107 みんなの居場所
メイプルからの連絡を受けて、サクヤを抱えて屋根裏中央部屋へと戻ると、先に跳躍したミアとサンディーが待っていた。
さらに、目の前に、シアが現れ、フワリと着地する。
俺にも使えたらいいのに……とは思うが、それは考えても仕方がない。
それよりも……
「フェルミンさん、それは? 鏡のようですけど……」
姿見には小さすぎるが、それでもひと抱えほどもある大きさの鏡だった。
フェルミンさんが持ち込んだのだろう。
壁に立てかけられた鏡の前で、腕組みをして考え込んでいる。
「あー、ハルキ、戻ってきたのねぇ。これは遠見の鏡よぉ。これとそれとを組み合わせたら、すっごく便利になるんだけどぉ……」
遠見の鏡という言葉は聞いた事がある。だが、実際に見るの始めてだ。
詳しくは知らないが、離れた場所にいる相手を映し出して会話ができるらしい。
それを、目印と組み合わせるとは、どういう意味だろうか。
「悪いけどぉ、ハルキ~、下の降りててくれない?」
「えっ? いいですけど……」
なぜか部屋を追い出されてしまった。
ならばとミアたちも動き出す。
「だったらサンディー、ボクたちも行こうか。どの部屋を何に使うのか決めたいし」
「あっ、だったら、メイプルが欲しがってた書庫はどうかな。私も料理やお菓子のレシピがあると嬉しいし」
そんなことを言いながら、どこかへと行ってしまった。
メイプルが欲しいのは、たぶん書斎のほうだろうな……と思いつつ階段を降りていると、後ろから声が聞こえてきた。
……あっ、あぶない!
「サクヤ、平気? これ使って」
「ありがとうございます、シア姉様」
どうやら二人も付いてきたようで、ふらついたサクヤを支えたシアは、能力向上の腕輪を装着してあげている。
しっかりとお姉さんをしているシアの姿に、少し嬉しくなる。
駆け寄って手を貸したくなってしまうが、そこはグッと我慢をして、気付かないふりをしつつ見守ることにする。
目印が終わり、掃除や片付けも終わったとなると、俺のすることが何も無くなってしまった。
どうしたものかと悩んでいると、奇妙な念話が飛んできた。
『……って、だけど……ルキ、聞こえる~? あれぇ、おかしいわねぇ……』
誰からか分からない雑音のような念話だったものが、徐々にハッキリと聞こえるようになってきた。でもこれは……
『あれ? もしかして……フェルミンさんですか?』
『やっほ~、ハルキ~、聞こえてるぅ?』
『やっぱり、フェルミンさんですよね。聞こえてますよ? ってか、何をしたんですか?』
鏡と目印を組み合わせたら、俺とフェルミンさんが念話できるように?
まさかと思いつつも、そうとしか考えられない。
『なるほどねぇ。上手くいかなかったのも~、無理はないわねぇ。ちょっと、ハルキ~。こっちにいらっしゃい』
追い出したり、こっちに来いといったり、本当に勝手すぎる。
シアとサクヤが二階中央部屋──サクヤの部屋に入ったのを見届けると、再び階段を上る。
たとえ理解できないまでも、何をしているのか説明を聞こうとしたのだが、その前に怒られてしまった。
「あのねぇ、ハルキって、もしかしてぇ、みんながどこに居るのか、全然把握できてないでしょ?」
「えっ? クロエとディアーナは調査で傍都に行っていて、他の子は、全員ここにいますよ?」
「そうじゃなくてぇ、誰がどの方向に、どれぐらい離れた場所にいるか~、全然感じ取れてないわよねぇ?」
そんなこと、できるわけがない……と言いそうになって、口をつぐむ。
できるからこそ、フェルミンさんは、そんなことを言っているのだろう。
だから、素直にうなずく。
「そんなこと、考えたこともなかったです」
「自分の中に、みんなの存在があるのは、分かるわよねぇ?」
「……はい」
召喚した六人だけでなく、サクヤの存在も感じ取れる。
「それと同じ反応がぁ、自分の外側にもあるんだけど。それを感じ取れれば、大体の方向や距離が分かるはずよ~」
「とりあえず、やってみます」
目印のこともだが、こういうのは召喚術士として当然の技術なのだろうか。
みんなを召喚して、国家資格も取って、これで終わりだと思っていたのに、次から次へと新しいことが出てくる。
こんな事は、風精霊から預かった教本にも載っていなかった。
「ハルキ~、ちゃんと集中なさい」
考え事をしていたことがバレてしまったようだ。
再び、自分の中の存在に意識を集中する。
すると、サクヤを含む七人の妹の他に、もうひとつ何かがあるのが分かる。
なんだかすごく弱々しいが、確かに何かがある。
「フェルミンさん。俺の中に奇妙な反応がひとつ混ざってますけど、これって何か分かります?」
「たぶん、それがコレよぉ」
そう言いながら、床を指し示す。
なるほど、これが目印の反応なのか。
次は……自分の外側にある、同じ反応を探す……っと。
そう言われても、どうすればいいのか分からない。
みんなの反応を、もう一度しっかりと感じ取ってみる。
再び外へと意識を広げていく……だが、たた虚無が広がっているようだ。
『兄さん、サクヤさんを連れて、こちらへ来てもらえませんか?』
『ちょっと、お兄ちゃん。これ、すごいよ』
サクヤを連れて?
それに、サンディーも何だか気持ちが昂っているようだ。
「すみません、フェルミンさん。ミアとサンディーが何かを見つけたようなので、ちょっと様子を見てきます」
「どこへ行くのぉ?」
「たぶん、地下室のほうだと思います」
「たぶん……って、なんで~?」
「なんでって……」
場所を言われたわけじゃないのに、地下室に行こうと思ったが、何でだろう。
たしかにそう感じたけど、理由を聞かれると返答に困る。
とにかく、サクヤを迎えに行って抱き上げ、シアと一緒に地下室へと向かう。
「あっ、きたきた。ほら、お兄ちゃん。これ……すごいでしょ?」
喜色満面のサンディーの横で、ミアも大きくうなずく。
元々は木箱に詰められていたのだろう、金貨などの貨幣が雪崩を起こしていた。




