは無理だろう。


 本格的な冬を前に、俺たちの住む家が無くなってしまった。

 まあ、妹たちに辛い思いをさせなくてもいいのは、不幸中の幸いだけど。

 王都へ跳躍(ジャンプ)してミアの屋敷で過ごせばいいし、いざという時は、精神世界(アストラル)に避難してしまえば、飢えや寒さから逃れられる。

 問題は、俺だな……


「お兄さま。今日は村の皆さんに戻ってきた挨拶をして、ミレンスの町へと向かいましょう。そこには領主の館がありますから」

「そ、そうだな。今の領主は俺だったな」


 だから、領主の館を使う権利がある……はずだ。

 少し複雑な気分だけど、前の領主が悪人だったとしても、館に罪はないはずだ。




 村の人たちに忘れられていないかと少し心配だったけど、みんなは戻ってきたことをすごく喜んでくれた。

 まあ、妹たちのほうが歓迎されていたりするけど、それはそれで嬉しい。

 妹たちが村に馴染んでいるという証拠なのだから。


 それに、避けては通れない報告もある。

 俺が、ディッケスの領主になった……という話だ。

 

 まあ、言葉だけじゃ半信半疑になるのも仕方がない。

 だから、個人認証カードを見せたりもしたけど……


「そりゃ、なんね? 文字のようだけんど、分からんのう。それよか、ハルキさんや、また(いも)っ子が増えたんけ?」


 ウィル爺さんの元気な姿が見れて安心したけど、こんな調子だったりする。

 個人認証カードよりも貴族の服を着て歩いたほうが、分かってもらえるかも知れないが、それはそれで何かの仮装だと思われそうな気がする。

 ディアーナの紹介ついでに、王都にも妹たちがいると言って驚かせ、詳しい話はまた今度と約束し、お土産を渡して次の場所へと向かった。


 マーリーさんは、元気過ぎるほど元気だった。

 メイプルたちを見るなり、無事を喜び、思いっきり抱き締めた。

 お店のほうは、外見はあまり変わったようには思わなかったけど、内装はきらびやかになり、商品が増えて隙間がないほど詰め込まれている。

 できれば、もう少し落ち着いた雰囲気のほうがお客も入りやすそうだけど、これはこれでマーリーさんらしいのかも知れない。

 増えたのは商品だけでなく、奥の工房を増築し、お針子さんも増やしたらしい。


「そうそう、ハルキ、王都のほうが大変なことになってたって聞いたんだけど、大丈夫だったの?」


 どうやら、この辺りは何も起こっていなかったらしい。

 それにしても、すごく答えにくい質問だ。

 まさか、毎日のように悪者に襲われ、幽霊や魔物、強化魔導人形や剣術の先生と戦った……だなんて、間違っても答えられない。


「見ての通り、みんなで無事に帰って来たよ」


 そう答えて、微笑んだ。




 領主の館があるミレンスに向かう馬車の中で、家が無くなったことをフェルミンさんに報告した。

 すると……爆笑された。


 俺自身、絶望から立ち直ったら、こんなことが起こり得るのかと笑ってしまったぐらいだから、気持ちは分かる。


「でもぉ、良かったじゃない。これで~、好きな場所にぃ、好きな家を、好きなように建てれるでしょぉ?」

「家を建てる?」


 そんな無茶な……と、思ったが、真剣に考えたほうがいいかも知れない。

 領主の館にみんなで住むことが許されるか分からないし、ミレンスに住むとなったら、あまりウラウ村へは行けなくなりそうだ。


「たしか、フェルミンさんも領主さまでしたよね。全然戻ってないみたいですけど、向こうの仕事とか、どうやってるんですか?」

「私は~、優秀な方々にお任せよぉ。でも、ちょっと仕事が溜まってたからぁ、今はフィーリアに頑張ってもらってるわ~」


 なるほど、しばらく風精霊(フィーリア)の姿が見えなかったのは、領地に戻って仕事をしていたからなのか……

 フェルミンさんの仕事でしょ? ……とは、口が裂けても言えない。

 たぶん俺も、メイプルやみんなに頼ってばかりになりそうだ。


「そうねぇ~。様々な分野のぉ、スペシャリストを育てなさい。領主になったからって、ぜ~んぶを自分でやろうと思ってはダメよぉ? 自分が楽をしたければぁ、信頼できる~スペシャリストを育てる事ねぇ」


 ありがた過ぎるお言葉だ。

 本当に、領主をやってたんだって分かり、改めて尊敬する。


「そういえば~、王都を出る前にぃ、あの筋肉ラリーゴと戦ったんだってぇ?」

「……ラリーゴ?」


 筋肉はともかく、ラリーゴってなんだ?


