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俺の召喚体(いもうと)たちが優秀(やり)すぎる!  作者: かみきほりと
幕間挿話 その二

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121 帝国の野望と大陸暦

 平和が訪れたオースフィア大陸だったが、八百年が過ぎ、再び魔物に襲われた。

 それまでも、魔物は何度となく目撃され、討伐されてきたけれど、一時期に相当な数の群れが、それも各地で一斉に湧いて出るなんてことは初めてだった。

 魔物の大侵攻なんてものは、遠い過去のものだと思われていたので、世界は大いに動揺し、狂乱の中へと落ちていった。




 マリーさんは言葉を切ると、大きく息を吐きながら、新しい紅茶で喉を潤す。

 俺とメイプルもカップを手に取り、心地よい温かさと、仄かな甘みと渋みに加えて、鼻に抜けるフルーティーにして爽やかな香りを楽しむ。

 その姿を見ていたマリーさんは、満足げにうなずくと、再び口を開いた……




 人々が大混乱に陥ったのにはワケがあった。

 本来、大侵攻は、陸続きになった北東部、地獄門(クリフゲート)を超えて侵入してくるものだと思われていたのだが、今回は内陸部や南部の方でも唐突に魔物が出現した。

 当時は、恐らく地下に潜んで、密かに力を蓄えていたのだろう……なんてことが言われていたが、その真偽は定かではない。


 とにかく、各国は協力して魔物に対処しようと動く。

 西方に位置する、ドメア王国、ウォルナーダ国、ラスフォール国、オーミリカ国は、恭順の意を示してキュリスベル王国に併合された。

 ただ、西の島国であるカンネド国は、独特の風土を持つ国で、無関係を貫いた。

 大陸中北部はフレスデン王国に、中央部はオース教国が拡大しギムナ皇国に、中南部はジェヌス王国が拡大してサンクジェヌス帝国になった。さらにその南は、南部諸国連合としてまとまった。

 東北部はゲイルターク王国に、東南部はメルリーバ王国にまとまったが、最終的にはメルリーバ王国を吸収したゲイルターク王国が、東部全土を支配下に収めた。


 ちなみに、ジェヌス王国に関して補足すると、現在のサンクジェヌス帝国では、公式に「ジェヌス帝国」と称しているが、当時の公文書には、しっかりと「ジェヌス王国」と書かれていたりする。


 ようやく人類が魔物に対抗出来得る体制を整えた頃、サンクジェヌス帝国は領土拡張に乗り出す。

 真っ先に南部諸国連合が狙われ、続いて、ギムナ皇国、フレスデン王国を併合。

 その余勢を駆り、キュリスベル王国が支配する旧オーミリカ領、ゲイルターク王国が支配する旧メルリーバ領にまで侵攻。その上で、世界は一つになるべきだと訴え始める。

 暗に、我らこそが大陸の盟主だと主張したわけだ。


 それに真っ向から対抗したのが、ゲイルターク王国だった。

 即刻、旧メルリーバ領の奪還に乗り出した。

 さらに、呼応して独立の狼煙を上げたのが、フレスデン王国とギムナ皇国。加えて、旧南部諸国連合領でも、獣人王国ワンダーテイルが建国され、サンクジェヌス帝国と争った。


 キュリスベル王国は、人々が争っている場合ではないと、旧オーミリカ領の奪還には乗り出さず、魔物討伐に全力を注いだ。

 そうして、魔物の群れが鎮圧された頃には、現在の国境線にほぼ落ち着いた。


 サンクジェヌス帝国にしてみれば、一時は大陸の三分の一を支配したのに、終わってみれば、当初に併合した周辺小国と旧オーミリカ領を得ただけに終わったことになる。

 各国は、不自然な魔物たちの出現が、サンクジェヌス帝国の策略によるものではないのかと疑った。だが、決定的な証拠は出てこなかったという。


「ともかく、それを機に、共通の暦を使うことが決定したのですわ。それが、オースフィア大陸暦ですわね。もちろん、国内では王国暦の存続の声が強かったようですけれど、一致団結して魔物に対抗していこうという意思を優先したのですわ」


