4話目♀︎!
特に何事もなく国境を越えた私とラティス君は、急ぐ旅でも無いのでのんびりと歩いていた。
テントも寝袋も食料もちゃんとアイテムボックスに入っているし、私自身は学校行事程度のキャンプしかした事がなかったのにサバイバル知識がバッチリになっているのよねぇ……
サバイバル知識も常識に含まれている辺りが異世界よねぇ………
「あ、コレは美味しい果物ね。」
「えっ?お姉ちゃん分かるの?もしかして鑑定スキル持ち??」
「いえ、知識として知ってるのよ。」
「流石Bランク冒険者…?」
「なぜ疑問形?」
私はリンゴに似た果物をストームジャベリンを投擲して撃ち落としてラティス君に渡すと、ラティス君は可愛らしく首を傾げた………可愛いわねホントに。
「……あ、美味しい♪」
(コレを狙ってやってるならあざといわよラティス君………)
リコリスをかじって幸せそうに蕩けた顔になるラティス君……
可愛い…けどあざといわよ?
「お姉ちゃんありがとぉ〜♪」
「ホント可愛いわね貴方。」
「えっ!?ありがとう…?」
「………。」
(分かってるわよ、私は既に絆されてるってね。
フラグ回収ありがとう神様!)
〔↑ヤケクソである。そうゆうノリが一番危険だぞクロエ!!〕
(でも、あのキモイ女神が創った世界だとしても可愛いものは可愛いのよね。)
〔↑あ、うん、何だかんだで平行世界の同一人物ではあるんだねやっぱり!?〕
(………この子お持ち帰りしていい?)
〔まて、ラティス君の頭を撫でてご満悦みたいだが既にお持ち帰り状態だぞ、冷静に考えろ、その子はお前が買った奴隷だぞ。〕
(……………………それもそうね。ごめんなさい神様。)
〔あー……うん、ラティス君も幸せそうだから良いんじゃね?
やっぱこの世界の獣人の〖番概念〗は強固だからな。
嫁に好かれてるなら本望だろ、ラティス君も。〕
「えへへぇ~♪お姉ちゃぁ〜ん♪」
頭を撫でる私の手にもっと撫でてとばかりに頭を擦り付けてくるラティス君が可愛いとかもう私はダメね………
〔傍から見たらクールな姉と甘えたな弟に見えるから大丈夫だとは思うがな?〕
私は更に3個ほどリコリスを採取して歩き始めた。
「前に居た国も穏やかな気候だったけれど、こちらもあまり変わらないのね。」
「ウィンドルとミストウェルは気候が近いからね!
友好国同士だから行き来もしやすいし♪」
「…ラティス君、何だか急に元気になったわね?初対面だとオドオドしていた気がするのだけれど?」
(もしかして、既に人格が入れ替わってるのかしら。)
「ん?気のせいじゃないかな!!
それよりお姉ちゃんっ!早く行こうっ♪
ほら、手を繋いでごぉ〜♪」
「やっぱり人格が入れ替わってるわよね?」
〔僕には条件が分からなくなったね!〕
まぁ、悪い気はしないわよ。
今まで…前世では引っ張る側だったから引っ張られる側は新鮮だし。
そして、ミストウェル最初の村の近くまで来たわ。
…国境周辺では警備隊の方々が定期的に魔物の駆除パトロールをしているからか魔物には一切遭わなかったけれど……。
まぁ、居ないわけはないわよね。国境越え後の初エンカウントだわ。
「…狼型の魔物、ね。やるわよ、ラティス君。」
「了解だよ、お姉ちゃん。」
とは言え国境に来るまでに魔物を辻斬りしながらだったから既にある程度の戦闘経験はあるし、レベルは30くらいあるのだけれど。
気配遮断が有能過ぎるわ。
相手が私に気付いた時には既に致命傷だから。
あと、ゲームじゃないので死体は消えないからアイテムボックスへ収納してきたし。
冒険者ギルドに行った時にでも換金するわ。
……それより。
「フッ。」
「ギャンッ!?」
ーラティス君と一緒だし彼の戦いぶりを見たかったからあえて気配遮断は使わずに攻撃に出る。
私は素早くストームジャベリンを発動して魔獣を1体撃ち抜き更にもう1本構えた!
いくら最初から技が沢山使えるチート、とは言え私には派手な全体攻撃は使えない。
だから手数でー
「ハッ!ヤッ!ソレッ!」
「グガァッ!?」
「ギャウッ!!」
「っ…!」
私は立て続けにジャベリンを投げる!投げる!投げる!!
とは言え、投擲レベルは低いし私自身に戦闘経験が足りない……
今投げた3本も1本は外してしまい、どちらにせよ全滅させるだけの槍を用意する技量はまだ無いから当然の結果、残った魔獣達が私達へ殺到してくる……!