「お猿さんのぉ、狂暴でおっきなの、なんだけどぉ。ポーラちゃんのことよぉ」

「あっ、ヴァンギッシュ先生のことですね。はい、お手合わせして頂きました」


 ポーラちゃんなら分かる。

 正しくはポーラ・ヴァンギッシュという名前の先生だ。


 見るからに筋肉の塊で、身体にはいくつもの傷痕が残っている大柄の女性。

 すごい剣士だったらしいけど、左腕に大ケガを負って一線を退いたらしい。

 日常生活に不自由は無いらしく、本人はまだ戦えると戦意も旺盛なのだが、王さまの命令で学院の教師をしている。

 見た目通りの歴戦の猛者なのに、可愛い名前だからと、生徒からもポーラちゃんと呼ばれているのだが、本人も気に入っているのか注意も訂正もしない。


 俺は法術部なので、あまり本格的な戦闘訓練には参加していないけど……

 召喚術が上手くいかず落ち込んでいた時、気分転換にと剣技を中心に様々な戦闘技術を教わった。授業とは関係なしに。

 どうやら俺は、素直で筋がいいらしく、何だか気に入ってもらえたようで、出会えば何度も気分転換にと誘われた。

 特に褒められたのは、危険に対して敏感なところらしく、戦いにおいては大切な要素なのだそうだ。

 何度も剣術科への転科を勧められたけど、俺の事情は特殊なので、断った……という経緯があった。


「それはぁ、災難だったわねぇ。結果は~、聞かない方がいいわよねぇ」

「負けと引き分けですよ」

「引き分けぇ? どんな勝負だったのぉ?」


 ヴァンギッシュ先生と引き分けたと言われれば、誰もが驚くだろう。

 だけど、引き分けたのは……




 王都を出る前に、王立学院の研究員となった召喚人グリーン(メイプル)の紹介を兼ねて、お別れの挨拶に行った時だった。


 学生と変わらない年齢の召喚人が、研究員としてやってきたのだから、好奇の目で見られても仕方がない。

 中には、遊び場じゃないと本気で腹を立てる人もいたが……

 あまりやり過ぎるなよ……と注意したにも関わらず、グリーン(メイプル)は相手を完全に言い負かしてしまった。……筆談で、だが。

 心配する俺に、あっけらかんとメイプルが言い放つ。


『大丈夫ですよ、お兄さま。あれはまだ、あの人の小手調べですから』


 その言葉通り、相手はグリーン(メイプル)に興味を持ち、次々と質問をぶつけてきた。

 その全てによどみなく答えを返すと、拍手が沸き起こった。


 その帰り、リリーベルを見かけたので挨拶をしていると……


「よお、ウォーレンじゃないか」


 ヴァンギッシュ先生が声をかけてきた。

 学生時代の時から変わらない……いや、さらに鍛えられた感じすらある、見事な肉体と動きだ。


「ご無沙汰してます。ヴァンギッシュ先生」

「いい男になったじゃないか。どうだ、ひとつ手合わせしていくか?」


 いい男といっても、色っぽい話ではない。

 この先生の基準は、戦闘能力だ。

 もちろん、ただの挨拶だろうし、俺もそんなつもりは無かったのだが……


