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あたし×××、今、あなたの目の前にいるの

 その日、僕はオンラインビデオ通話で彼女に夜の時間を付き合ってもらっていた。少しばかり怖いショートメールがスマートフォンに何通も届くものだから、話し相手が欲しかったのだ。

 「でも本当なの? それってよく聞く“メリーさんの電話”の怪談でしょう」

 彼女はおどけた様子でそう訊いて来た。どうも自分と話したいから僕が嘘をついていると思っているようだ。

 「本当なんだよ。まぁ、イタズラだとは思うのだけどさ」

 信じてくれないのも仕方がないと思いつつ、僕はそう返す。

 

 “メリーさんの電話”というのは、少女が捨てたメリーさんという人形から何度も「あたしメリーさん、今、○○にいるの」と電話がかかってきて、しかもそれが徐々に近付いて来るという有名な怪談系の都市伝説だ。

 オチは大体が最後に電話がかかってきて「あたしメリーさん。今、あなたの後ろにいるの」と告げられる。

 そして、その僕に何通も届いているショートメールには、当にそんな感じで徐々に何者かが近付いて来るかのような内容が書き込まれているのだった。

 ただ、名前の部分は×××となっていて、“メリーさん”ではない。まぁ、僕は人形なんてそもそも持っていないのだけど。

 それを“くらだない”と笑って済ませられないのは、そのショートメールに書き込まれている場所が実際に僕の家の近所だったからだ。イタズラだと思っていても、少しばかり怖い。少なくとも、僕と僕の住所を知っている誰かはいるという事なのだから。

 「で、メリーさん、今はどの辺なの?」

 楽しそうに彼女が訊いてくる。

 「うん。さっき送られて来たのは、直ぐ近くのコンビニにいるって内容だった。そろそろ僕の家に着く頃だと思う」

 「へー じゃ、次が楽しみね」

 「からかわないでよー 本当にちょっと怖いんだからさ」

 そこでメールの着信音が鳴った。×××からだろう。

 そこには『あたし×××、今、あなたの目の前にいるの』と書かれてあった。

 ――目の前?

 僕はそれ読んで不思議に思う。

 ――普通は後ろじゃないのか?

 そこで彼女が「どうだった?」と話しかけて来た。

 僕は「ああ、うん。やっぱりイタズラだったみたい」と返す。目の前にいるのは彼女であって人形でも化け物でもない。ところがそこでスマートフォンの着信音が鳴ったのだった。

 スマートフォンは持ったままだったから、思わず誰からの電話かも確かめないで僕はタップをして電話に出てしまった。

 すると、そこからはなんと今目の前で話しているはずの彼女の声が聞こえて来るのだった。

 

 「あ、ごめん。話し相手になってって頼まれていたのに返せなくって。少し仕事が忙しくってね」

 

 僕は目を丸くする。

 彼女は何を言っているんだ? ずっと話し相手になってくれていたじゃないか。

 そこで僕は画面を見てみた。目の前にいる彼女であるはずのそれは楽しそうにニタニタと笑っていた。電話をしている素振りはない。ならば、このスマートフォンの向こう側にいる声の主は何者なのだ?

 いや、何者なのか分からないのは、スマートフォンの声の主ではなく……

 目の前にいる“何か”は言った。

 

 「あたし×××、今、あなたの目の前にいるの」

 

 ……名前の部分は、ノイズが走ったようになって、上手く聞き取れなかった。

怪談を現代版にアレンジするのって楽しいです。

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