私は拳を構えて近接格闘の体勢に移った…
だけど……?
「私の姉様に手を出すな。」
『グギャァァァァァッ!!?』
ラティス君………?
ラティス君が私の前に割り込んで槍で薙ぎ払う様に振り回すと迫ってきていた魔獣が弾き飛ばされた。
そしてラティス君は、私にさっきまでとは違う、クールな印象を受ける笑顔を向けてきた。
「クロエ姉様、ここは私にお任せを。」
そう言ったラティス君は更に魔獣を1匹、2匹と葬り去る………
……もしかして、今人格が入れ替わってる?
あっ、ラティス君の後ろに魔獣が…!
私がその魔獣に殴りかかった時……!
「ー集中。」
「えっ?」
「甘い。」
ラティス君がその魔獣の後ろに転移した!?
〔違う…素早く動いたんだ…!!〕
そのまま、私の拳とラティス君の蹴りに挟まれる形で絶命する魔獣。
「ありがとうございます、姉様。ですが私は大丈夫です。」
「…そのようね?」
「でも、嬉しかったですよ。姉様。」
微笑みながらそれだけ言うとラティス君は再び槍を構え直して残りの魔獣を蹴散らしていく……
あっという間に全滅したわ…………
「ー掃討完了。」
「ありがとうね、ラティス君。」
「…♪」
"褒めて褒めて!"
とばかりに戻ってきたラティス君の頭を撫でると本当に嬉しそうな笑顔になる…
うん、一見クールに見える人格と入れ替わってもやっぱりラティス君なのね?
その事に安堵した私は改めてラティス君の頭を撫でた。
「私もクロエ姉様に頭を撫でられるのが好きですね。
これからももっと褒めて頭を撫で下さいませんか?クロエ姉様…♪」
「ええ、勿論よ。だけど間違った事をしている時は叱るからね?」
「はい…♪」
(……。こっちのラティス君はクールでかっこいいわね?)
〔すっかり絆されてんな。〕
(良いじゃない。私の…旦那様?なんだし。)
〔仮にも女性相手に"旦那様"とかついでに毒されてんな。
まぁ、〖この世界での常識〗のせいなんだろうが。〕
「…あ、村が見えてきたわね。」
「今日はここで泊まるのですか?」
「そうね、まだ日は高いけれど野宿が避けれるに越したことはないし。」
というより、多分国境から歩いてきたら過不足なく到着出来るくらいの距離にこの村はあるのよね。
私は早速宿屋を探して宿泊受付をした。
「ーはいよ、2人部屋ね。
ーおや、人間と獣人という事は2人は夫婦かい?」
「将来的にはそうなりますね。」(まだ出会ったばかりだし)
「将来的にはそうなるわ。」(まだ結婚はしてないし)
「おやおや、仲がいいねぇ。
宿泊は1人1泊銅貨2枚、
水は裏の井戸からご自由に、お湯を使いたければ有料にはなるが温めてあげよう。
食事はここ、1階の食堂兼酒場で朝夕の2回で1人銅貨6枚、必要無ければ食事代を無しにするよ。」
「では食事付きの1泊でお願いします。」
「はいよ!それなら2人で大銅貨1枚と銅貨6枚だ!」
「はい。」
ちなみに、お金の価値は
銅貨<大銅貨<銀貨<大銀貨<金貨<大金貨<白金貨
で10枚で1つ上の貨幣と同じ価値になるわ。
1番安い黒パン1つが銅貨1枚だとして、銅貨3枚だとどんなご飯になるのか………
「まいど、それじゃあこれが部屋の鍵だ。
2階の1番奥、左側にの部屋だよ。」
「分かりました。」
「お世話になります。」
(国境付近の村の割に宿屋の部屋が空いていてよかったわ。)
〔まぁ、国境に用がある人は少ないしな。〕
(なるほど。)
とにかく、部屋に入った私は、早速ラティス君に聞いてみる。
「…それで、今の貴女は別人格よね?
ラティス君…いえ、ラティスさん。」
「ええ、そうですね、
私はもう1人の私。です。」
「どちらもラティス君なのよね?」
「はい、〖ラティス〗呼びで構いません。」
「分かったわ。」
「…隠していた訳では無いですけど、姉様は驚かないのですね?」
「…私は、予め貴女が二重人格だと分かっていたから。」
「…えっ?予め、ですか??
