113 勝てると思った瞬間が、一番危ないのですよ
シアにお願いして、武器を別のものに変えてもらった。
さすがに、この姿で木剣というのは風情に欠ける。
細剣だと胡散臭さが増して良さそうだが、あれは殺傷能力が高過ぎて、どう頑張っても相手を無傷で……とはいかないだろう。
やはりステッキか、それとも槍か……いや、穂先のないこん棒のほうがいいだろうか……などと悩んでいると、シアが見事な武器を生み出してくれた。
見た目はステッキだが、俺の意志で身長サイズのこん棒に変化する。
長得物の扱いもそれなりに自信があるので、無様な事にはならないだろう。
そうこうしている間に、ガイゼル閣下率いる騎士隊が倉庫を包囲する。
この中に、死霊術士と、魔獣使いがいるのは間違いないだろう。
残る一人は、いかにも偉そうらしいから、魔獣を持ち込んだ首謀者なのかも知れない。なので、仮に首領と呼ぶことにする。
ついでに、死霊術士をネクロマ、魔獣使いをモンテマと略すことにした。
「騎士諸君は、被害が市街に及ばぬよう、敵を封鎖区画から出るのを阻止せよ。これは厳命である」
ガイゼル閣下の指示に、騎士たちが一糸乱れぬ動きで敬礼をする。
それを少し離れた場所で見ていると、屋敷の中のメイプルから連絡が来た。
『お兄さま、準備が整いましたので、ディアお姉さまをここへ呼びますね』
『ああ、そうだな。幽霊たちのこともあるからな』
『では、行ってきます』
どこへ……と聞こうとしたら、グリーンの反応がミアの屋敷へと移っていた。
ミアは、いつの間にかサンクジェヌス帝国におり、ディアーナの反応がすぐ近くに出現し、イエローと一緒に外へと出てきた。紅玉の聖法騎士姿で……
「では、我ら聖法騎士が幽霊と死霊術士の対処に当たる。ウィッチとブラックは魔獣の対処を願いたい」
「任せてぇ。みんな~、巻き込まれないように、気を付けてねぇ」
えっ? オレも?
思わず表情に出てしまうところだったけど、仮面を被っていて助かった。
「うむ、善処しよう」
出来るだけ威厳を込めたつもりだったけど、どうだっただろうか。
笑いをこらえるフェルミンさんと一緒に、イエロー、シアン、ピンクを引き連れ、白銀と紅玉の聖法騎士たちに続いて倉庫の中へと入った。
倉庫の内部は、広めの通路と、いくつかの部屋に分かれていた。
この先が中心部で、扉が無く、通路と直接つながった部屋となっている。その奥に魔獣の部屋と、攫われた人たちがいる小部屋があるらしい。
見栄えを重視して、全員そろって中に入ったのは失敗だったようだ。
外が騒がしくなり、急いでピンクを向かわせる。
『使役された幽霊たちに、騎士たちが操られているようです』
魔獣を解き放つことは想定していたが、幽霊を使うとは……
この場にメイプルがいれば、事前に察知して対処していただろうし、対応策もきっとあったはずだ。
「アニさま、外の幽霊たちはウチがなんとかしますさかい、死霊術士のほう、よろしゅう頼んますぅ」
「ああ、頼む。イエローも外を手伝ってやってくれ」
一瞬、イエローから不満そうな感情が流れてきたが、コクリとうなずいてディアーナの後を追っていった。
念話で『サンディーなら、騎士を傷つけずに対処できるだろ?』と、フォローを入れておく。
もうすぐメイプルが復帰するだろうし、それまでは俺がみんなをしっかり導かないと……と気合を入れ直す。
すでに奇襲は失敗している。
ならば、相手が行動に移す前に制圧するのが一番だが……
どうやら、ひと足遅かったようだ。
『兄上、敵は魔獣を放ったようです。お気を付けください』
ピンクからの報告は、ガイゼルさんとフェルミンさんにも届いている。
中心部へ入る寸前、シアンは背中に生み出した大剣を手に取って、前に出ると同時に斬撃を放つ。
ガギッと激しい音が響き、魔獣の突進を受け止めた。
その横から、黒狼が襲い掛かる。
見るからに醜い生物だった。紫と緑のまだら模様で、不自然且つ、不規則な瘤に覆われた皮膚。その所々から角のようなものが生え、足が三本、腕が二本、口は腹にあたる部分にあるようだ。
そこでようやくメイプルが、こちらの現状を把握できたのか、細かな指示が送られ始めてきた。
『シアちゃんに強化を二。ディアお姉さまには三をお願いします。ごめんなさい、お兄さま、遅れました』
『いや、見えない場所からだけど、いけるか?』
『はい。もちろんです』
メイプルは、遠く離れた場所、それもこちらの様子が見えていない状態で、こちらから送られてくる情報を元に様々な可能性を推測し、最適な方法を選んで指示を出そうとしている。
これは、今に始まったことではなく、偵察などで普段から行っていることらしいが、瞬時の判断が求められる戦闘で、こうして完全に見えない状態でというのは初めてだ。
だからといって、俺が特別に何かをするというわけではない。報告なども、他の妹たちがやってくれている。
『クロエちゃんに一瞬だけ強化を六。カウント三、二、一、はい。じゃあ、その魔獣はフェルミンさんにお任せして、お兄さまはシアちゃんと、魔獣使いを無力化して下さい』
『わかった』
死霊術士や操られた幽霊たちと戦う白銀の聖法騎士の横を抜け、その奥にいる、ローブ姿の初老の男へと向かう。
『気を付けて下さい。勝てると……』
メイプルからの警告と、俺が気付いたのはほぼ同時だった。
そして、シアがそのまま突っ込もうとするのが見え……
この一瞬、俺に神が舞い降りたのだと思う。
たぶん、同じことをもう一度やれと言われても、出来ないだろう。
『シア、俺の所へ跳躍だ!』
手にしたステッキを床に突き立て、こん棒に変化させつつ、その勢いを借りて大きく飛び上がり、同時にシアへと念話を飛ばす。
俺の下を魔獣が通り過ぎ、俺のさらに上に出現したシアンが、落下しつつ魔獣使いを蹴り飛ばす。
先に着地した俺は、何とか転ばないよう、こん棒で身体を支え……、その横に、勢いを殺すように床を削りながら、シアンが寄り添うように着地した。