「そういえば、試験の時も戦ってたよね」

「いや、あれは……」


 そんなリリーベルのひと言で、先生が興味を持ってしまった。


「ほう、それは楽しみだな」


 俺自身、ほとんど戦っていない。それどころか足を引っ張っただけだ。

 とはいえ、学生の時の俺ではないってところを見せたいし、自分の実力を見てみたい気持ちもある。

 心配そうに見つめているグリーン(メイプル)には悪いが……


「わかりました。それでは、お手合わせ願えますか?」

「ああ、手加減なしで、存分に戦い合おう」


 いやいや、先生が本気になったら、俺なんて一瞬で……


「はい、ハル兄」

「いや、シア、悪いが今回、それは無しだ」

「うん、分かった。ハル兄、がんばって」


 いつもの木刀を渡してきたシアだが、さすがにシアの能力向上を使うのは卑怯だろう。

 そう思ったのだが、目ざとく感付いた先生が、面白そうに笑った。


「なんだ? 奥の手があるなら、使っても構わんぞ」

「いえ、せっかくですけど、今の俺で、どこまで通用するのか知りたいですから」


 すぐ近くの空き地で、演習用の木剣を構えて対峙する。

 俺にとっては懐かしい場所、それに懐かしい感覚だ。


 来る……いや、フェイント?

 こっちか!


 迷わず踏み込み、剣で受ける。


「ほう、今のを受けるか。ならば!」


 三連撃のうち二つを弾き、残る一撃を後ろに飛んで避けるが……


 早いっ!


 追撃を横に転がりながら避けつつ、背後から追いすがる剣を肩越しに受け止め、横へと受け流す。

 一瞬泳いだ相手の剣だが、そこからこちらへと向かって来るのは予想済みだ。

 後ろに下がっても、踏み込んだ強い一撃が来るだろう。

 だから、あえて前に踏み出しながら、無防備な脇腹に拳を叩き込んだ。


「なっ!?」


 確かに一撃が入った。だが、それだけだ。

 有効打を与えるまでには至らない。


 そのまま俺は、先生に抱き付かれ、関節を極められ、ギブアップした。


「勝ったと思ったのに」

「あの程度の打撃で、どうにかなるような鍛え方はしてないからな。だが、もし短剣でも隠し持っていたのなら、引き分けだっただろうよ。刺された瞬間、首をへし折るからな」


 相変わらず、恐ろしい。


「思った通りだ。ウォーレン、強くなったな」

「ありがとうございます」

「さあ、次だ。さっきの奥の手を、使ってみる気はないか? もしかしたら、勝てるかも知れんぞ」


 強い相手と戦いたくて仕方がないようだ。

 さっきのも、俺がどんな動きをするのかと、様子見をしていた感じがあった。もし先生が本気なら、俺が何かをする前に、動きを封じられていただろう。

 

「はい、ハル兄」


 すかさず木剣を渡してきた。それに、手首に腕輪が現れた。

 どうやらシアも、興味津々らしい。

 ……というか、シア自身が戦いたくてうずうずしているようだ。


「あっ、その髪……。その子ですよ。小さいのにすっごく強い女の子」


 ちょっと、リリーベルさん?


