6話 幼馴染
「りょ、寮まで送る」
俺の言葉にみつきは驚き、
「断る」
と言った。
「な、何でだよ」
「君、友だちと一緒だろう。水を差すのは申し訳ない」
本当にそれだけ?何か避けられてないか?
「あー、お、俺他に買い物あったんだった!悪い宗一郎、お前先に帰ってて」
来栖がそう言って店を去る。本当にいいやつだなお前は。
「……」
「……」
さあ、俺の連れはいなくなったぞ。
「とりあえず離してくれ」
「嫌だ。お前逃げるかもしれないだろ」
「……」
「何か避けられてる気がするんだよ。何でだよ。俺がFクラスだからか?」
「違う」
「だったら何で避けるんだよ。俺はお前に会えてすげー嬉しかったんだぞ」
「君に会えたのは僕も嬉しい。でも、再会したくなかった」
「え……?」
「すまない。話は終わりだ」
みつきは放心している俺の手首をつかみ、自分の腕から引きはがした。
「それじゃあ、気を付けて帰ってくれ」
そう言い残し、彼女は店を後にした。
「……」
「……」
「……」
「……えーと、岡本君?大丈夫?」
「何なんだよ!会えたのは嬉しいけど、再会したくなかったって!意味わかんねぇよ!」
「お、落ち着いて。ね?」
「女心ってわかんねぇ!!」
「あー、うん。女心って難しいよね、うん。でも、霧島さんは別に君のことを嫌いになったってわけじゃないと思うんだ私は」
「じゃあ、何でなんですか!」
「うーん、それは霧島さん本人じゃないとわからないけど、今までの霧島さんの行動とか、言動とか振り返ってみたら?」
「あいつの言動……?」
「ま、それでもわからなければやっぱり本人に聞くしかないと思うけど」
「うー。意味わかんねぇ!!」
俺は悶々とした気持ちのまま寮に帰った。
「お。お帰りー。霧島先輩とは話せたか?」
「話せたと思うか?」
「何だよ、せっかく気を利かせて退散してやったってのに」
「わっかんねーんだよ。なんか、会えたのは嬉しいけど、再会したくなかったって言ってて」
「ふーん?それって何か後ろめたいことでもあるんじゃないのか?」
「後ろめたいこと?」
「そう。例えば、お前に黙って彼氏を作った、とか」
「なっ!!何だよ、それ!た、確かに昔、みつきとは親公認の仲だったけど、それは小学生の時で……」
「例えばだよ例えば。ほかに、何か思い当たることないのか?」
「あるわけないだろ……」
俺は、みつきに言われたことを思い出してみた。
ファミレスで出会った時のこと、Fクラスで出会った時のこと、そして今日のこと。
『やっと会えたな。でも、悪い。僕はもう行かなくちゃ』
『何?』
『落ち着け、宗一郎』
『申し訳ないが、それを教えることはできない』
『宗一郎。約束、覚えてるか?』
『……いや、いいんだ』
「約束……?」
ハッとする。
「俺、みつきと約束してたみたいなんだ。それを俺が覚えてなくて、みつき、すげー悲しそうだった」
「なるほど。じゃあ、その約束を思い出せば、もしかしたら霧島先輩と昔みたいに話せるかもしれないってことだな」
「でも俺……何を約束してたんだろ……」
「それは自分で思い出せ。忘れるくらいだから、もしかしたら大したことじゃないのかもな」
「どうだろう」
どんな小さいことだったとしても、みつきに避けられるのは嫌だ。
何としてでも約束を思い出そう。俺はそう心に決めた。