108 裏技を利用した内緒の連絡網
硬貨に混ざって紙らしきものも散らばっているが、すでにボロボロで、触れただけでも崩れそうだ。
足元に転がっていた金貨を拾う。
それを、俺に抱えられたままのサクヤが、興味深そうに見つめる。
「お金……ですね。ここは蔵でしょうか。この家に、このような場所があったのですね。よろしければ、全てハルキに差し上げますわ」
「気持ちはありがたいけど、これ、かなり昔のお金だよね。それにここ、たぶん……だけど、昔の王族の家で、その蔵にあるお金だから、王様に返したほうがいいと思う」
「ハルキにお任せしますわ」
いつの間にか隣に立っていたメイプルに、金貨を渡して見てもらう。
「初めて見るお金ですね。古物や骨董品はあまり分からないで……。ごめんなさい、お役に立てなくて」
「いや、謝る必要はないよ。メイプルでも分からないってことは、やっぱり個人で持ってても仕方がないってことだから。フェルミンさん、お願いできますか?」
フェルミンさんの手で、王宮に届けてもらおうと思ったのだが……
「ハルキも~、宮廷召喚術士よねぇ? だったら、いい機会だしぃ、ちゃんと手続きをして王宮に行ってみるのも、いいんじゃない?」
やんわりと断られてしまった。
フェルミンさんの言いたいことも分かるし、たぶん新米の特命官への教育も兼ねているだろう。
王都を出る前に、その手続きやら作法やらを、教えてもらっておいたほうがいいのは間違いないけど……
ちょっと前までは、ただの平民だったのだ。そんな俺が王宮に入るだなんて、畏れ多いにも程がある。
「でしたら、今回は、フェルミンさんの付き添いってことで……」
「あー、ダメダメ~。付き添いは私よぉ? 大丈夫、ちゃんと手助けはしてあげるからぁ、ハルキだけで面会の予約とか謁見とかぁ、ひと通りこなしなさい。それに、これって大手柄よぉ? チャンスなんだからぁ、がんばりなさいよ~」
みんなの為になるのならば頑張るが、正直なところ、俺はあまり手柄とかには興味がない。
それどころか、役立たずとして、特命官から解任されてもいいと思っている。
もしこれが何かの功績になるのなら、フェルミンさんに引き取ってもらいたいぐらいなのだが……
「今までお世話になったお礼です。フェルミンさんの手柄にしてください」
「ハルキの妹さんが、手に入れた建物でぇ、昔のお金が出てきましたぁって、私が報告するのって、おかしいわよね~?」
「そんなの、悪霊退治をしたら見つかったってことにすれば……」
「それなら~、ディアーナが届けないと。でも、そのマスターはぁ、だ~れ?」
うっ、と言葉が詰まる。
どうあっても、フェルミンさんは、俺に届けさせたいようだ。
「そんなに不安がらなくても平気よぉ? ちゃ~んと王様に会わせてあげるわ~」
「王様に? 王宮に届けるだけでいいんじゃ……?」
「ちゃ~んと、王様にご報告しないとね~」
余計に不安が増した。
特命官は『国王直属特別任命官』の略称だから、王様に報告するのが筋なのだろうけど……
いや、俺たちはフェルデマリー王女の直属だったはず。
「だったらマリーさんに……」
「それよりもぉ、ハルキ~。どうしてさっき、地下室って分かったのぉ?」
強引に話を逸らされてしまった……ような気がする。
つまり、これ以上抵抗しても無駄なのだろう。
「どうしてって……。たぶん、念話が下から聞こえた気がしたから……?」
それを聞いたフェルミンさんが、なんだか呆れたようなめ息を吐くと、キッパリ厳命する。
「そうねぇ。ハルキはぁ、いついかなる時、どんなに遠く離れていてもぉ、みんながどこにいるのか、分かるようになりなさい。こう~、頭の中に地図を思い浮かべてぇ、みんなが移動してる様子や、買い物をしてる様子なんかを~、感じ取れるようにならなきゃ、ダメよ~」
詳しく話を聞くと……
召喚体がどこにいて何をしているのかを把握するのは、召喚術士として当たり前のことで、基礎中の基礎らしい。
……というか、まさか俺が、そんな事もできていないとは思っていなかったようだ。だが、少しは感じ取れていることも分かった。
フェルミンさんの試みが上手くいかなかったのは、俺がその目印の位置を正確に把握していなかったことが原因らしい。
メイプルが仲介することで、なんとか俺に念話が届いたが、それだと不便極まりないので、早急に俺は、みんなの位置を正確に把握できるようにならないといけない。……と、いうことだ。
それも、どれだけ離れていても、相手のしていることが分かるぐらいに。
だったらそれまで、その遠見の鏡を村で使えば……と思ったのだが、その鏡の有効範囲は狭く、王都の半分ぐらいが限界らしい。
だが、目印と組み合わせれば、俺が村に戻っても、精神経路を通じて念話ですぐに連絡ができるようになる。
これは、フェルミンさんが偶然発見した、内緒の裏技らしい。
ちなみに、あの鏡はマリーさんやガイゼルさんとも繋がっているらしく、俺が目印の位置を正確に把握できさえすれば、二人とも念話ができるようになるようだ。
マリーさんなら、ブローチに合図を送ってくれればいいようなものだが、あれだと履歴が残るらしく、公な用事以外で使うには不向きなので、基本的に念話で連絡がくると思ったほうがいいらしい。
あと、目印に使った薬液の作り方は、メイプルやサンディーが知っているので、ウラウ村にもちゃんと設置するようにと、これも厳命された。
「ありがとうございます。フェルミンさん。お礼にこのお金を……」
「ちゃんとハルキが届けなさいねぇ」
どさくさに紛れて旧貨幣を押し付けようとしたが、失敗した。
「それでは、お兄さま、このお金を新しい箱に詰め替えますね。紙のほうは、出来るだけ私の方で目を通しておきます。王家に関わる資料でしたら、王宮に届けたほうがいいと思いますけど、万が一、サクヤちゃんにつながる資料がありましたら、適切に処理しておきますね」
「適切に……頼む」
どう適切に扱うのかは分からないが、信じて任せよう。
「だったら、私がその箱を用意してくるね。メイプル、大きさはどのぐらいがいい?」
方針が決まったので、とりあえず……
「じゃあ俺は、サクヤを部屋に送ってくるよ」
名前を呼ぶまでもなく、とてとてとシアが付いてくる。
二人を二階中央の部屋に送り届けて、声を掛ける。
「シア、サクヤのこと、頼んだぞ」
「うん。ハル兄、任せて。妹の面倒はシアが見る」
なんとも頼もしい限りだ。
「サクヤも、何かあったら遠慮なく言ってくれていいからな。退屈だ―とか、甘いものが食べたーい、とかでも何でもいいぞ」
「ええ、ありがとうございます。ハルキ」
くすくすと笑っている。
早く馴染んでもらえるといいなと思っているが、この様子なら大丈夫だろう。
再び地下へと戻った俺は、硬貨をより分けながら、みんなの位置を把握する特訓を、試行錯誤しながら頑張ることにした。




