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俺の召喚体(いもうと)たちが優秀(やり)すぎる!  作者: かみきほりと
試験に挑む召喚術士、王都滞在中も奮闘する

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116 来た時よりも美しく

 倉庫の中央部から入り口付近にかけての損傷は酷かったが、奥の方はまだ無事なようだった。

 とはいえ、天井に大穴が空いたのだ。いつ崩れても不思議ではないので、捕らえられた人の救出を急ぐ必要がある。

 黒猫(クロエ)に先導され、奥の方に近い、損傷の激しい側面で立ち止まった。


『兄上、ここの壁を崩すのがよいかと。上部が落ちているので、残った壁を崩して障害物を取り除けば、侵入できると思います』

『そうか。だったら、シア、サンディー、やってくれ』


 バサッとマントを翻し、サッと腕を上げて念話で指示を出す。

 傍から見ると無言なので、神秘的……なのだそうだ。

 黒猫(クロエ)は、隙間から中へと消えて行った。


「ほな、ブラックはん、ウチは他の場所を見てから帰ろう思いますぅ」

「ああ、手間を取らせてすまなかった。この礼はいずれ」


 紅玉の聖法騎士(ディアーナ)()()()へ戻るようだ。

 入れ替わるように、緑の仮面、緑の軽装鎧の少女が空中に現れ、薄衣と肩口で切り揃えられたクリーム色の髪を揺らして、ふわりと着地する。


『メイプル、お疲れさま』

『お兄さまも、お疲れ様です。あっ、ディアお姉さまと、ミアお姉さまに、しばらく二の強化を維持してください』

『そういや、ミア、屋敷に戻ってないんだな。サクヤは平気そうか?』

『ええ、幽霊さんたちもいますし、ちゃんとお留守番をしてくれていますよ』


 ミアが王都を離れるから、様子を見に行ってくれたのだろう……と思ったが、別の理由があったらしい。


『少し、幽霊さんたちと、お話しをしてきたのですけど……』


 まあ、そう言いつつも、ちゃんと様子を見て、一人残してきても大丈夫だと判断して戻ってきたのだろう。


『幽霊たちと?』

『はい。ここの再開発についてです。さすがに、いつまでも立ち入り禁止のままってわけにもいかないでしょうから』

『まあ……そうだな』

『ディアお姉さまのおかげで、清浄な気に満ちた場所になりましたから、いっそのこと、聖堂か何かを建てて聖域にしてしまおうかと提案してきました』

『えっ? それって、幽霊たちが嫌がるんじゃ……』

『そんなことは、ありませんよ。むしろ、(しゅ)のような悪いものが寄って来なくなるので、過ごしやすくなるかと。ちゃんと霊園も作って頂くつもりです』


 念話しつつも、救助の状況は、ちゃんと確認している。

 人ひとり、やっと通れる隙間から、捕まっていた人たちが出てきた。

 比較的、若い女性や子供が多いようだ。


『そっか。いい考えだと思うよ。あとは、幽霊が納得してくれれば……だな』

『まだ興味半分……ってところでしたね。あからさまな反発はありませんでしたけど、もし不満が出てくるとすれば、実際に出来上ってからでしょうね』

『そっか。……そうだろうな。ありがとう、メイプル』


 王都に拠点が出来て、幽霊たちが不幸にならない。

 なんだかんだと、俺が最初に思い描いた方法で……いや、それ以上の形で、落ち着きそうだ。


 白銀の聖法騎士(ガイゼルさん)による、犠牲者を弔う聖句を聞きながら、黙祷を捧げる。

 これでもう、ここも大丈夫だろう。


『ガイゼルさん、フェルミンさん、それに、マリーさんも。本当にお世話になりました。それでは、俺たちは村へ戻りますね』

『こちらこそ、ハルキたちには本当に助けられたよ。キミたちがいなかったら、もっと犠牲者が増えていたし、こうも早く解決しなかったからね。私たちの仲間になってくれて心強いし、感謝するよ』

『ガイゼル閣下に、こうも手放しで褒められますと、何だかこそばゆいですな』

『ウォーレン殿の働きを知れば、皆も絶賛せずにはいられますまいよ』


 変な小芝居を聞かされたフェルミンさんは、やれやれとため息を吐き、封鎖区画(エリア)を出る俺たちを見送ってくれた。




 その道すがら、現場に残っているフェルミンさんに念話を送る。


『フェルミンさん。いろいろと心配をおかけしました』

『い、いきなり、なによぉ』

『俺、ずっと、自分には何もないって思ってました。運も、実力も、才能も、生きる価値も、何もかも。家族から、便利のいい使い捨ての道具にされるしかないって、諦めてました。そんな俺の中に価値を見つけて、救い出してくれたのがフェルミンさんです』

『私はぁ、ただ、召喚術のために……』

『俺にとっては、切っ掛けよりも結果に意味があるんですよ。結果的にフェルミンさんは、俺をあの家から救い出してくれた。今回も、俺にはすごい力があるんだって教えたかったんでしょ? その力を悪い人に利用させないため、俺に身を護る術を授けてくれた』

『そりゃ~、私としてはぁ、召喚術を悪用されると、困るわけで……』

『おかげで、俺には……俺たちにはすごい力があるんだって分かりました。みんなで力を合わせたら、こんなこともできるんだって。だから、まずは、この力をディッケスの人たちのために使おうと思います』