私達の二重人格はスキル化しているとは言え、並大抵の鑑定系スキルじゃ看破出来なかったはず………姉様の前では隠すつもりが無かったので目の前で人格切り替えをしたにしても、予め……となると出会った時には既にご存知だったと?」
「んー…じゃあ、私も未来の夫である貴女に隠すことじゃないから話すけれどー
私は転生者であり異世界の神様が見守っている事、その神様がラティス君が二重人格である事を教えてくれた事をかいつまんでラティスさんに話したわ。
ラティスさんは私が二重人格を看破したこともあってかあっさりとこの話を信じてくれた。
「ーなるほど……つまり姉様は仕方無くこの世界で生きていた、と。」
「そうね、貴女に出逢わなかったら無茶をしていた…かもしれないわね。」
「一見クールな姉様が無茶をするなんて考えられませんが……
「そうかしら…?」
「ええ。」
「…私、貴女と違って結構激情家だと思うのだけれど。」
「いえ、私や表の私に比べたら大分冷静かと。」
「うーん…?まぁ、褒め言葉として受け取っておくわね。」
「はい。それにしても、クロエ姉様に出逢えた私達は幸運です…番というのは中々現れないし、仮に現れても人間だった場合、獣人に嫌悪感を持つ人間だったりもするので。」
クスリと笑ったラティスさんは、
それからおもむろに私を抱きしめてきた…
うーん…既に〖私を選んでくれた獣人である彼女は私の旦那様〗という認識があるせいか、嫌悪感は無いわね。
〔慣れるの早過ぎないか?〕
(…私にも分からないけれど、この世界の獣人ってそうゆうスキル的なものがあるのかしら?)
〔………いや、流石にそんなスキルは無いぞ。恐らくだが、(裏人格の)ラティスはクロエの好みにピッタリだったんじゃないのか?〕
(……なるほど。確かに今の彼…いえ、彼女…?は私の理想の旦那様…かもしれないわね。)
「…ふふっ♪」
「うっ……
「ラティスさん?」
「笑うと尚更可愛いですねクロエ姉様……
「そう…かしら…?」
あー………でも転生前もたまに私が笑うと幼馴染み(♂)が顔を赤らめていた気がするわ。
…何故か幼馴染み(♀)も顔を赤らめていたけれど。
「とりあえず、夕食にしましょ?」
「はい。」
せっかくだからこの世界の料理を食べてみようと思い、食事付きにしたけれど、果たしたてどんな食事が出てくるのかー
「…まさかの和食…焼き魚定食。」
「どうしました?姉様。」
「あ、なんでもないわ。」
食事文化おかしいわよ……いえ、アイテムボックスに和食も洋食も中華もイタリアンもとなんでもあった時点でちょっと察していたけど。
ご飯に味噌汁、焼き魚に漬物……そして箸。
洋風木造建築な酒場でこのメニュー。
何かしら、場違いと言うか、違和感しかないわ。
「「いただきます。」」
うん、ラティスさんも周りのお客さん達も普通に箸で食べてるわね?
女神様、やっぱりあたまおかしい。
〔今更だ、考えたら負けだ。〕
(でも食事は硬い黒パンにスープが主流で、和食が恋しいとかになるのが定番でしょ…?)
〔仕方ない、この世界の場合、ほぼ現代日本と同じレベルの国、〖日ノ国〗があるからな。〕
(なにそれホントにキモイ。)
〔まぁ、日本で作った乙女ゲーの、なんちゃって中世ヨーロッパな世界とかそんな感じの所だと思ってくれ…衛生概念も現代日本並だしな…〕
(……真面目に考えたら頭がおかしくなるやつね、分かったわ………)
ん。この焼き魚、塩加減が絶妙だし脂がのっていて美味しいわね。(現実逃避)
食事を終えて部屋に戻り、生活魔法〖クリーン〗で身体を綺麗にした私達は、
どちらともなく手を繋いでベッドに座っていた。
……なんだか、私もラティスさんも"嫌な予感"がしたのよ。
「…ねぇ、ラティスさん?」
「…なんでしょうかクロエ姉様。」
「私ね、嫌な予感がするわ。」
「奇遇ですね、私もーッ…ぅ……!」
〔ラティスはスキル『絶対不屈』により『耐性貫通即死』効果を歯を食いしばって耐えたみたいだ!
とは言え雰囲気が変わったしもしかしてー〕
返事をしかけたラティスさんが突然私を抱きしめて庇うと、その背に矢が突き刺さ…らなかった!
「っく…スキルで何とか耐えたはしたけど、【即死】が付与されているなんて!!