 その言葉で、マリーさんの授業は締めくくられた。


 そして時が経ち、一斉検挙の日を迎えた……




 傍都ベルで魔物の討伐が終わった後、キュリスベル王国の発表によってオースフィア大陸に激震が走った。

 長年に渡る内偵や、第三国の名を騙った破壊工作や犯罪行為の数々。

 その中でも、一番の衝撃は、帝国が魔物を兵器として使用したことだった。


 同様の事件が他の国でも発生していたこともあり、サンクジェヌス帝国は五百年前の事件にも関与していたのではないかと再び疑われた。

 その上で、今回はその再現を狙い、魔物を使って混乱を起こし、再び大陸支配を目論んだのではないかと糾弾された。

 その結果、各国はサンクジェヌス帝国との国交を断絶し、敵と認定した。


 このことで、帝国領の各所で反乱が頻発。

 ついには、旧オーミリカ領が離反を宣言。キュリスベル王国に恭順の意を示し、保護を求めた。

 旧オーミリカ領は、キュリスベル王国に隣接した領地で、サンクジェヌス帝国領の約四割を占める広さがある。

 更に言えば、一度はキュリスベル王国に併合された地であり、それを動乱のどさくさで帝国が奪い取った地でもある。


 ここでも、日頃の行いというものが物を言うのだろう。

 難航するかに思えた併合交渉だったが、さすがに無条件というわけにはいかなかったものの、やけにあっさりと各国の了承が得られた。

 そんなわけで、キュリスベル王国は、新たに南東地方オーミリカを得た。


 そこで、ふと思い当たることがあり、メイプルに訊ねる。


「なあ、メイプル。もしかしてだけど、ディアーナが帝国まで行ってやってたのって……これのこと?」

「……えっと。その……、そんなつもりは無かったんですけど……」


 珍しく、メイプルの答えが要領を得ない。


「……まさか、本当に?」

「いえ、違うんです、お兄さま。帝国領内で不穏な噂が広まり、多少でも混乱が起きれば、他国への侵略を遅らせることができるかと思っただけなんですけど……」

「その薬が効き過ぎた?」

「えっと……たぶん、そういうことになるんでしょうか。私自身、どうしてこうなったのか分かっていませんので……。ごめんなさい」


 ちょっとした意趣返し……なんてことを言っていたけど、少し嫌がらせをするつもりが、こんな結果になった……ということか。


「別に怒ったり、どうこうしようってわけじゃないから、心配しなくていいよ。それに、さすがに、ちょっと噂を流しただけで反乱なんて起きないだろ? たぶん元々、そういう準備がされてたんだと思うよ」

「はい、私もそうだと思っています。オーミリカの人たちは、区別されて帝国の人よりも低く見られていたようですから、不満も溜まっていたのでしょう」

「だったらまあ、何もしなくても、結局はこうなってたんだろうな。それに、もしそれが切っ掛けだって分かったとしても、オーミリカの人たちを救ったんだって、そう思えばいいんじゃないか?」

「そう……ですね。さすが、ハルキお兄さま。すごいです」


 これが他の人の言葉だったら、能天気だと馬鹿にされている可能性を考える必要があるが、メイプルだけに本気で褒めてくれているのだろう。

 いつも苦労をかけているだけに、いろいろと心配だが……

 よかった。メイプルが笑顔を浮かべてくれている。


「あーでも、このことは絶対に、内緒にしておかないとな」

「そうですね」

「まあ、こんな事を話しても、誰も信じてくれないと思うけど……一応、な」

「はい。ディアお姉さまと、ミアお姉さまにも、その様に伝えておきますね」


 サンクジェヌス帝国は、この後、皇帝を勇退させることによって事態を収拾させることには成功した。

 だが、その代償は大きく、大幅に国力と評判を落とした。

 これで、帝国が掲げた野望──大陸統一の夢は、大きく後退することになった。


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