 田舎で作物を作って、余生をのんびり幸せに過ごす……

 俺に何も力がなければ、それでも良かったんだと思う。

 だけど、俺には優秀な妹たちがいる。

 妹たちの力を上手く束ねることができれば、今回の魔物も、俺たちだけで対処できたように思う。

 それが出来なかったのは、簡単に言えば、俺の甘さ、覚悟の無さのせいだと思う。いつか風精霊(フィーリア)が言っていた通り、彼女たちの実力を知り、何が出来るかを考え、上手く任せることが出来れば……

 たぶん、もっとすごい事も出来るのだろう。


 その手始めに、ディッケスの地を豊かにして、笑顔に満ちた場所にしてみたい。


『その決意はぁ、立派だけど~、なんで今、念話でなのぉ?』

『たぶん、今じゃないと、こんなこと、二度と言えないって思ったからですよ。それに、面と向かっては、ちょっと……、言いにくいじゃないですか』

『それだったらぁ、それこそ、次に会う時ぃ、大変なことになるわよぉ?』

『その頃には忘れてますよ。こうして師匠に宣言してしまったからには、領主としても、召喚術士としても頑張らないと。もちろん、農業も発展させていきますよ』

『まあ~、やる気になったのなら~、それでいいわぁ。もし困ったことが起きたら、早めに連絡ちょうだいね~』

『はい、分かりました。ありがとうございました』


 廃墟に向かう時はよかった。

 まだ、フェルミンさんや騎士の皆さんもいたから……

 だけど、帰りは俺たちだけだ。

 なのに、この漆黒の召喚術士(マスターブラック)姿のまま、色とりどりの召喚人たちを引き連れて、街を練り歩くのは拷問に等しい。


 不審者だと思われて通報……は、仕方がないにしても、問答無用で兵士に捕縛されるのだけは、勘弁願いたいところだ。

 そうならないように、一応、宮廷召喚術士のブローチを身に付けているが……




 騎士の詰め所に戻ってきたら、やっぱり身構えられてしまった。


「ふむ、ご苦労。廃墟の件は片付いた。ガイゼル閣下たちが事後処理を行っている。間もなく朗報が届くだろう」


 さすがに、そこまで言えば分かったのだろう。

 俺はともかく、召喚人たちは印象に残っているはずだ。


「あっ、はい。お疲れ様でした。お通り下さい」


 周りの視線を気にしないようにしながら、あえて堂々と敷地内を歩き、小部屋へと入る。

 これでまた、ここで着替えたら、俺が漆黒の召喚術士(マスターブラック)だって丸わかりだよな……と思いつつも、妹たちと共に急いで着替える。

 妹たちも、道具生成(ジェネレイト)なら一瞬で着替えられるが、それ以外の服となると、普通に着替える必要がある。


「今、誰かが来たら、パニックだろうな……」


 苦笑しながら、そんなことを呟くと……

 悪い予感は当たるのか、扉がノックされた。


「失礼します。少し宜しいでしょうか?」

「ま、待って下さい。今、着替えてます」


 俺が何か言うよりも早く、サンディーが声を上げた。


「扉越しで失礼ですけど、ご用件を伺っても?」

「あっ、はい。王都より運ばれた荷物の受領書と、積み込むようにと指示されていた荷物の確認をと思いまして」

「はい、わかりました。用意が出来次第、伺わせてもらいますね」

「分かりました。お忙しいところ、失礼致しました」


 足音が遠ざかり、安堵の吐息を漏らす。

 俺に見られても恥ずかしがらないのに、やはり他人だと恥ずかしいのか、なんだか凄い光景になっていた。

 その中で、俺とシアは、淡々と着替えていたが。


「あー、メイプル慌て過ぎ。前と後ろが逆に……。ほら、こっちにおいで」

 

 どこかに引っかかって脱げないのか、前も見えない状態なので、こっちから迎えに行き、ちゃんと着せ直してあげる。

 朝の弱いメイプルを時々着替えさせているので、慣れたものだ。

 

 それにしても思う……

 

「ちょっと、国家試験を受けに来ただけ、だったんだけどな。なんで、こんな大変なことに……」

「ごめんなさい、お兄さま。私がもう少ししっかりしていれば……」

「あー、前に言ったけど、メイプルのせいじゃないって。誰のせいって言ったら、サンクジェヌス帝国のせいなんだけど、思わぬ大掃除になったなって」

「そうですね。でも、来た時よりも美しく……は、旅の常識ですよ?」

「いやまあ、そうだけど。でもそこに、悪党の掃除は入ってないだろ?」

「そのはずなんですけど、かなりキレイに掃除できちゃいましたね」

「そうだな」


 できれば、二度とこんな事が起きて欲しくないよな……と思いつつ、少しだけメイプルが笑ってくれたので、この話題はここで打ち切ることにした。

 


 

 サンディーから、荷物の確認が終わったと報告を受ける。

 

「それじゃあ、忘れ物はないな?」


 やり残したこともないはずだ。

 強いて言えば、なぜかここ数日、風精霊(フィーリア)の姿を見なかったことぐらいだろうか。

 最後に挨拶をしたかったけど……


 御者は俺が務め、隣には当たり前のようにシアが座る。

 客車に、サンディー、メイプル、クロエの姿があるのを確認し、軽く手綱を振って歩かせる。


「お世話になりました」


 そう告げ、詰め所を離れると、時間をかけて正門から傍都ベルを出た。

 ウラウ村の農夫、ハルキ・ウォーレンとして。


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