ひっどいなぁっ!!」
「〖ヒールウインド〗!…まさか、クロム…?」
〔だな。でも奴の耐性貫通攻撃を無効化するラティスはなんなんだよ……〕
「クロム?誰なのその人。」
私が念の為に回復魔法をラティスさん…いえ、表人格のラティスくんにかけながら呟くと、当然、知らない名前が出てきて訝しむラティスくん。
(…どう答えようかしら神様、厳密にどちらが上かはわからないわ。)
〔あの駄女神が贔屓してるから便宜上、あっちが兄だな。〕
(そう、分かったわ。)
「私の双子の兄よ。どうやら私の命を狙ってるみたいね。」
「えっ!?双子なのに!?」
「ええ。」
普通、双子と言えばお互いが片翼な比翼連理になるはずなのにね。
それを聞いたラティスくんは怒りの表情だわ。
「何せ私、前にも言ったけど私を恋人にしようとした兄から逃げ出した訳だし。」
「あ…そうか……逆なんだ、愛し過ぎて自分のモノにならないならいっそ殺してしまおう、って事?」
「多分そうね、本人に直接聞いた訳じゃないから分からないけれど。」
「はぁ………それで?
相手はお姉ちゃんが死んだかどうかを知る術はあるの??」
「…ちょっとまって、神様に訊いてみるわ…。」
(あるの?神様。)
〔ある。クロエがクロムの攻撃で死んだらクロムが1日1回死ななくなるスキルを手に入れるからな。
それ目的でしつこく攻撃してくるかもしれん。〕
「…あるらしいわ、だから私を殺す為にしつこく攻撃してくるかもって……
「はぁ…どうにかならいのかな?」
(何とかならないの?そうなるとこの先、おちおち寝られなくなってしまうわ。)
〔…なんとか、な…スマンが外部神である自分には無理だな。〕
「打つ手なし…ね…。」
「…なら、仕方ない…かな……
「…?ラティスくん??」
ラティスくんはおもむろにアイテムボックスを開くと木の実を渡してきた。
「…これは賭けだけど、お姉ちゃんを人間じゃなくしたらどう?
コレを食べたら…お姉ちゃんは人間としては死ぬ。」
「えっ…?」
「さらに言えば…そうだね、お姉ちゃんに適正のある別の種族に転生するよ。」
「えっ、えっ…??」
いやあの、なんでそんな木の実を貴女が持ってるのよ……?
と、私が思っていると様子で判断したのかラティスくんが説明してくれる。
「コレは獣人の秘薬でね?
番が虫や植物みたいな意思の疎通が取れない生き物で生まれてきた場合や、相手が既に老人だったり、死にかけだったりした時に別の種族に転生させる事があるんだよ。獣人は寿命が長いからね。せっかく番を見つけて両思いになっても早々に死なれたら心が壊れちゃうから。」
「…その救済措置かしら?」
「うん。
今回はせっかく両思いになった番をすぐに殺されそうになってるからね。
これを予め食べておく…あるいはこの実の果汁を身に浴びていると死んだ時に自動的に転生するんだ。」
(だけど、魂は……?)
〔未知数だな、魂その物にアンカースキルを打ち込まれてるから死ねばクロエの魂が破壊される訳だし完全に賭けだ。
僕としては認可出来ない。
が、干渉する力もないからな………〕
と、神様と話してると察知したのか偶然なのかラティスくんは更に続けて言ったわ。
「ちなみに、この実の効果は魂にも作用する強力なアンカースキルだよ。
それも、他のアンカースキルを上書きする最上位権を持ってるんだ。」
「待って、この世界は獣人に対して優遇しすぎではないかしら?」
〔あー…うん。あの駄女神、墓穴掘ったな?
まさかクロエが獣人に寝盗られる、なんて展開を想像してなかったのだろう。
ざまぁ。〕
(寝盗られては無いわよ!!)
〔おんやぁ?でもラティスには惚れてんだろ?〕
(そもそもクロムに対して恋愛感情は無かったわよ!!
だからそもそも寝盗りじゃないわ!!)
〔…おう、そうだな。〕
まったく、失礼しちゃうわね!!
「…とにかく、それなら早い所その実を食べさせてもらうわよ…?」
「うん、それじゃあ…どうぞ、お姉ちゃん。」
「ええ。」
ラティスくんから受け取った実は、見た目は赤い色をしたミカンで香りは甘い。
皮ごと食べるそうなので思い切って齧ると香りに反して苦味が口腔内に広がり、追って甘さが広がった…
恐らく皮は苦いのでしょうけど、それも丸ごと食べないと効果が無いのなら仕方が無いわね。
尤も、食べられない程酷い味ではなかったから無事に食べきれたのだけれど。
「…うん、それじゃあ、今日はもう寝よっか?」
「ええ、賭けになるかもしれないけれど…
とは言え、身体が書き換えられる感覚もしたから大丈夫な気もしているわね。
それでも心細かった私は、ラティスくんをしっかり抱きしめながら眠りについたわ。