「ほう、それは興味深いな。よし、二人まとめてかかってこい」


 あ~あ、ほら、目を付けられた。


 木剣を肩に担ぎ、先生は挑発するようにクイクイと笑顔で手招きをする。

 シアはやる気満々だ。

 だが、俺の指示を待っている。キラキラと瞳を輝かせて……


 俺は大きくため息を吐いて、頭を掻く。


「仕方がない。これはあくまでも模擬戦だからな。勝ち負けを競うんであって、命のやり取りじゃないからな」

「うん、分かった」


 シアが満面の笑みを浮かべて、大きくうなずいた。




 先生は本気だったし、途中までは互角だった。

 だが、やはり足を引っ張ったのは俺だった。

 そりゃそうだ。達人二人の戦いに、明らかに格下が混ざっているのだ。


 シアが大きく弾き飛ばされたその隙に、本気になった先生の攻撃が俺を襲う。

 能力向上のおかげで、なんとか凌いでいたが、疲れが足に出てしまった。

 足を滑らせ、よろけたところを、思いっきり蹴り飛ばされた。


 そのまま俺は宙を飛び、倉庫の壁をぶち破る。

 全身の激痛に耐えながら、大丈夫だと、念のために念話で伝えたのだが……

 その光景を見たシアは、静かにぶち切れた。


 何とか身を起こし、グリーン(メイプル)とリリーベルに助けられながら倉庫を這い出ると、異様な戦いになっていた。

 狂気すら感じる笑顔の先生と、感情が消えて真顔になったシアが、目では追えない素早い剣さばきで戦い続けていた。


『お兄さま。シアちゃんに強化を十五で』


 つい反射的に従ってしまったけど、いいのだろうか。

 俺の力を注ぎ込むと、応えるようにシアの動きが変わった。

 今まで正面から真っ向勝負していたのが、機動力を生かした一撃離脱に。

 木や壁、この場にあるあらゆるものを利用して、先生を攻め立てる。


 こんな相手に、俺の実力を試したい……だなんて、とんだ思い上がりだった。

 一撃を入れて勝った気になっていた自分を、殴り飛ばしてやりたい。


「やめんか、バカモノ! こんな場所で、何を考えておる!!」


 そこへ、怒声が響き渡った。

 いつの間にか生徒たち(ギャラリー)が集まっていて、その中に学院長の姿があった。

 二人が動きを止めると、まるで暴風が過ぎ去った後のように、空き地が荒れ地になっていた。

 そして、裂けるように折れた木が、メキメキと音を立て倒れた。




 フェルミンさんが爆笑している。念話で。


 あれほど疲れた様子で、肩で息をするシアは初めて見た。

 また、いつか戦おうと握手を交わす二人を見て、学院長の怒声が再び響き渡り、先生が大人しく説教を受けていたと話したら、フェルミンさんが再び爆笑した。


『あの、筋肉ラリーゴがぁ、大人しく怒られてたって~。それは是非ぃ、見たかったわぁ~』


 何か因縁でもあるのだろうか。

 ひとしきり笑った後、そうそう、学院っていえば……と、一斉検挙後のことを教えてくれた。


『ハルキ~、試験の時に侵入してきた奴ら、いたわよねぇ』

『はい。それが何か?』

『あの連中の目的がぁ、分かったわよ~』


 なんでも、フェルミンさんが言うには……

 犯人たちは、王立学院の中で、様々な極秘の研究がされていると思っていたようだ。とはいえ、これはあながち間違いではない。

 実際に、数多くの研究が行われている。


『それがねぇ、連中ってば、アムリタの生成に成功したって思っててぇ……』

『アムリタ? なんですか、それ?』

 

 甘露神水(アムリタ)は、甘い液体で、苦痛を鎮め、飲めばたちまち元気になり、寿命も伸びると言われている、伝説の甘露水……らしい。

 もちろん、そんなものが学院で作られているだなんて話は、聞いた事がない。

 

 それはそうだ。

 いろいろと資料を調べたら、どうやらそれは誤解……というか、相手の勘違いだったらしい。


『たぶんって話なんだけどぉ、活性補水(アクリネ)とぉ、新ブレンドのスパイシーカリーの情報がぁ、変な風に混ざりあって~、甘露神水(アムリタ)なんてとんでもないものになったんだって~』

『それは……、本当にとんでもないですね』

 

 活性補水(アクリネ)は、疲れた時に水分を効率よく吸収できるよう調整され、塩分や糖分、他にも様々な栄養が配合された飲料水だ。

 そして、スパイシーカリーは、数多くの香辛料(スパイス)を組み合わせた、学生にも人気の食べ物で、冗談で「神の食べ物」なんて呼ばれていたりする。

 

『そのせいで、試験が邪魔されたのか……』

『そうよねぇ。それを聞いてぇ、一気に力が抜けちゃって~。そんなお馬鹿な勘違いをする国なんてぇ、滅んじゃえ~って思ったわよぉ』

 

 フェルミンさんが言うと冗談に思えない。

 なんとなく、気分次第で一国を滅ぼしたとしても不思議はなさそうだ。

 そんな事を思って笑っていたのだが……

 

 まさかその後、サンクジェヌス帝国で内乱が起こるとは……

 この時の俺たちには、知る由もなかった……


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